地味顔の魔女、訓練
「最近仕事ばっかりで体が鈍るから、いっちょみんなで訓練しない?」
以前に国の事業が忙しくなってから、役職が付いていないラリサはこき使われていた。
根は真面目なので、孤児院やら魔石事業やら魔獣の加工事業やら、多忙なところへ派遣され、それなりに成果を出していた。
けれど自由を愛する、冒険者が心の中心であるラリサは、戦いの場を探していた。
出来ることなら魔獣を狩って調理したい、そして美味しく食べたいのだ。
けれど今は軍の方は軍の面々で活動しており、余計なちょっかいを出せる状態ではなかった。
軍部の彼らは戦い以外も熟せるラリサを軍に留めて置くことは、国の損失だと思っている。
ただでさえ、幼い時からゼフェル王子の護衛として働いて来たのだ。
強い戦力が集まった今は、戦いから解放して貴族令嬢として暮らして欲しいと願っていた。
軍の娘、姉、妹、孫のような存在の彼女は、軍人に好かれている。何度共闘してきたかも分からないほど、魔獣を屠り食して来たのだから。
頼りがいもあり、背中も預けられる可愛いラリサ(軍での呼び名はエリザベートではなく、ラリサに統一していた。彼らはニックネームや愛称だと思っていた)。
そんな彼女も16才。
軍の者達からすれば、頑張ってきたラリサに普通の令嬢として幸せになって欲しいのだ。
ちなみに魔獣の浄化は、キャラウェイ以外にも使い手が育ち無毒化も行えているので、キャラウェイも本業のメイクを主として活動している。
◇◇◇
そんな感じの昼下がりに、ラリサは呼び出しをかけた。
参加者はラリサ(エリザベート)、ウィリアム、カザナミ、キャラウェイ、ランランである。
今日は軍部が魔獣や猛獣狩りに向かった為に、軍の演習場を使い放題なのだ。
王族らと数人以外の周囲には伏せているが、ラリサは竜玉を保有している為保護対象である。魔族が狙いたいエネルギー持ち人間ランキング、ナンバーワンだ。
その為にタルハーミネかウィリアムが、交代で護衛に付いている。ラリサには内緒でこっそりと。
ドラゴンの守りがあると言っても、完璧に守りきれるとは言いきれないからだ。
勿論2人とも仕事があり、常に傍にいることは出来ないので、離れている時はラリサのオーラを遠くから把握しながら危険がないか探っていた。2人ともラリサが大好きなのだ。
そして今日、演習場でラリサは叫んだ。
「キャラウェイ、先の潰れた剣はそこの箱よ。好きなの選んで前に出てよ」
演習場の隅には長短、重軽様々な剣が樫で作られた黒い大きな箱に入っていた。
訓練用の剣は、使いやすい物を自分で選び共同で使用するのだ。
「おう、持ったぜ。行くぞ、ラリサ!」
「さあっ、かかってこい!」
身長差も体格さもある2人。
けれどラリサは素早い動きで撹乱し、キャラウェイに踏み込みを許さない。
倍のスタミナを消費し効率が悪いと思われるが、彼女は少々のことではへばらないのだ。
「腕が落ちたんじゃないの? 相手にならないわね」
「バカ言うなよ。今、目を馴らしているんだから。こっからだ!」
そして打ち合いが始まる。
ラリサは頻繁に攻撃を当てるが、キャラウェイにはそれほどダメージはない。代わりに時々ラリサが受ける衝撃は、一つ一つが重かった。
バチッ、ガッ、ガキッ、ギリリッと刃を交える音が、演習場に響く。
「っ………」
「辛そうだな、ラリサ。もうギブか?」
「いいや、まだ平気。でも魔力を載せても良い?」
「ああ、使ってこい!」
ラリサは呪文を唱え、剣に素早さと軽量を重ねる。
元々は調理特化が目的の、武器の性能を増すのが得意なのだ。剣は刃が潰してあるのであまり意味がない。
剣技以外の魔法を放つのも、剣での訓練趣旨に外れるだろう。
同じように、キャラウェイお得意の浄化もここでは効かないだろう。
長く打ち合いを重ねると、徐々に体力が削られるラリサだ。
そして、10分後。
「はぁ、はぁ。ストップよ、キャラウェイ」
「ははっ。今日は俺の勝ちだな」
「ええ、完敗よ。強くなったね」
「珍しく褒めるじゃん。嬉しぜ、ラリサ」
「ふふふっ。余裕ね、少し悔しいな」
最後の台詞は、キャラウェイには聞こえない呟きだった。
カザナミの呪いが解けかけてきたことで、ラリサの身体能力も低下していたようだ。
呪いの影響は、顔の作りが母や妹に似てきたことでも現れていた。
(呪いが解けるのも、良いことばかりじゃないのね)
少し寂しそうなラリサに気づくのは、ウィリアムとカザナミだった。
(姉上は戦闘力の低下を気にしているようだ。僕らが守りきると言っても、納得出来ないのだろうな………)
(………解呪のせいで弱くなったのか? なんだかんだ言っても、あの時の身体能力を保って転生してきたからな。普通の令嬢になっていくことは始めてのことだし、得ていたものを手放すのは辛いよな)
神妙な顔でラリサを心配するウィリアムとカザナミだが、ラリサはそれに気づかない。かける言葉も見つからず、沈黙がその場を支配した。
その間少し離れた場所では、ランランとキャラウェイが打ち合いを楽しんでいた。
ガチッ、バチッと、小気味良い響きが流れ続ける。
「さすがね、キャラウェイ。メイクの仕事が本業なんて思えないわ。いつでも第一線で通用するわよ」
「そういう、ランランだって強いよ。クリンアンパーン国の侍女は、みんなこんなに強いのか?」
「………そんな訳ないじゃない。私の家は貧しかったから、護衛と侍女を兼任していたの。高位貴族の令嬢なんて侍女とは名ばかりで、仕事なんか腰かけなのよ」
「そうか、大変だったな。俺も裕福じゃなかったから、バイトしながら勉強したんだ。負けてたまるかってな」
「そう。お互いに頑張ってきたわね。でも私、今の自分で良かったわ」
「なんで?」
「だってキャラウェイと出会えたでしょ? 普通のメイドなら絶対会えなかったわ。こんなに格好よくて強くて、メイクもしてくれる旦那様に」
「………ばっか、止めろよ。コントロール狂っちまうだろ!」
「ふふふっ、作戦がバレたか」
「なっ! 作戦なのか?」
「全部本当よ。愛しい人」
「もう! ストップだ。危なくてダメだ!」
2人は照れながら動きを止めた。
暫し見つめあい、お互いに笑みが溢れる。
◇◇◇
ベンチに座りボンヤリするラリサを他所に、ウィリアムとカザナミは打ち合いを行う。
元ブラックゴルゴノプスドラゴンと元魔界の王子の力は拮抗していた。
人化したばかりのカザナミは弱かったが、力をコントロールし体の動かし方を覚えた彼は変わった。見た目はジョージくらいの身長となり、ウィリアムよりも背丈は低いが訓練により筋肉も付いてきていた。
ウィリアムは後継者教育で訓練する時間が減り、今でも強いが前線で戦っていた時の鋭さはなくしていた。
それぞれの立場で役割を熟すことで、状況は変化していく。
ラリサやウィリアムが変わるように、カザナミも1人で暮らせるように努力していた。今でもキャラウェイの援助は受けているが、何れは完全に独立するつもりなのだ。




