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公爵令嬢は顔が薄い  作者: ねこまんまときみどりのことり


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地味顔の魔女、日常

「だいぶん外貨も貯まりました。国の貯蓄金も増えましたし、ここら辺で今後の方針を決めましょうか?」



王族とラリサ達は有り余る魔石を加工し、アクセサリーやお守り、エネルギーとして他国に売却していた。

それと平行して、魔石を使った魔道具の開発も進んでいる。

その他に、化粧水やメイク道具にも転用されていた。

魔物の肉や毛皮・牙などの加工品も同様に人気があった。



過去に散々被害を受け、害獣扱いして山に放置していた魔物に宿っていた魔石で、かなりの利益を得たのある。


ドラゴン姉妹に宣伝して貰い、知名度が上がった商品効果もあるが、概ね王家が主導して得た成果だ。


今日は定例の役職会議。

各部署の進捗を報告し、方向性を話し合う場。

会議室を使用し、各部所の代表者が席に着いている。



「最近魔獣も少なくなりましたし、近いうちに魔獣肉は打ち止めでしょうね。魔石はまだ大量にありますが、なくなり次第終了となる見込みです。今後は魔石動力の代わりを他国にならい、機械や何らかの動力に変換する研究が必要ですね」


アナスタシアの発言に、どよめきが起きる。せっかく規定路線に乗った事業の変更なので、混乱もするだろう。


「ですが、みんなが頑張ってくれたので、国庫予算は10年以上分ありますし、銀行の蓄えも多いです。今の事業も魔獣の肉や加工品以外は、10年近く続く見通しです。変換に向けて取り組くむことも念頭に入れて欲しいと言うことなので、焦ることはありませんよ」


「そうですね。今後を考えれば、確かに新規事業は必要ですよね」

「ビックリしましたけど、同じ事業だけではリスクもありますから、同意です」

「そうですよね。魔獣、少なくなりましたものね」

「毒のある魔獣、美味しいのにね………」



いろいろな意見はあるも、アナスタシアの説明により穏やかな雰囲気で話が進んでいく。

今まで馬車馬になって働いた分、蓄えも増えたので余裕があることも理解して受け入れられた。


魔獣肉部門は、猛獣の住む山があるのでシフトチェンジしても良いし、魔石研究部門は薬草や宝石・真珠などを分析を深め、今の部門と平行して薬剤部門や化粧品開発を進めて行くことになった。

魔石研究員の幹部3人(ジェド達)は元々開発と分析に特化しているので、この部門(魔石に関する仕事)が将来的になくなっても引く手あまただ。


不安そうなジェドに気づき、声をかけたのはラリサ。

「大丈夫だよ、ジェド。魔石がなくなっても、優秀な貴方なら何処の部所でも欲しがる人材だよ。年齢が若いことで気にしているのなら、もっと心配ないよ。魔石がなくなる前に成人しているだろうから。ジェドが望むなら、他の仕事も選べるんだよ」


「エリザベート様………ありがとうございます。僕は幸せ者です。貴女に声をかけて貰えて………」


「大丈夫? 気分が悪いなら休んでおいで」

「っ、大丈夫です。僕、嬉しくて………。ありがとうございます」

「そお? 無理しないでね」


泣き出すジェドの眦に慌ててハンカチを渡すエリザベート(ラリサ)。彼は満面の笑みでその優しさに感謝する。

安心して去っていく彼女を見つめた後、過去を思い出し目を閉じる。


ジェドは、自分を管理者に引き上げてくれたエリザベート(ラリサ)に感謝していた。そして今も、先の不安がないようにと助言までくれるので、感動で涙が込み上げたのだ。


能力があっても 「子供だから、子供の癖に」 と、一部の大人や年上の孤児が弱い者や年下の者から搾取を繰り返す日々だった。それでもジェドは、自分を慕う年下の者を守る為に戦ってきた。自分だって弱い子供だったのに。

かつて悪い大人達も、同じことをされていたのかもしれないが、それに従う彼ではなかった。だからいつも傷だらけ。そんな彼だから、慕う人間も増えていった。

『俺も兄ちゃんみたいになる!』

『悪い大人にはならない!』

『お兄ちゃんと一緒に頑張る』

などの声を聞いて、どんなに嬉しかったことか。


(エリザベート様は悪い大人達に搾取されないように、個人通帳まで作って子供達を守ってくれた。それだけでなく、能力に応じて仕事まで斡旋してくれたんだ。まさに女神だ)


