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公爵令嬢は顔が薄い  作者: ねこまんまときみどりのことり


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ジリアンの幸福

「ジリアン、ご飯出来たよ。手を洗っておいで」

「はーい、お姉さま。いつもありがとう」

「ニューカムとビィータもだよ。まずはいろいろ食べてみなさい」

「了解です、ガールナ様」

「従います、ガールナ様」

「そこは普通に、「はい」だけで良いのよ。まあ、今は仕方ない。慣れていくしかないね」



ジリアン達は今、魔界の国《ダンフェバランス国》の住宅街に一軒家を借りて暮らしていた。離れてはいるが、グリッドイメロディ国の隣に位置する。ジャームンサンド国とは真逆に位置する、機械化の進んだ街である。


ブラックゴルゴスネークでいるのは無敵だが、どうしても人間の暮らしが懐かしくなってしまったジリアン。

ガールナは別にどちらでも良いのだが、可愛いジリアンの望みに従うだけだ。


そこには、ニューカムとビィータも共に暮らしている。建前はジリアンの弟妹として。




◇◇◇

機械化されたダンフェバランス国は魔力が強い魔族も弱い魔力も混在する、身分差がさほどない場所だった。仕事についても実力社会なので、上司の子でも忖度されず、身分制度のある国で搾取されて来た者達は、野心強く懸命に働いていた。


ある意味資本主義社会で、お金があればある程度なんとかなる場所だ。


但し入国時は、魔力紋を受付で採取される。

物理的な問題を起こせば、魔力紋に反応した魔道具犬が駆けつけて噛んで捕縛する。書類偽造では魔力紋が証拠になり対処される。指紋と違い手袋は関係ない。存在そのものに対しての印みたいなものだから。

逆に国民として優遇されるている制度もある。中でも福祉制度は子供と老人に優しい。定期的な資金が支給され、身寄りがなくても補助人が付くので暮らしやすいそうだ。


問題を起こさずに納税する者に、還元される国らしい。


かく言うジリアンは、ライメイとウミナリの巣にあった彼女達が集めた宝石を元手に商売を始めていた。

基本的にジリアンは何も出来ないが、それなりに貴族として暮らして来たので審美眼はある方だ。自分のことになると趣味に走り盲目となるが、客観的に人や物を見る目を持ち合わせていたのだ。


逆に一人で何でも熟してきたガールナは、裁縫・刺繍・料理と、家庭的なことは何でもござれだ。



彼らがここに来て半年が経った。


そんな祖母と孫と、卵生まれの護衛であるニューカムとビィータでバタバタとした日々が過ぎていく。人化は人間形態であるも、そもそもマナーなんて知らない2人だからガールナは教えるのにてんてこ舞いだった。どちらも意欲が有りすぎて、質問が止まらないのだ。彼女(ガールナ)はそれに加えて、店の経営の営業と家事を担っていた。経営(経理関係)はジリアンの担当で計算関係はお手のものだが、そもそも赤字上等であるから問題もない(元手ただだし)。



そんなガールナを見かねたジリアンは資金だけは豊富だからと、ニューカムとビィータに家庭教師をつけることにした。


「他の奴らに習うのは嫌です!」

「ガールナ姉さんにご教授願いたい!」


兄弟姉妹設定なので、次第に口調が砕けてきた2人。順応性が高いのは素晴らしいが、今日はジリアンにも抵抗していた。


「言うことの聞かない眷族なんていらないわ。決別するなら玄関から出ていって」

微笑んでそう突き放す。

だてに伏魔殿たる城で、第二王妃をやっていた過去は半端じゃない。

怒り任せじゃないところが余計に怖い。



「お側に置いて下さい。従いますから」

「申し訳ありませんでした。ジリアン様」

土下座状態の彼らは、心から焦って懇願したのだ。


「良いわ、許してあげる。って言うか、お姉さまが忙しいって見て分かるでしょ? 甘えすぎよ、あんた達!」


「だって、ねえビィータ」

「ええ、ニューカム」

「「ガールナ様ってとっても美しくて優しいから、独占したくなるんです!」」


「やっぱりか、あんた達は。ダメよ、ダメダメ。ガールナは(わたくし)の祖母なんですからね。独占なんてだめよ。ただでさえ私との時間が減っているのに……。それにあんた達は、だいたいのマナーぐらいもう覚えたでしょ? 地頭が良いのは勿論だけど、記憶力もすごく良いのも知ってるわよ。

わざとらしく、出来ない振りなんて許さないわ!


