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公爵令嬢は顔が薄い  作者: ねこまんまときみどりのことり


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ライメイとの暫しのお別れ

「そうか、ジリアンの眷族がね……。まあ、良いんじゃない。一時は拒食で死にそうだったのに、楽しんでいるみたいだもの彼女。それにしてもグリッドイメロディ国は、ジリアンの眷族達が甦らせたってことか?」


あっけらかんとウィリアム(イリヤ)に話すタルハーミネ(ヘルガ)。二人は魔界にいた時の母子だった。


ヘルガもハイルリヒの女癖が嫌で、ジャームンサンドに亡命したくちだ。

人間になったのはイリヤの方がずいぶんと後になる。なんせヘルガは300年前にラリサを育ててから寿命で死に、今回再び人間として転生したのに対し、イリヤがウィリアムとして転生してからは、まだ15年しか経っていないのだ。



「でもジリアン達の後情報は、このまま秘密にしておいて良いのでしょうか? 脅威などを知っておくことは、この国の為にも必要だと思うのですが?」


「ああ、それなら大丈夫さ。今後も国をあげて戦闘の訓練はするし、結界も強く張るって言ってたから。防音でも遮音でもしとけば、私に聞かれないのにね」


「それは母上が味方だから、聞かれても良いと思っていたのでしょう。なんせ、ラリサの前世の育て親ですから」


前世の時は敵同士だったのに、現世では仲良しの姉弟になったラリサとイリヤ。環境が変われば、立ち位置も変わってしまった。



「う~んと、あとな。ウミナリがパートナーのベイスタートと同居してるだろ。それで今ライメイの面倒は、ベイスタートの兄スチアートが見てるんだけど、子供が出来たらしいんだ」

「えー! だってあんなに嫌がっていただろ、ライメイ。何があったんだろ?」


眉を寄せるイリヤに、笑いながらヘルガは言う。

「まあ、男と女だからね。心境の変化でもあったんじゃない?」


「この短時間でですか? ドラゴンってそんな感じなんですかね?」

「ドラゴンが特別じゃないよ。みんな同じさ。ジリアンには負けるしウミナリがパートナーを得て、だいぶんへこんだんだろうから、ライメイは。きっと寄り添ってくれたんじゃない?」


「……そんなもんですか?」

「そんなもんよ」


「だからまあ、そのうちライメイはここから離れるだろう。スチアート達が住むドラゴンの巣への移動には、転移は負担がかかるから飛んでいくだろうし」


「そうなんだ。ドラゴンってどのくらいで生まれるものなの?」

「確か卵で生まれるから早いはずだ。半年弱じゃないかな?」

「へえー、早いですね。ってか、ライメイが母親かぁ。何か教育次第で、とんでもない子になりそう?」

「……それは思うよ。旦那の方も癖が強そうだから」

「まあ、おめでたいことだね」

「ああそうさ。ウミナリ達が居れば、問題ないだろうから」


「あと要らない情報かもしれませんが、父上のハイルリヒと王妃アマリィ、宰相アイドステルが魔力をほぼ奪われてこの国に来ました。もうこの人間くらいの魔力しかありません。アイドステルの息子で、僕と同じように転生したジェダイの元に辿り着いたようです」


「ジェダイか。暫く大変だろうから、様子を見てあげなね。いきなり扶養家族が3人も増えるんだから」

「ええ、勿論です。でも僕は父上に関わりませんよ。魔界にある僕の体も奪われ、魔界の国も治められなかった人なんてしりません。でもジェダイは支援しますけど」


「この意地っ張りは誰に似たのかね? まあ私だろうけど。私も直に援助はしないさ。でもブロディに仕事の支援くらいは頼むかもね。ふふっ」


「そうですね。僕は母上似で良かったです。同じようなことを考えてました。プライドが高い父上が早く人間として生きていけることを願います」


「まあ、何とか立ち直るだろうさ。死んだわけじゃないし。それに妻のアマリィを助けるのは、夫の責任だ。きっと頑張るだろ!」


「そうですよね。そう思うことにします。それよりこれ、姉上が僕達にって焼いてくれたアップルパイです。早速食べませんか?」

「良いねえ、食べよう!」



取りあえず母子で情報のすり合わせをし、進展もないが和やかな時間が過ぎていく、現世では孫と祖母の2人。それを祖父であるヴァルモンは、羨ましそうに眺めていた。ヴァルモンに嫌われていると思っているタルハーミネであるヘルガは、(ヴァルモン)と離れて暮らしている。なので3人で一緒にお茶をすることは、どちらかが歩み寄らなければ今後もないだろう。