神は信じないのに、エリザベート(ラリサ)を女神扱いするジェド。その崇拝もどうかと思うレベルだが、中の人であるラリサは竜玉を確保する為に殺しに来た相手だった。

今はもう人間として生きるジェドは、その指令は関係ないと思っているけど。


そんな中で会議が終了した。





◇◇◇

そんな昼下がり、ジェドが気になって様子を見に来たラリサ(エリザベート)。


今日のジェドは、魔石と薬草の合成実験をしていた。


《魔石の効能として》

炎属性は、赤色に近く、

水属性は、青色に近く、

地属性は、緑か茶のどちらかに近く、

風属性は、透明に近く、

氷属性は、灰色に近く、

闇属性は、黒に近い。



青の魔石とキズナオリ草を合体するという。

ジェドは試験官に入れた2つに魔力を流し、少しずつ溶解しながら撹拌していく。


理論上では撹拌時に出る熱で水分が発生し、簡易の治癒薬が出来るはずだった。コツが掴めれば重いポーションを持たずに、誰もが必要な時に使える常備品になる画期的な商品だ。


危険な組み合わせではないので、近くで見ていたラリサ(エリザベート)だが、緊張したジェドは手が震えていた。


(こ、こんな近くにエリザベート様が。なんて尊いんだ!)


いつもは失敗しないジェドなのに試験官が傾き、出来上がった薬液が噴射してラリサ(エリザベート)の顔に降り注いだ。


「ああっ、エリザベート様、避けて下さい!!!」

「エリザベート様!」

「嘘っ、何で!」


蒼白顔なジェドはラリサ(エリザベート)に駆け寄った。

カリナとランランも傍に走った。


「大丈夫ですか? エリザベート様!!!」

「大丈夫よ。目は咄嗟に閉じたし、私が無理言って見せて貰ったのだもの」


「でも、でも………」

「心配性だね、ジェドは。私はオウギワシを片手でやつける女なのよ! こんなこと平気よ。なんなら毒の血を浴びすぎて、毒耐性もついてるんだから!」


泣きそうなジェドに力こぶを見せるエリザベート(ラリサ)は、ニカッと微笑み彼の頭を撫でた。ジェドは驚き涙は引っ込んでいく。


「ああ、ごめんなさい。つい弟達みたいに触ってしまって。あと申し訳ないのだけど、タオルを借りて良いかしら?」

「はい、エリザベート様。こちらをお使い下さい」


カリナに手渡され、その場で顔全面を拭いたラリサ(エリザベート)。

濡れているから、当然に化粧も落ちる訳で………。


「エリザベート様のお化粧が!」

「………もう1枚タオルをお持ちします」

「ああ………エリザベート様」



「あ、私、お化粧してたんだっけ? あららっ」



暢気なラリサ(エリザベート)に、3人は戸惑う。

(ふ、不敬になるのかしら?)

(なんか、いつもと顔違うわ)

(エリザベート様の素顔が!)


「可愛いです………」

「えっ?」

ジェドの口から思わずそんな言葉が出ていた。


本来ならラリサの顔は、ジェドにとっては国を傾けた憎き相手のはずだった………のに。


ラリサ(エリザベート)も可愛いなんて言われて、咄嗟に頬を染めていた。


本来なら前世に殺したブラックゴルゴノプスドラゴンの呪いで、顔が前世と変わらないはずだったラリサだが、そのブラックゴルゴノプスドラドンであるカザナミがラリサを許したことで、次第に呪いが解けていたのだ。


