地味顔の魔女は、呪いに気づく(鈍い!?)
エリザベート(ラリサ)は、今日も王城へ向かう。
第一王子の婚約者候補は他にも2人いる為、毎日の登城ではないが、正装をして化粧を施すのは手間がかかる。
他1人目の候補者は、ビルガード侯爵家令嬢のサマンサ様。
お茶会の時、冷めた態度で本を読んでいた貴族然としたご令嬢。
2人目はレンブルズ伯爵令嬢のロールケルト様。
あのお茶会には不参加だったも、王妃様の親戚筋に当たる方らしい。
恐らく今回の意図からすれば、護衛要員を兼ねる令嬢なのだろう。
3人それぞれ別日の登城であり、顔を合わせることはない。
エリザベート(ラリサ)は、第一王子ゼフェルとお茶を飲みながらたわいない話をする。
初対面で二の腕の話をされ、只の筋肉バカかと思いきや意外と愛国心溢れる純朴少年だった。
エリザベート(ラリサ)に話したことも、単純に国を守る力のある者への王子なりの最上級の賛辞だったらしい。
女子への言葉選びとしては、完全に間違ってるけどね。
本人は日々鍛練しているので、鍛えていると言われるのは嬉しいらしい。
どうやら幼い頃から、300年前に国を暴れまわるブラックゴルゴノプスドラゴンを討伐した勇者達に憧れ、技を増やしているのだとか。
その勇者達は逃げ惑う民達の前に颯爽と現れ、背に民を庇い逃走を手助けし、
魔法使いが魔法でドラゴンの動きを止め、
僧侶が魔力を奪い、
民を逃がし終えた勇者がドラゴンの首を切り討伐した。
恍惚としながら語るゼフェル。
その3人は各々赤・青・黄色の覆面と装束、ゴーグルをして正体は解らなかった。
ただ声から、赤が男性勇者・青が女性魔法使い・黄色が男性僧侶だったようだ。
討伐後勇者達は「ドラゴンが生き返ると危険なので、我々が処分します。 宜しいでしょうか」と王に聞いた。
王は頭を下げ、お願いすると答える。
次の瞬間、ドラゴンと勇者達は消えていた。
多くの兵でも歯が立たず絶望の淵に立たされていた王は、その場に跪いて既に去った勇者のいた場所へ感謝を捧げた。
『強大な敵に立ち向かい我々を救ってくれた勇者達よ。 ブラックゴルゴノプスドラゴンは呪われた竜種と言われ、消滅した後もその者達を忘れず、一番嫌なことを魂に刻み付け呪うことで再現を繰り返すと言うのに。 危険を顧みずの自己犠牲。 後生まで語り継ぐことにしよう。 そして聡明な方達のことだ、力の源となる竜玉(竜の核で心臓のような物)も破壊して下さるだろう』
そう語り終え、王子は目をキラキラさせている。
市井には恐怖を煽らない為に、呪われた文言は伏せられ英雄譚とされているが、王家では詳細が残され伝承されている。
「呪い・・・・・」
ラリサはその時確信した。
自分が何度生まれ変わっても、この地味顔で生まれてくることを。
そしてドラゴンを丸焼きにして食べた時、なんか硬い砂肝みたいのを噛み砕いて飲んだことを。
きっと呪いは『地味顔だ』
転生の記憶や魔法が物心ついた瞬間使えるのは、竜玉を噛み砕いて吸収したからに違いない。
勇者こと剣士『ブロディ』の嫌なことは、才能豊かで実力があるのに、義母に何度も命を狙われて常に気を抜けないことだったはず。(身分:上級貴族出身)
僧侶『キャラウェイ』の嫌なことは、兄弟姉妹が多くて口減らしの為に寺院に入れられ、貴族から苛めを受けていたことだったはず。 中でもお姉口調の男の先輩僧侶が嫌いだったはず。(身分:平民)
因みに私も、孤児で顔が地味だった。
親と戦争で行方知れずとなり、かっぱらいや物乞いで1日1日をなんとか過ごしていた。
もしかしたら、親はわざとラリサから離れたのかもしれない。
人買いに捕まり娼館へ売り飛ばされる直前、師匠となる魔法使いヘルガに助けられ弟子となる。
助けた理由は師匠も地味顔だったかららしいが、それは照れ隠しだろう。
そして師匠の死後、放浪の旅に出たのだ。
ブロディは義母から、狩猟の際に雇われた暗殺者に追われ崖から転落。
丁度通りがかりの木こりに拾われ一命を得た。
そしてそのまま傷の手当てを受け、お礼に長く伸ばしていた銀髪と母の形見のエメラルドの指輪を渡した。
