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公爵令嬢は顔が薄い  作者: ねこまんまときみどりのことり


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地味顔の魔女、弱気

 ここはラリサ達行きつけの、魔石工場の近くの喫茶店。キャラウェイの妻ランランは平日の為、魔石研究所で仕事をしていた。


先程の昼休みにランランとキャラウェイ、ラリサとカザナミの4人で昼食を食べながら他愛ない話をし、昼休みを終えたランランは研究所へ戻り、3人が残された。


キャラウェイと結婚してからは、いつも4人でつるんでいた。苦労人でサバサバしているランランは、ラリサにもカザナミにも心地が良かったから。



混んでいた喫茶店も、昼食時間を終えると人が(まば)らとなる。そんな状況となり、ラリサがぽつんと呟いた。


「キャラウェイ、私弱くなったみたい。悔しいよ」


「どうした、ラリサ。珍しくネガティブだな。もしかしてまだ腹ペコなのか? ランランの手前、格好付けて控えめにしたのか?」


「茶化してやるなよ、キャラウェイ。ラリサは本気で落ち込んでんだから」


「ああ、悪い。いやー、俺も戸惑ってるんだよ。見慣れた顔が、急に可愛くなったからさ。わははっ」


「だから、もう。話聞いてやれよ」



そこには項垂れるラリサがいた。




◇◇◇

ラリサは自分の変化に、最近うっすらと気づき始めていた。

今まで顔なんて殆ど見ていなかった。なんせ300年も同じだとさすがに見飽きていたので、全て侍女にお任せだった。

けれど近頃、侍女が妙にラリサを褒めちぎるのだ。


「さすがはブルーノ様とメアリー様のお子ですわ。成長すると見違えました。お可愛らしいです、お嬢様」

「? (可愛い? 誰が?)」


「イゾルデ様とお並びになると、双子のようです。ラリサ様とイゾルデ様は殆ど同じ身長ですし、目映いことで御座います~」

「? (まあ私はずっと155cmから伸びないし、たぶん成長は止まったわね。イゾルデはこれからも伸びるでしょ。……でも双子って言うのはね、(おだ)て過ぎよ。別にお世辞なんていらないのに)」


「もう本当にお綺麗になられて……。乳母であるこのブラウニーも感無量で御座います。お一人だけ先先代の奥様に似ていらしたので、幼い頃には辛いこともおありでしたでしょう。今のエリザベート様でしたら、胸を張ってスッピンを晒せますわ」

「? (いつも私にバッチリメイクをして、他家に付け入る隙なんてやらないと泣きながら整えてくれるブラウニーが、スッピンを晒すとか何とか言ってるわ。さすがに人前では駄目でしょ? 急にお綺麗とか言い出して、全くもう……)」



(おもむろ)にいつもは見ない鏡を直視すると、そこにはいつもと違うラリサが移っていた。


「ブラウニー、もうメイクしたの?」

「いいえ、お嬢様。まだ化粧水と乳液だけですわ」

「だって、これ…………」

「はい。お可愛らしいですね。うっ、うっ」


「…………これが私? 嘘っ!」


泣く乳母と古参のエリザベート(ラリサ)大好き侍女は、うんうんと頷いている。


ラリサも強く目を瞑り、再び鏡を見つめる。

「ホンマや !!!!!」


それは始めてブラックゴルゴノプスドラゴンを食べた時と、同じくらいの衝撃だった。


あわあわと慌てるラリサ(エリザベート)に、良かったとホッコリする侍女達だ。少しずつ変化し、今日は明らかにいつも違うくらいに可愛くなっていたようだ。顔の黄金比侮りがたし。



まあそれは喜ばしいことだったが、呪いが解けてきた影響は他にも現れた。

それは戦闘能力だった。


いつもムキムキの筋肉男達と比較しても劣らない、ラリサ(エリザベート)の筋力は素晴らしいものだった。身体強化なんてかけなくとも、サクッとにオウギワシを狩れていたのだ。


それがいつもの武器が重くなり、体力も以前より格段に落ちていた。トレーニングは欠かさないのにだ。


そこで医師に相談するラリサだが、異常はなかった。


そこでタルハーミネ(ヘルガ)に相談したラリサは、衝撃的な話をされたのだ。

「落ち着いて聞いて、ラリサ。推測だから確かではないけど、たぶんこれは解呪の影響だと思う。今世では解けないと言われていたドラゴンの呪いだけど、呪いの本体であるカザナミが完全にラリサを許しているし、おまけに親友みたいに過ごしている。