でも徐々になので、本来なるはずの美人顔にはほど遠い。

けれど可愛い感じの顔にはなっていたのだ。


当然の如く、ジェドが知るラリサではなくなっていた。


ラリサは自分の顔を毎日見ていたので、その違和感に気づいていなかったが、スッピン顔を知る者達は全員その変化を知っていたのだ。可愛くなったなと。


ラリサを馬鹿にしていた、公爵家のメイドも悔しがっていた。

「いくら公爵家でも、あんなブスなら私の方が上よ」と謎の優越感を持っていたのに愕然としていた。

「美人じゃないけど、可愛いわ。4才下のイゾルデ様に似ている。悔しい~」


ブルーノとメアリーは困惑していた。

「ああ、婆ちゃんの顔がぁ」

「ラリサさんがいなくなった。寂しい」

とは言っても、大事な祖母であり可愛い娘であるのは同じなのだが。慣れ親しんだ顔が変わっても愛情は不変なのだ。


その点、弟妹達の反応は変わらない。

「お姉ちゃんはお姉ちゃんよ。でも私と双子みたいで嬉しいわ」

「シーラは、どっちもお姉ちゃんでも好きですよ」

「別に変わんねーだろ。騒ぐことかよ? それより俺の育てた筋肉を見ろよ!」

「やだ、ゴリラ兄ちゃん」

「私は痩せマッチョが良い」

「くうっ、俺の努力を貶す愚妹めぇ。姉ちゃんは褒めてくれたのに!」


「褒められたのか? 羨ましい奴め! 僕も褒められたいぞ!」

いつもはクールなのに、姉が絡むとポンコツと評判のウィリアム(社交的には完璧に隠しているので、家族内限定の残念さん)。彼はラリサの内面が好きなので、容姿は端から気にしていない。ただただ姉LOVEが加熱し、心配されているのだ。


「結婚しないのなら、家督はジョージになるかもな?」

祖父ヴァルモンも呆れながら言うくらいだ。横にいる妻タルハーミネ(ヘルガ)に声をかけると、彼女は楽しそうに笑う。白い結婚のままの2人だが、ヴァルモンは今さらながら彼女に好意を寄せていた。


「たくさん子供がいるから、結婚しない子がいても良いじゃないの。別に女の子が後継でも良いのだもの。手持ちの爵位も何個かあるし、喧嘩しなければ良いわよ」

「う、うむ。そうだな。仲が良いに越したことはない」


会話が弾まないのは通常。


今タルハーミネは、前世のヘルガの記憶を持つ。彼女は前世を思い出す前に、ヴァルモンに迫り過ぎたり散財や我が儘で嫌われたことを後悔していた。なので今は一定の距離を置いている。


ヴァルモンは我が儘なタルハーミネは嫌いだったが、今の気さくで孫と仲の良い彼女を好ましく思っていた。夫婦までとは言わなくとも、友人くらいの距離にはなりたいと思っているが、避けられているようで寂しいのだ。


上手くいかないものである。






話はだいぶん飛んだが、ジェドは思った。

(いつもの凛としたメイクの彼女も良いが、素顔がこんなに素朴で可愛いなんて。やっぱり素敵だな)と。


ちなみに今のラリサ(エリザベート)は、イゾルデを薄くした感じの顔である。

間違いなく美人勝負は、ラリサ<イゾルデの勝ちである。



イゾルデの初恋は年下のジェドで、ジェドはエリザベート(ラリサ)が好きだと隠していないので、いつもヤキモチを焼かれている。


今後、貴族制度の廃止も考えているジャームンサンド国だから、ジェドにもチャンスが訪れる予感。


ラリサ(エリザベート)16才。

イゾルデ12才。

ジェド7才


何れも婚約者不在である。

ラリサ(エリザベート)に婚約者を作れば、ウィリアムが荒れそうと言う理由で打診も全て断っている。


嫡男のウィリアムも当然のように、まだ僕は若輩者ですと顔合わせさえ撥ね付けていた。


祖父ヴァルモンの頭は痛いが、公爵を退いた身であまり口は出せない。他の家族は恋愛結婚賛成派なので、勿論放置状態である。


恋の気配があるのが、なんとジョージである。

それも両想いのようで、時々一緒に外出しているのだ。

お相手はタルハーミネが以前に話していた、侯爵家のマーメイラ・ラボンネ嬢。おっとり美人で慎ましい令嬢である。

ジョージから手紙でデートに誘い、睦まじく食事や観劇に行き、微笑み合える仲に至ったのだ。


もし貴族制度がなくなっても、仕事を持つ人が殆どなので困窮することはあまりないだろう。裕福ではない時の、昔の国の状態を知っている2人も勿論そう思っている。情報として経済国家として生きていくなら、他国にならい身分の形骸化が効率が良いと学んでもいたからだ。


完全になくならずとも、大きすぎる利権は維持出来ない税政になる予定が組まれている最中なのだ。




ジリアン達の動きと共に、ラリサ達の日常も少しずつ変化していくのだった。



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