木こりはいらないと拒んだが、生き直す為に受け取って欲しいと譲らなかった。
ブロディはここで、狩りと動物の本格的な捌き方や鞣し方、保存方法を学びこの国を離れた。
キャラウェイは、法力が強く僧官上位の大僧正に覚えめでたかったが、他の高位僧官や同期貴族家からの嫌がらせや苛めに合い、目潰しをされそうになり貴族子息を突き飛ばた。
幸いかすり傷程度だが、突き飛ばした貴族家の報復が怖く出奔。
苛めのことは話せない貴族側は、特にキャラウェイの家族にお咎めなく賠償も求めなかった。
ただ姿を消したことになったのだ。
それを知らず、彼は国を後にした。
そんな3人が数年後、旅先で夕食の動物を狩る際に出会う。
身の上不幸自慢を行い、気心が通じたことで旅を共にした。
狩りのスタイルは、ドラゴンの時と同様。
魔法で固定、魔力を奪い、首を狩る。
血抜きし、皮爪骨を綺麗に除去してギルドで売り、肉はラリサが師匠から譲り受けたマジックバックに保存すれば、新鮮なまま保存できた。
お金は常に三等分した。
どこではぐれても生き延びられるように。
ただ一緒にいる間は、ラリサの保存肉を十二分に活用した。
力仕事はブロディ。
毒抜きはキャラウェイ。
保存・調理はラリサ。
しかし数年後、ラリサ達の住む地域から魔物が消えた。
何故か王都に集まっているという。
ブロディ達は迷った。
魔物が居なければ、狩りは楽勝モードだ。
ただ、動物の素材でも買い取りはしてもらえるが、高額ではない。
そして何より、法術で毒抜きした大型魔物(ヴェノムタイガーやポイズンドラゴン、ジャイアントキングスネーク等)は旨い。
毒持ちは自身を守る毒で相手を威嚇し敵を退ける為、狙われ辛いが、身が締まり最高の味わいである。
さらに素材が高額である。
そんな訳で王都に来て、ブラックゴルゴノプスドラゴンの狩りとなったのだ。
王都に来るのが最優先で、途中途中はマジックバックの保存肉を食べて移動を繰り返した。
王都に着く直前に肉を食べきり、城を襲う8m程のブラックゴルゴノプスドラゴンを見た時は、3人全員が美味しそうという目で涎を垂らした。
とはいえ、全員が何らかの瑕疵持ちである。
知人にでも見つかってしまうとやっかいである。
そこで派手な印象を与えて、逃げやすいように印象操作を図ることにした。
赤・青・黄色の忍者服とゴーグルをした、普通に居れば不審者だが、今はそれどころではないだろう。
そしてここを去る時に元に戻れば、人混みに混ざれるだろうと考えた。
本当はそんな感じのお話なのだ。
ラリサは思った。
あの時、誰も勇者なんて名乗ってないと。
だから今までゼフェルの話を聞いても、お伽噺の勇者か程度に思っていた。
ブロディは貴族令息で多少魔力を持っていたが、私と似たり寄ったり程度だし、キャラウェイだって普通の僧侶程度の技しかない。
厳しい修行の果てに成るもんなんじゃないの?勇者とかは。
こちとら、生きる為の狩りしかしてない。
う、ん?
もしかして、知らないうちにレベル上げしてたことになるのか?
確かに最初と比べれば、楽に狩りはできたけれども。
うん、まあもう良いよ。
そんなこともあるよ。
だがゼフェルの話には続きがあった。
竜種は消滅しても、魔素が集まれば勝手に復活するらしい。
あのサイズのドラゴンだと300年位だと言う。
「近いうちにブラックゴルゴノプスドラゴンは復活するらしいんだ。 魔導師のおばばが言ってた。 その時は俺も討伐に是非参加して、自分の力で民を守りたいんだ!」
強く誓う王子だが、嫡男の次期王太子のち王様が参加とか無理だし。
でもその為に鍛練してたのは偉いことだ。
結局ドラゴンを倒してたら、他の強めの魔物は地下(たぶん魔界)に潜り出てこなかったんだよ。
それが一気にドラゴンの復活と共に溢れれば、大混乱は必至だ。
なにか起きれば家族と邸の人達は守るけど、その他は私の手に余る。
ここまで王家の王子が考えてるんだから、大丈夫だろう。
そう思考をずらし、王子とのお茶会は終了する。
この次は王妃様の元へ行き、王太子妃教育という名の報告会に参加するのだ。