カザナミの力の殆どはラリサに吸収されているから、魔力や使える魔法は昔と変わらないけれど、それに加えてドラゴン特有の、天候を操り雷を起こすことも出来るはずだよ。


言ってみれば、今までドラゴンが強い魔獣を屠って食らい、強くなってきた状態と同じだ。

ラリサはドラゴンを食べた状態と似ているんだ。


簡単に言えば、人間の体にドラゴンの力が宿った状態だ。そして呪いが解けてきているから、その身は今回の転生で得たはずの令嬢の肉体に変わりつつあると言うこと。



神が与える才能やギフトは多少の偏りはあれど、多くは得られないみたいなんだ《タルハーミネは魔国の元王妃時代に、歴史教育から得た知識をラリサに伝えた》。


ねえ、ラリサ。

お前は家族に恵まれず、孤独の中でもがいて生きてきただろう。

それはお前が、戦える力を持って生まれたからだ。


前世はたまたま(ヘルガ)と出会って一緒に暮らしたけれど、もし出会わなくてお前が奴隷として売られても、娼婦に落とされても、きっと成長してそこから抜け出す力を得ていたはずなんだ。


『強い魔法と身体能力』

それが前世のお前のギフトだった。

幸か不幸か、呪いにより状態が固定されていたから、その能力が維持され、他の影響を受けずに転生を繰り返した。


だからこそ、何処に生まれても生き抜いてきただろう?



けれど呪いがなくなれば、『強い魔法と身体能力』は失われ、本来の公爵令嬢としてのスキルが与えられることになる。


その一つが美しさ。

そして公爵令嬢の地位だ。


前世を思い出したのが早かったから今の暮らしになったけど、そうじゃなければラリサばかりを可愛がる両親と敵対するウィリアムの勢力に別れ、公爵家を狙う第三者にも入り込まれて泥沼だったはずだ。


