地味顔の魔女は、王太子妃に鉄扇を投げられる?
第一王子ゼフェルとのお茶会を終え、王妃様への謁見へ向かう。
薔薇の舞う花壇を抜け城の通路へ歩みを進めた時、何かが足元に飛んできた。
ガキーンッ!と地面に突き刺さるそれは、鉄扇だった。
「うおぇ」
と変な声が出るラリサ。
あわや足指から数cmの距離だ。
周囲を見渡すが、人の気配なし。
仕方なく鉄扇の気配から、痕跡を追尾する。
体の周囲にバリアー(障壁)を張り、早足で痕跡を辿る。
すると、辿り着いた離宮の上空から3つの影が降りてくる。
私はバリヤー(障壁)を張ったまま、影と対峙した。
全身黒装束を纏い、顔も目以外は覆われている。
私と5mの位置で1人が立ち、その背後に2人が控える。
「アテンション!」
突然正面の人物が、響く声で号令をあげる。
すると背後2人が、敬礼姿勢をとる。
「???」
咄嗟の言動に一瞬戸惑うと、正面の人物が覆面をはずし声をかけてきた。
「鉄扇への反応は鈍かったが、追跡への行動はスムーズ。 襲撃後も己の保護を忘れぬ落ち着きは評価。 よって今作戦の同行を許可する」
向日葵のような明るい黄の髪、青空のような濃い青の瞳、170cmは越える背丈は均整の取れた筋肉で縁取られていた。
彫りが深く美しい顔はキリリと引き締められ、こちらの返答を待っているようだ。
私は内心の動揺を隠しつつ、うっすらとした記憶を辿り可能性の1つに思い当たる。
父に付いて王宮へ遊びに来た時に、通路で1度だけこの人物と会ったことがある・・・と思うのだ。
その時はドレス姿で、扇を口元に当てて優雅に挨拶をされ通り過ぎて行った。
たぶんそうだと思う。
ええい、ままよ。
「ごきげんよう王太子妃様。 挨拶が遅くなりましたが、この度は第一王子様の護衛役を仰せつかりました。 どうぞよろしくお願いいたします」
そう言って華麗なカーテシーをする。
「ああ、了解している。 貴殿はテストに合格だ。 これからよろしく頼むぞ」
ニカッとした笑顔で告げられた言葉で、正解だと安堵する。
う~ん。 王太子妃様ってこんなだっけ?
そう考えていると、王妃様がこちらに駆け寄って来た。
「アナスタシア、貴女初対面でこれは無しでしょ! 自己紹介の前に入隊テストみたいなことしたんじゃないの? その服スイッチ入るんだから駄目よ」
慌てて注意しているみたい。
するとはっと我に返った王太子妃様が、急にわたわたし始めた。
「あ、すみません。 王妃様の話を聞いていたら、射ても立っても居られなくて。 ゼフェルからも武勇伝を聞かされて、是非私の隊にと思い立ってしまい・・・・・すいません」
どうやら実家で斥候部隊を率いていたアナスタシア様は、王太子妃になってからも、王妃様の許しを得て実家から連れて来た侍女兼部下達の少数でこっそり部隊を組んでいたようだ。
王様には内緒の部隊だが、いろいろ暗躍しているらしい。
どうやら第一王子の婚約者候補ということで、秘密裏に勧誘されたようだ。
なんか作戦同行の許可は、第一王子の護衛だから良いけど部隊はご遠慮したいです。
というか、結婚したら即部隊入りなのかしら?
私は嫁がんけど、お嫁さん大変ね。
とか考えていたら、
「違うからね。 これは趣味のやつだから。 嫁いだら危ないことなんかさせないから」と王妃様がまた慌てていた。
「勿論解ってますわ。 大丈夫です」と頷き、華麗にスルーする私。
秘密は守りますよ。
第一王子に嫁ぐ娘がいないと大変ですもんね。
私は関係ないけど。
そんな呑気に構えていると、今度はアナスタシア様が
「ごめんなさい、御令嬢に。 久し振りの逸材にわくわくしちゃって。 いつもはこんなことしないのよ。 本当よ。 許してくださるファンブル公爵令嬢?」
眦を下げ懇願するアナスタシア様は、先程の凛々しさは成りを潜め大変麗しい。
「気にしておりませんわ、王太子妃様。 それに私のことはエリザベートとお呼びください」
笑顔で返答すると、安心されたご様子。
「ありがとう、エリザベート。 私のこともアナスタシアと呼んでくださいね」
ふふっと笑みを溢し、答えてくださった。
まあまあ、この続きはお茶を飲みながらにしましょうと王妃様。
お茶会と聞いて喜んでしまったが、私は急に思い出した。
アナスタシア様は、追跡とバリアー(障壁)を見破っていた。
咄嗟のことで、魔女であることがナチュラルにばれてしまっていたよ。
う~ん、どうするかな?