でもね。これから来る家庭教師達は、この国の経済と魔道具のスペシャリストなのよ。精々隅々まで知識を吸収して頂戴ね。今後の商売の為に。


授業料? そんなの気にしないで良いわ。

ライメイのお宝を売っぱらって払うから、感謝なさい。

おほほほほっ」


「「そんなぁ~。私達とガールナ様の時間がなくなります」」

「それは大丈夫よ。食事だけは一緒にしましょう。あんた達が完璧にマスターするまでは、寂しくなるわね。くふふっ」

「酷いわ~」

「残酷です!」


「何とでもお言い。私から産まれたのが運のつきよ。諦めて!」


そんなやり取りが続いていたのだ。


「まったくもう、いつもこうなんだから。ふふふっ。仕方ないねえ、弟妹の設定なんだから。でもそうだね、今は本当の弟妹みたいに見えるよ。ぎゃあぎゃあと騒いでたって、遮断魔法が効いているから問題もないしね」


そんな感じで、彼らの絆は深まっていったのだった。


その後。

ニューカムとビィータは、一気に学習を進め基礎的な部分を習得して家庭教師を期待で膨らませた。


「こんな短時間で理解するとは、天才だ」

「ええ、本当にそうです。これは王に伝えて専門的な分野で働いて貰いましょう!」

なんてことになっていくのを、まだニューカム達は知らないしきっと断るだろう。


そしてライメイのお宝を、ジリアンが使うのも問題はなかった。弱肉強食で魔獣は勝った者が弱者の物を奪うからだ。

闘ったあの時にジリアン達が負けていれば、命を奪われていたからそれはもう仕方がないのだ。






◇◇◇

そしてもう一つ、変化があった。


サーシャルとジャスパーの、ジリアンを王妃にしたいと提案していた話だが、ジリアンとガールナは一度はどんな話か聞いてみることにした。


彼女達の行きつけの喫茶店で、今回はニューカムとビィータも別の席に座っている。机を隔てた同じ席には護衛であるイートンも座っていた。あくまでも敵対していないことを示すために。


彼らの話を聞いた彼女(ジリアン)達は、胸くそが悪くなった。


「私も良い(第二)王妃ではなかったけれど、王妃のアマリィは酷いわね。国王のハイルリヒも。これでよく国が潰れなかったわね。逆に」


「私だってそう思うよ。王は女好きで飽きたら家臣に下賜だなんて。グリッドイメロディ国は祖母の生まれた場所だけど、とんでもないわね。そりゃあ、貴族の不満も強まるものさ」


「国を傾ける馬鹿に政治を任せてる貴方達の気持ちも分かるけど、ちょっとこっちを甘く見すぎているわ。戦力的には私達の方が強いし、今さら王妃になんてなりたくもない。私が第二王妃になったのは、ニールが好きだからだもの。

でも話を聞いたからには、力を貸してあげるわ。


こちらに来て、メメントとウィントリィ」


呼ばれて来たのは、イリヤ(ウィリアム)とジェド(ジェダイ)が壮年になった姿だった。

ジリアンとガールナが身に宿す気配を辿り、自分の分身体として生み出していたものだ。卵として産み落とすのではなく、掌に力を込めてありったけの力を注いだ末に錬成されたような感じだ。