勿論あんたも我が儘で残酷な公爵令嬢として、弟を虐め、使用人を傲慢に雑に扱い、下位貴族を陥れたりしたら、確実にザマアされたでしょうね。勿論ブルーノとメアリーごと。


そんな危険を孕んでいたよ、実際。

もし家族仲が最悪なら、ジョージ以下の弟妹も居なかったろうし。ラリサが改心しなければ、前世の私と会う前の暮らしより悲惨な末路があったと思うよ。


ああ、これは可能性の話なんだから。

ねえ泣かないででラリサ。私達はあんたが大好きだし、最悪のことは起きないから」


「うわ~ん、そんなの嫌だよ。みんなのこと大好きなのに! うっ」

「だから、そんなことにならないって。大丈夫だから!」



ラリサは激しく泣いていた。

そんな彼女が愛おしくて、タルハーミネは優しく彼女を抱きしめた。

今の幸せが奇跡だとしても、家族の仲が最悪だった未来なんて考えられないラリサ。

顔が綺麗だったとしても、回りが敵ばかりの場所で暮らすなんて、絶対嫌だ。


よく回りの令嬢に、家族が全員仲が良いなんて信じられないと言われていた。


「どうせ妹達を虐めているんでしょ?」とか、

「(化粧をした顔は)美しいけれど、両親に似ておりませんわね。本当は愛されていないのでしょ?」とか、


「ウィリアム様があんなに貴女を優先するのは、弱味でも握っているのでは?」とか。


果てはアナスタシアと共闘して戦えば、

ラリサにだけ、

「女の癖に慎みがない」

「魔獣を狩って食べるなんて、なんて野蛮な人」

「王族に侍って権力を狙っている」

「王太子妃を狙っている」とか。



国が栄えてきて国営の仕事に絡むようになれば、さらに酷くなる囁き。


「あの年で婚約者もいない」

「家も継げないじゃじゃ馬なら、結婚も無理だろう」

「国の役職を兼任しているほど優秀だと? それなら第二夫人にでもしてやろうか? 金を産む雌鳥として。はははっ」

(ウィリアム)が彼女の傍を離れない? 邪魔くさいな。娘と公子達の縁が結べないではないか」

「軍に入るなら入って戻らなければ良いのに。下の姉妹は大人しそうで美しいから、うろちょろされると邪魔なのだ」とか。



ラリサは基本、陰口も悪口も聞き流していた。

高位貴族は妬まれるものだと教育されていたからだ。


高位貴族でも下位貴族でも美しく強いラリサ(エリザベート)に、味方もファンもたくさんいたので、家族と支え合いここまでこられた。


暢気な振りをしていても、普通の令嬢とは違うと認識していたから、アナスタシアやロールケイトらの戦う女性は安らぎの存在だった。隣国クリンアンパーン国は軍隊に入る女性は優遇していると聞き、また姫であるローゼも戦えることを知り世界が広がる気がした。



この世界に生まれても、たくさんの出来事があった。国の為にと戦っても、野蛮な女だと一部貴族からは責められてきた。


それでもいつか、この国を出て冒険者になると思い、自分には全て関係なくなると諦めていた。貴族だからと、楽しいことばかりではなかった。



そんな彼女から、戦闘能力が減少したのだった。

けれど魔力は多く魔法も使えるラリサだから、護衛がいる館の中で身を守ることは可能だろう。

けれどもう、山を駆け抜けて走り抜けることは出来ない。

いくら鍛えてもその方面の能力は失われていき、筋肉が付かないからだ。今まで付いた筋肉はいつの間にかなくなり、令嬢らしい麗しい腕に戻っていたのだ。


『強い魔法と身体能力』は、正に何も持たない者が得た、1人で生き延びる力だったのだ。今のラリサにはなくても困らないものだ。



呪いがなければとうに手放していたはずの、同じ顔、体、能力。

彼女はそれらを愛していた。

相棒のようにいつも一緒にいたそれらは、彼女の戦友のようなものだった。

本心では、美人なんかじゃなくても良かったのだ。




◇◇◇

周囲にジャミング(声を正常に聞き取らせないような、ノイズが入る術を)し、せつせつとラリサは2人に話し続けた。


時に泣き、時に言葉に詰まりながら。


2人はずっと、静かに聞き続けた。



そして話終えたラリサに声をかけた。



「まあなんだ。ラリサはラリサなんだ。今までと変わりはないさ。俺達は親友だろ!」


「俺だって、もう友達だろ? 俺もラリサの味方のつもりだよ。敵が来ても守ってやるよ!」



そんな2人にまた泣けた。

「あり、ありがとう、2人とも。これからも、よろしくね。うっ、うっ」


「おう、よろしくな」

「まあ、今更だな。良いぞ!」



殆ど人がいない午後の一時。

誰にも言えない気持ちを吐き出したラリサ。

かけがえのない友を持てて、自分は幸せだと感じる余裕が出来た時間だった。


ラリサは自分の前世を詳しく知るのは、王族とタルハーミネ、キャラウェイ、カザナミ(とドラゴン姉妹)だけだと思っていた。ブルーノとメアリーは、彼らの祖母だったことしか知らないのだ。他の家族達にも秘密は漏れていないと思っている。


ウィリアムやジェドなど、他にもちょろちょろ知る者はいるのだけど。


だからこそ事情を知るキャラウェイとカザナミに、愚痴を溢したのだ。

スッキリした彼女は、その後苺パフェを食べてエネルギーを補給し、2人に笑われたのだった。


「クリーム口についてるよ。もう本当に、現金なもんだなラリサは」

「まあ、良いじゃない! 食べてから拭くよ」

「これが公爵令嬢とはな。お前、もう地味顔じゃないから、少し気をつけろよ」

「あー、そうだった。けどまあ、今日は良いよ。適当に体を張って、隠して置いてよ」

「むぅ。このイケメンの雑扱い。後で賃金を要求するからな!」

「うそでしょ? キャラウェイ!」

「じゃあ、俺も!」

「冗談言わないでよ、親友でしょ?」


無言でニヤ付く2人に、ラリサも文句を言いながら微笑んだのだ。



◇◇◇

強い身体能力を失いつつある彼女は、ある意味脆弱なエネルギータンクだった。魔法は強いが、瞬間的には放出出来ないのが難点だ。




彼女は今後、エネルギーを狙う者達の脅威に晒されることになるのだが、今は微塵も気づいていないのだった。




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