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1話・出会いは再会

今作が初投稿になります。暇つぶしに読んでください。

 つまらない。

 面白いこと全然ない。


 テレビ番組もゲームも動画サイトもとっくの昔に飽き飽きしてる。

 つまんね。マジつまんね。世の中退屈だ。


 いやまあ、この年頃なら仕方ないよね、十六歳だしね、思春期特有のこじらせだね──と言われたら、それまでなんだけど。

 それはそれとして面白くないのは事実だ。

 しかも、面白かった時代があったのが、また退屈に拍車をかけてくれる。



 僕が生まれるずっと前。


 一世紀くらい前までは、世界中で伝説や神話に出てくるような魔物や妖怪がはびこっていたらしい。

 漫画やラノベでよくある話みたいに。


 けど、人類にとってそれはフィクションじゃなくて、生き残りをかけた戦いの日々であり、地獄みたいな時代。

 自分たちの生命を脅かす化け物が、不定期にポコポコ生えてくる。

 たまったものじゃなかっただろうね。

 平和が訪れた年を『悪夢からの開放の年』と呼んでるのもよくわかる。



 そう。



 結論から言うと、この世界は人類大勝利という結果で終わった。

 ただ、終わったんだけど、どう決着したのか。

 それがわからない。


 間違いないのは、ある時を境に、魔物たちの発生がピタリと止まったということ。


 といっても、別に元栓を締めたみたいに急に止まったんじゃなくて、やんわりと発生事例や討伐報告が減っていき、一年後には全盛期の千分の一に近い数値まで低下した。

 そのまま現在まで至っている。

 誰かが発生源を倒したのか。

 封じたのか。

 それとも、一時的な、あるいは半永久的な打ち止めなのか。


 仮説はいくつかあるがこれという決め手はない。

 原因は今も闇の中。

 生まれるの百年遅かったな、僕。


 それからの世界は、平穏そのもの。

 平穏すぎて、魔物退治を生業とする人達がしょっぱい悪霊退治ですら奪い合いするくらい、お仕事が無くなった。


 これはいかん、ということで急ピッチで国際的なルールが設けられた。

 できるだけ死人の出ない決闘。

 そして考案されたのが、現在絶賛大人気の花園(バトルガーデン)だ。

 いいよね、可愛い女の子やキレイなお姉さんがしのぎを削るのって。


 え?


 なんで女性だけかって?


 そんなの決まってるじゃないか。

 今の世の中は女性が強いからだよ。霊的にも、肉体的にも。



 それはそうと。


 僕は、日常を、友達の少ない温和な高校生として過ごす。

 適当に相槌を打ち、話を合わせ、愛想笑いで付き合いをすませて帰宅する。


 気を紛らわせるため、僕は外が完全に暗くなると動く。

 夜行性少年だ。

 運がいいと、雑魚と下っ端退魔士が必死で戦う場面が見れたりするから、楽しい。最近ではそれも飽きてきたけど……。


 あと夜の空気って気持ちいいよね。


「行ってきます」


 父さんも母さんも止めはしない。

 怯えた瞳で、黙って見送る。

 息子が、自分達の理解の及ばない怪物だと気づいてるから。


 外へ出る。


 ドアの閉まる音。カギをかける音。チェーンをかける音。

 それは泥棒対策というより、僕へのささやかな抵抗にも思えた。



 意味もなく電信柱の上に立ち、わずかに吹いている風の流れから、トラブルの臭いがないか嗅ぎ分ける。

 クンクンと鼻を鳴らして、異質なものを吸い寄せる。

 これをしばらく行う。

 特に何も引っかからなかったら、缶ジュース飲みながら適当にぶらついて、お家に帰るのだ。


「ん……なんかいい匂い」


 初めてのことだ。

 これまで一度も嗅いだことのない、とても珍しい匂いがした。


「……すっごい清らかな感じだな……それに甘さもある……」


 神職の女の子かな。それも一級品の。


「ふふっ」


 つい笑みがこぼれる。

 電信柱から、匂いの導いてくれる方向へと勢いよく飛び立った。



 ──たどり着いた先は、立ち入り禁止のテープが出入口に張られてあった廃ビルだ。

 サラ金が入ってた建物だったかな?

 テープは破られたというより鋭利な何かで斬られたようで、誰かがそこから中に入ったみたいだ。

 テープの色は赤。

 それは怪異がはびこる悪意の溜まり場であることを意味している。子供でも知ってること。

 だけど、確かここは、こないだまで危険区域ではなかったはず。


 つまり、最近になって『巣』になったんだろう。

 気配から察するに大したことないようだが。


 で、戦場は……


「……屋上か」


 誰かさんが切り開いてくれた道を、僕は足早に進むことにした。



「いたいた……」


 僕は気配を殺し、屋上の入り口から様子をうかがう。


(餓鬼かあ)


 いくつもの口がついた大きな肉の塊。

 常に飢えに苛まれてる亡者というのが、本来の餓鬼らしいんだけど、現代では欲望を満たすためだけに動く邪鬼や死体を、総じてそう呼んでいるとか。


(ま、わかってたけど、やっぱしょぼい)


 あんなテープだけで対応してた程度なんだから、そりゃそうである。

 どうせ昼は姿も出せず、夜に建物内や屋上を意味なくウロウロしてるだけだろう。

 弱いからつまんないけど、踏み潰すといい音するんだよねコイツ。


(犠牲者は……いそうにないね。せいぜい野良猫や野犬かな)


 とか思ってるうちに、餓鬼が誰かさんに攻撃した。

 飢えを満たそうとしてなのか、全身の大口から、ヌメヌメした汚らしい舌を長く伸ばす。

 そこそこの速さで獲物を絡めとろうとする。


 美しい獲物が、舞った。


 単なる獲物でしかなかったはずの美少女が、魔手を一本残らず迎撃した。


 餓鬼は、食いでのある獲物だと思っていた存在に一瞬で舌を全て斬られ、攻撃手段をほぼ無くしていた。

 しかし、逃げ出そうとしない。

 こいつらに恐怖や撤退という思考なんてきっとないし、舌がなくなったから近づいて噛みつこうとか思ってんだろう。


「一度の実戦は千日の練習に匹敵する……というけれど、こんな雑魚相手ではむしろ鈍りそう。だから終わりにしましょうか」


 いい匂いの源だった存在が、そう宣告した。


 赤と白のコントラスト──巫女服に身を包み、霊性を帯びた日本刀を手にした、清廉で、凛々しくて、可憐な少女。

 年齢は……同い年くらいかな。

 横髪の長い、濡れ羽色のショートヘア。

 そして、見覚えのある、三本足のカラスを模した髪飾り。



(……んん?)



 見覚え? なんで?


 こんな子なんか記憶にない……いや、そうか…………?

 待てよ……確か……中学………………?


 …………違う、そう、もっと前の、さらに前の…………………………




~~~~~~~~~~~~~~~~


『ぐ、ぐーぜん、こんなのぐーぜんなんだから。お、おとこのこになんか、まけるわけ、な、ないもん』


『すぐにおいぬいてあげるから、くびまであらってまってなさいよ!』


『なまいき! おんなたらし! ばーか! おおばか!』


~~~~~~~~~~~~~~~~


『……え、わたし? わたしのなまえはねーー、…………………………あ、や、は』




『あまみや、あやは。よくおぼえておきなさい』


~~~~~~~~~~~~~~~~




(ああ、そうか、あの時の子か……)


 閉じていた記憶の扉が思いっきり開かれる。


 あまみやあやは、と名乗ったあの少女。

 可愛く生意気な顔が、僕の脳裏にフラッシュバックした──

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