元よりエネルギー飽和過剰で、ジリアン達も身に余っていたのだ。いつも胃もたれしているみたいな状態で。


それなら分身として暮らそうとし顕現させたのだったけれど、どうしてもウィリアムに似ているし何故か青年を越えた中年風だった。

たぶんメメントとウィントリィは、自分で変化も出来るだろうけど、その状態が気に入っているみたいなのだ。


イリヤ(ウィリアム)の魔族年齢を人間にしたら、きっとこんな感じなのだろう。


さすがのジリアンさえ、擬似的にも父親のような素振りは見せられない。彼女の父親はずっと自分を愛してくれたナシンだけなのだ。


そんな感じで持て余していた、メメントとウィントリィの今後の役割。



だからこそ彼女(ジリアン)は、彼らをグリッドイメロディ国の駒として貸すことにしたのだ。


ジリアンがメメントを、ウィントリィをガールナは顕現させた訳だが、分身なので嘘や偽りはない。

2つで1つなので、双子だと言っても良い。


ただジリアンが我が儘(ある意味本能のまま)なので、メメントもその性質を受け継いでいた。ガールナのジリアンが大切な心もウィントリィが受け継いだように。


「ねえ、メメント。貴方の力で国を立て直しをしてくれない?」

「なんでそんな面倒ごとを俺に言う?」


「貴方なら楽勝だと思うからよ。私には残念ながら細かい政治は無理だし(面倒くさいし)。無理なら言って、他の眷族に頼むから」

「はぁ? 俺を誰だと思ってんだ」

「突然、何よ!」

「メメント様だぞ! 楽勝に決まってんだろ」

「そ、そお、ならお願いね」


「そこは丁寧に、お願いしますだろ?」

「ぐっ、お願いします。これで良い?」


「OKだぜ。行くぜウィントリィ!」

「はい、はい。付いて行きますよ、相棒」


「それではお願いします、メメント様、ウィントリィ様」

「俺からも協力を願うよ。よろしく」


「ああ、良いぜ。がっちり作ろう、新しい国!」

「新しい? とは。改革は望んでいますが……「ほら、行くぜ! じゃあな、ジリアン、ガールナ」えっ、ちょっと」


「では失礼する、ご助力感謝するジリアン殿」

「ああ、待って下さい、ジャスパー様! お前らありがとうな、じゃあな」

「これ、イートン。なんて言葉遣いを。失礼しました」

「もう良いから、行くぜ。建国しに!」

「ですから、話を聞いて下さいって、ああっ」

「これっ、引っ張るな、ウィントリィ殿!」

「強え、兄貴最高潮だぜ!」


メメント達に物理で引っ張られていく、サーシャルとジャスパー。楽っしそうに付いていき、既にメメント達を兄貴呼びするイートン。


そんなことがあり、今メメント達はグリッドイメロディ国にいるのだ。



その後。

ジャスパーとメメント達はハイルリヒに今後の国のことを進言したが聞き入れて貰えず、当初の予定通り謀反と言うか、溢れる魔力攻撃と物理で殴り付けてハイルリヒや軍務大臣アルファード達を倒した。他の兵もウィントリィが捩じ伏せていた。


そして軍務大臣だったアルファードは、メメントに寝返った。

「あんた強いな。あんたの下でなら部下として働きたい。下っぱで良いから置いてくれないか」と。


「働きたいなら雇ってやるよ。今までと同じように軍務大臣? だっけ。そのままやっとけ」

「おう。感謝するぜ! 新国王!」

「はぁ? 誰が国王だって。止めろ、めんどい」

「いいや、止めない。ここは武力の国だぜ。そうですよね、ジャスパー様」


当初の計画ではジャスパーが国王となりメメント達が一時的に側近となる予定で、メメント達は粗方片付いたら、ジリアンのところに帰るつもるで。


なのに圧倒的な強者を見て、多くの国民達が持つ本来の戦闘民族の血が騒いだのだった。

それに逆らえるほど愚かなジャスパーではなかった。


「そ、そうだ。この方こそ、次代の国王メメント様だ。拍手を!」


「「「「メメント国王、万歳、万歳、万歳!!!」」」」



「なんでこうなったんだ、ウィントリィ?」

「ふふっ。力を制御しないからですよ。強い者に憧れる者は多いのですよ、メメント。あ、失礼、メメント国王ですね!」

「お前~~~。もう、いつもからかいやがって」



その一方でのされたハイルリヒが、傷だらけで横たわっていた。その身に泣きながら付き添うアマリィも。


「くそぉ、俺の国が。部下達も簡単に寝返りやがって!」

「しっかりして、ハイルリヒ様。うわ~ん」

「ここは引きましょう、ハイルリヒ様」

「アイドステルは逃げろと言うのか? この俺に!」

「娘も私も望んでおります。生きて下さい、お願いします」

「…………分かった。今は退こう」


密かに話を終えたハイルリヒ達だが、そんなに甘くないメメントだ。


「何勝手に言ってんの? 俺魔力使って腹へってんのに。と言うわけで、頂きます」


おもむろにハイルリヒと握手するメメント。すると次の瞬間、「うぎゃあーーー!!!」と、叫び声があがる。


「あ、今強制的に魔力を吸いました。次はお嬢さんね」

「え、え。ひぎゃああああ!!!」

「おのれ、許さんぞ!」

「次おっさんか? ほいっ、握手」

「ふざけるな、いぎゃああああ!!!」


3人は満遍なく魔力を吸われ、ジャームンサンド国に流された。魔力が少なくなり、結界も容易に越えられたようだ。


ちなみにメメントが魔力吸引が出来たのは、サキュバスの遺伝子を持つジリアンの分身故だろう。



「本当はあんた達は死刑になるみたいだけど、ジリアンはそんなの嫌がるからさ。あいつもいろいろやってきた手前さ。だから生かしてやるんだ。自殺なんて考えんなよ。じゃあな」