ヴァルモンは何度となく声をかけているが、社交辞令だと思っているタルハーミネであるヘルガは「お気を使わずとも良いのですよ」と、微笑んでスルーだ。


もっと直球じゃないと、全く伝わらないようだ。




◇◇◇

「お姉さま、頑張って元気な子を生んで下さいね」

「ウミナリはどうして来ないのよ。私1人では不安だから付いて来なさいよ!」


「それは出来ませんわ。ジリアン達が結界を破って襲って来たら、カザナミもキャラウェイも死んじゃいますもの。私が食い止めないと!」

「じゃあ、カザナミを連れて行けば良いじゃない。キャラウェイなんて良いわよ、あんなの」


「魔素の強い場に行くのは、今のカザナミでは無理ですよ。それにお世話になった方に、なんかなんて言ってはダメですわ」


怒り顔から殆ど泣き顔になったライメイが、ウミナリに縋るように言い募る。けれどウミナリも揺るがない。


「あんな遠くまで行くのよ。それにスチアートの両親や兄弟や親戚もいるのに……。1人じゃ無理よ、ぐすっ」


「大丈夫ですわ。お姉さまは強いドラゴンですもの。それにグリッドイメロディ国の巣があれば、向こうに行かなくても済んだのに」

「それは言わないでよ。そうよ、私が負けたせいで巣が取られたのよ」

「負けたせいですか?」

「…………私がジリアンをブラックゴルゴスネークにしたからよ」

「そうですね。だから、お姉さまも頑張りましょうよ。生まれた子が人化の魔法が使えるようになったら、会いに来て下さいね」

「ええっ、そんなぁ。生まれたらすぐ戻るわ!」

「いいえダメです。その子の安全の為にも、魔力が安定して人化出来るまで待ってますから」

「そんなぁ、ウミナリ、カザナミ…………。貴方達は私がいなくて平気なの?」


「勿論、寂しいですわ」

「俺も寂しいけど、お姉さまの子供を楽しみに待ってるよ」

「もう、酷いわ。意地悪なんだから! もう良いわよ、ふんだ!」


それを見て笑いを堪えるスチアートは、みんなに挨拶をした。

「それではライメイをお預かりしますね。では行って来ます」

「よろしく頼むよ、スチアート。彼女はお前だけが頼りなんだからね」

「分かってますよ。私だってツン多めのライメイが可愛いですから。それに初めての産卵ですから、魔力の強い子が生まれそうです」


スチアートは最初に会った時の胡散臭さが薄まり、所々で本音が見え隠れしていた。話している時の微笑みも本心のようだった。



一通り騒いだ後、憤慨しながらライメイとスチアートは、スチアートの故郷に向けて飛んで行った。


ライメイ以外は、和やかな雰囲気でのお別れとなった。


本当はウミナリもカザナミも心配していた。

付いていきたい気持ちはあれど、今のカザナミの身では耐えられず、ウミナリはジャームンサンド国の為に離れられない。

きっと居ない間に何かあれば、死ぬほど後悔するだろうから。



そんな訳で遥か遠く、並んで飛ぶ彼らを見送るウミナリ達だった。


「帰ろうか、ウミナリ、カザナミ君」

「うん、帰りましょう。きっと元気でいてくれるわ」

「ああ、なんせライメイですから。怒鳴りながら帰って来るよ、きっと」


ここは海が近い崖の上だった。

普段は誰も来ない高台で今日も誰も居なかったから、人化をここで解いて、ドラゴンになって飛んで行ったライメイ達。


ウミナリがもし孕んだら、魔石の積んである山を使って良いと許可が出ている。彼女はこの国の守りの要だから。ライメイがここで産めないのは、ある意味罰だった。けれどスチアートとの仲を深めるには丁度良いのかもしれない。



少しの寂しさと共に、3人も家路についた。

ゆっくりとした時間を過ごすドラゴンにとっては、最近特に目まぐるしい。

でもそれも心地よく、そして変化を楽しめる心境であることを幸せに思っていた。


ウミナリとベイスタートは手を繋ぎ、その後ろをカザナミがひやかしながら歩く。



歩いている途中に、大きな夕日が海に沈んでいった。


明日もきっと晴れることだろう。




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