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公爵令嬢は顔が薄い  作者: ねこまんまときみどりのことり


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地味顔の魔女の次女、イゾルデ

 イゾルデは、4才年下のラリサ(エリザベート)の妹である。


ファンブル公爵家の娘達は金髪碧眼、息子達は銀髪緑眼で優しげな面差しをしていた。


彼ら彼女らはとても仲良しで、いつも楽しい日々を過ごしていた。


エリザベート(ラリサ)長女 16才。

ウィリアムズ(イリヤ)長男 15才。

ジョージ次男 14才。

イゾルデ次女 12才。

シーラ三女 11才。



イゾルデの思い人ジェド(転生前ジェダイ)(7才)は彼女から見ると5才も年下だが、転生前(魔族だった時)の記憶を取り戻した今、(ジェド)からしてみれば幼女と一緒なのだった。


当然のように相手にされないイゾルデだが、相手にされない相手が姉に好意を持っていると知り、激しく嫉妬していた。


精神年齢的にはラリサ、イリヤ、ジェドはほぼ同じ時を超えてきたようなものなので(前世の記憶を持っているので)、話が合うのはある意味しょうがない。


正に孫と爺婆的な立ち位置だ。


イゾルデを望む人は多くいるのだから、他に目を向ければ幸せになれるのに、初恋の呪縛に囚われているのだ。


まあ言っても、まだ12才だもの。

仕方がない。


そして唐突に(ジェド)に告白し、振られてしまう。

「元は貴族とは言え、今の僕は孤児です。公爵令嬢のお相手には相応しくありませんので、申し訳ありませんがお断り致します」

「身分なんて関係ないですわ。貴方は立派なお仕事もしていますし。私が嫌いじゃないなら、婚約だけでもして頂けないですか?」


「申し訳ありません。今は仕事が忙しく………。お褒めのお言葉だけ有りがたく頂戴いたします。では、これで」

「あぁ、そんな………。お慕いしておりますのに………」


振り向かずに去っていくジェドと、矜持として縋れないイゾルデ。当然の如く、その晩は枕を涙で濡らしていた。


彼女が言わずとも、お付きの侍女から顛末はブルーノとメアリーに報告される。


「初恋が実らないは仕方ないけど、辛いことだね」

「ええ、本当に。私とブルーノ様は幸いにして初恋を実らせましたが、それもラリサ様あってのことでした。身分で反対はしないつもりですけれど、ジェドがずいぶんと大人びていますから。イゾルデにはもっとゆっくり愛を育てられる人が良いと思いますわ」


「俺もそう思うよ。今の時代は貴族の爵位が上だからと言って、婚約を無理にすることは一般的ではないし、政略結婚は流行らないからね。心を寄せた人がいればそれに越したことはない。お互いに割りきって見合いをするなら、それはそれで良いと思うけれけどね」

「私もそう思いますわ。イゾルデはまだ若いから、これからたくさんの出会いがあるはずですもの」


「今は見守ろう、メアリー」

「そうですね。きっと乗り越えられますわ」


2人は見つめあい、(イゾルデ)の初恋を見守ることにした。




そんなイゾルデだったので、まだ諦めきれなくて最近ラリサ(エリザベート)に頻繁に絡んでくる。


ラリサ(エリザベート)が魔石研究所から戻ると、イゾルデが部屋に突っ込んで来た。



「お姉ちゃんより私の方が美人なのに」

泣きながら喚く妹に困惑するが、理由が分かっているから強く出られない。


「そうね。あってるわ」


「私の方が先にジェドに会ったのに」

もう妹の理屈が、小説の悪役令嬢の台詞(セリフ)に聞こえる。間違っても(ラリサ)以外に言ったら揉めるやつである。


「それを言うなら孤児院の女の子達の方が、出会いは先になるわね。遡れば出産を担当した医師が女医なら、彼女が一番先に出会ったことになるわ」

「意地悪言わないで。そんなことじゃないって分かってる癖に」

顔を赤くして捲し立てるイゾルデ。

まあ生まれた時から知っているので、何を言っても可愛いらしいだけだが、家族以外にそれを向けてはいけない。だからこそ、少し話そうと思う。



「じゃあ、私にどうしろって言うのよ。教えて頂戴」

少し語気を強めてラリサ(エリザベート)が尋ねる。


「………わからないわ。何度も好きだと言ったし、プレゼントは受け取って貰えないし、研究所に移ってからは顔も見られないし。魔石を磨いていた時は、いつも隣にいられたのに………」