多くの兵士に護送され、見送りを受けたハイルリヒ達。力と女に溺れた国王の末路だった。

完全に悪い奴ではないので、悲しむ者も多くいた。憎む者も同じくだが。


そんな3人を見送る魔族達。



「さよなら、ハイルリヒ様………………」




生きていればやり直せる。

そう思い、送り出したのだ。

魔力の多くを失った彼らは、グリッドイメロディ国には戻れないだろう。


そして国に戻ったメメント達は国の再生を図る。

ハイルリヒ派の一部は他国に渡り、その他はメメントの配下となった。


国王……メメント

メメントの参謀……ウィントリィ

宰相……ジャスパー

外務大臣……サーシャル

軍務大臣……アイドステル

将軍……イートン


他の役職は、今後の話し合いで決めることになった。


取り合えず、税金は他国と比較し適正に戻した。

産業は他の魔国と外交を進め、協力する土台作りも上々だ。


メメントやウィントリィの強さと、彼らの仲間にブラックゴルゴスネーク2体がいることも、諜報は既に知っているからだ。逆らって良い相手ではない。


そして産業は農業はそのままにし、もう一つは自然発生した魔獣狩りだ。ドラゴンの巣から漏れでた魔獣や魔素の濃度が強くなった土壌で勝手に増えた魔獣の素材で商売をすることになったのだ。


ドラゴンの広い巣は縄張りを主張する強者が残り、それ以外が山や草原に出回ることになる。ジリアンよガールナもそれを認めている。

手駒にと言うか、お気に入りは彼女達が連れ去り傍に置いているので問題はないのだ。


元より弱肉強食の国には、強さが正義だった。

卵を産んでも親と子の情はなく、ある種の支配関係があるだけだ。それも産んだ者だけへの。



だからこそ、魔族の方も死ぬことも傷つくこともある。当然のことである。


しかしグリッドイメロディ国の魔族は、喜びにうち震えていた。魔族本来の戦闘欲求を満たせるからだ。


「かかってこいや、くそ野郎!」

「こいつら強い。でも俺がさらに強い!」

「わははっ! 今晩は宴だな、大量じゃあ!」


怪我も傷もなんのその。政策により男女差別もなくし、女性も狩りに参加する。


「坊やの為だ。おりゃあー」

「男なんて、死ねー」

「この毛皮を売って、旨いものを死ぬほど食べてやる!」


ずいぶんと鬱屈した思いがあるようで、ストレスの発散にも繋がったようだ。そして異常に離婚率が高まり、男性の方が女性に優しくなったそう。


ずっと仲良し夫婦には変わりはないが、独身になった男性が飲み屋に入り浸り帰らないことが、苦情として国に上がったほどだ。


あんなに粗暴だと怒られていたイートンだが、女子供に優しく強いことでモテモテだった。それに戸惑うイートンは、顔を赤く染めて照れるので可愛いとも言われだした。嬉しい悲鳴が彼の心に吹き荒れる。

(どうしろって言うんだよ、チクショー)



新しい風が、グリッドイメロディ国に吹いているようだ。



ウィントリィはジリアンと協力し、ダンフェバランス国で魔獣関連の店を立ち上げた。既に国交もあり、売り上げの一部はダンフェバランス国に入るので、両国Win-Winだった。

ジリアンの眷族で、魔物の毒を浄化出来る者を複数人グリッドイメロディ国に送ったので、毒のある肉も捨てることなく食せることになり、ますますグリッドイメロディ国は栄えていく。それはかつて、ウィリアムが望んだことだった。





そして数か月後、よれよれになったハイルリヒ達とジェド(魔界名ジェダイ)が出会って保護をするのだった。

※この時の話により、ジェドがジェダイだったことを知るウィリアム(イリヤ)だった。


その際に魔界で起きたことを知り驚くジェドと、その話を聞いていたウィリアムの飼っているホワイトタイガー(元ヴェノムタイガー)の情報により、さらに驚愕するウィリアムだ。


「ジリアン、凄いな。俺のしたかったことをこんなに短期間で。やっぱり貴女は人間より魔族が似合うようだ」と微笑んで。


その後にその情報はタルハーミネに伝わる。

けれどそれをラリサに伝える術はない。


言えばジェド達のことがばれてしまうし、自分達が元魔族だと言うこともばれてしまうからだ。



どうやらジリアン達はジャームンサンド国に意識は向いていないようなので、そのまま様子をみることになった。




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