泣きべそで言い募る妹が切ないげなのに、ラリサ(エリザベート)はアドバイスが出来ない。

いや、簡単に慰めることは出来るが、恋愛面の知識を与えられないのだ。


言ってもラリサ(今はエリザベート)は、恋愛をしたことがないのだ。貴族として生まれれば政略結婚だったし、平民として生まれれば(記憶が戻った後は)冒険者として生き、家にお金を入れていた。

平民として生まれた時は何故かいつも、信じられないくらい貧乏だったのだ。今考えると、これも呪いだったのかもしれない。


だからラリサ(エリザベート)は、唯一知る恋愛結婚の2人を思い出してそれを元に伝えた。


「昔の話になるけど、こんな2人がいたんだ。

1人は公爵家の人間、もう1人は貧乏な男爵家の人間。

公爵家の子は家族の仲が悪くて、その子の祖母に育てられた。男爵家の子は貧乏で、その公爵家の祖母の世話をすることで、親がお金を貰って行った。

最初は主従関係だった2人は、祖母の身のまわりの世話をする代わりに共に教育を受け、薬草の世話をして過ごした。時には遊んだりしてね。


どうしてだと思う?

身分は違っても、お互いに同じことをして、お互いを尊重したから気持ちが通じたんだろうね。


最初はたぶん友情だったはず。

愛情になったのは、2人が同じ気持ちになったからなの。


1人が友情だけで、1人が愛情を持つなら、恋にもならなかっただろうね。


だから恋愛は難しいの。


私は恋をしたことがないけど、その2人を見れば分かるよ。

愛し愛されるのは奇跡に近い、素敵なことだとね。


時には不誠実な男や女が、好きでもないのに好きだと言って騙すこともあるしね。本当に上手くいく恋は一握りだと思うんだ。


だからイゾルデも押してばかりじゃなくて、引いてみることも大事だと思うの。


ジェドは押してくる貴女しか知らない。

本当は可愛くて、優しくて、自慢の私の妹なのに。


だからイゾルデがもっともっと素敵になって、ジェドが恋するように仕向けるのが良いと思うの。


物理で離れたら意識されないから、隣まで行けるような存在になれれば良いと思うわ。


貴女が諦めきれなくて、ジェドにパートナーがいないなら、同じ職場に勤めるのもありかと思うわよ。


まあさ、気が変わるかもしれないけど。

素敵な淑女になるのは、とても良い考えだと思うわ。

チャンスが広がるもの。


ちなみにさっきのお話は、ブルーノお父様とメアリーお母様のことよ。

もっと詳しく聞きたいなら、自分でお願いしてみなさい」



イゾルデは黙って話を聞いていた。

本当にどうしたら良いか分からなかったのだろう。


興奮気味で、話しても聞き入れなかったのかもしれないし。


「分かったわ。ありがとうお姉ちゃん。………あと、ごめんなさい。怒鳴ったり嫌なことも言って。………私のこと嫌いになった?」


冷静になった妹は泣きそうだ。

これはこれで尊い。


私はイゾルデを抱き締めて囁く。

「何でも一生懸命な妹だもの。嫌いになんてならないわ。でももしシーラが恋愛に悩んだら、話を聞いてあげてね。私じゃあ、アドバイス出来ないから」


微笑んで言うと、イゾルデは黙って頷く。


私は妹にも初恋を先に越されたと、少し目を細めた。

(自分の思い通りにならないことは、きっともどかしいわね)


いつまでもイゾルデが、赤ちゃんだった頃のことを思い出して成長の早さに驚く。




そして私のところに突進しなくなるだろう(イゾルデ)を寂しく思うのだった。




その後、ブルーノとメアリーは質問漬けになったようだが、途中から惚気が入って話が進まないとイゾルデは嘆いていたそうだ(メイドより微笑んで報告されたラリサ)。



こうしてファンブル公爵家の夜は、今日も暢気に過ぎていくのだった。



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