ウィリアムの憂鬱
ウィリアム(魔界名イリヤ)はラリサを慕っている。
大事な家族として、いつも可愛がってくれる姉として。
(それ以上の気持ちを持ってはいけない。
今の僕は弟だから)
そんな彼だったが、
第二王子イリヤの体はライメイに奪われ、既にジリアンの体の一部となった。
その経緯は分からないものの、繋がっていた魂の一部が切り離されたことを感じたのだ。
「ああ、僕の体との繋がりが切れた。きっと反乱分子に奪われて………。申し訳ありません、父上。僕がすぐに戻っていれば。いやそれは言い訳だな。………僕はここから離れたくなかったんだ。だから……………」
済まないと思う気持ちと同時に、今さらながらの無力感に苛まれる。
たとえ今以上に、故郷のグリッドイメロディ国が混乱に陥っても、もう自分に出来ることはないと思い。
ジャームンサンド国に来たのは、ラリサを殺して竜玉を奪い返し、ブラックゴルゴノプスドラゴンを元の状態に戻す為だった。
けれど状況は変わった。
カザナミは人化してこの国の住民となり、その姉ドラゴン達も共に協力的で、ジャームンサンド国の保護に回った。
その一方でグリッドイメロディ国からの攻撃は止まっている。
グリッドイメロディ国内が混乱中で攻撃が止んでいるとしたら、今はどうなっているのかと考えるウィリアム(イリヤ)だ。
実際には停戦どころか闘いに飽きての小休止中だし、イリヤとジェダイの体がなくなったことも知られていない。
ライメイの特殊能力で、そこら辺の魔族を代わりに放り込んでいたからだ。時間軸を歪めて、2つの物体を交換した裏技である。
そんな感じでウィリアム(イリヤ)が心を痛めている中、ラリサ達はジリアンが城を去ったことを知った。
ウィリアムは知らされていないが、ラリサとタルハーミネ(ヘルガ)は、彼女がゼフェルを暗殺しようとしたのを知っている(アナスタシア達も何となく気づいていたが、ゼフェルは知らない)。
「汐らしく離婚したそうだけど、そんなキャラじゃないよね?」
「ああ、あれは強かな女だからね。前世の記憶が戻る前の私より、よっぽど質が悪いよ」
「何か企んでいるのかな?」
「どうだろうね。ロビンが隣国に行ったから、王太子にするのは困難だ。けれど、ゼフェルが死ねば返り咲きもありえるしな」
「じゃあ、それを狙ってるのかな?」
「分からないけど、なんか違和感は残るよ。ロビンが隣国へ行って酷く落ち込んで、侯爵家に戻った時に何かあったのかもね。その後ライメイとも絡んでいたそうだし」
「そうね、ずいぶんと落ち込んでたわ。でも違和感までは抱かなかったなぁ。
ただジリアンはお洒落が好きだから、気分転換したのかも? 彼女の持つ珍しい宝石をライメイに提供して、美容とかのアドバイスでも貰っていたんじゃない? ジリアンは平民のキャラウェイのことを毛嫌いしていたから、彼女を間に挟んだりしてさ」
「ああ、ありえるわね。見栄っ張りだし、身分で態度が違うからね。私は一応ヴァルモン(前侯爵)の後妻だから、無下に扱われなかったけどさ。
下位貴族への態度っていったら酷いものだったよ。反面、男には好かれていたけどね。彼女は女に対して意地が悪いんだよ。
私のことも陰では、行き遅れの癖にって言ってたそうよ。これを聞いたのは前世の記憶が戻って、周囲と馴染んでからだけど、戻る前なら喧嘩吹っ掛けてたかもね。恥ずかしいけど、以前の私とジリアンは似てるのよ」
「そう、ですね。確かに以前の師匠は、ちょっと嫌な感じでしたね。継子のブルーノを苛めたり、メアリーにも嫁姑問題を起こしていたし」
「もう止めて、ラリサ。昔はそういう環境に追いやられていたのよ。両親に可愛がられ過ぎて、自分が一番可愛いから愛される人間だと勘違いしてさ。憎んではいないけど、ちゃんと教育して欲しかったわね」
「そうなんだ、ふふふっ。初耳ですよ、それ」
「まあ、それはもう良いよ。でもさ、急に性格が変わったのなら、ショック過ぎて前世の記憶が戻ったのかもよ、ジリアンも」
「ありえるかも。実際所作も綺麗になって、いつも落ち着いていたし。私にも普通に綺麗な挨拶をしてくれたしね」
「前世組かぁ? でももう誰が誰だか分からないわね。私達と無関係かもしれないから、探れもしないし。
もう良いか。ほっとこう」
「………そうですね。城から遠ざかれば脅威も避けられそうだし。もし前世の記憶が戻っていたら、師匠みたいに悶えているかもしれないし」
「………嫌なこと言うわね。でもその通りよ。この話は一旦保留よ、ラリサ」
「はい、師匠!」
せっかく違和感に気づいた2人だが、特に話は発展しないのだった。
◇◇◇
ウィリアム(イリヤ)は魔界の父親達を心配するが、母親であるヘルガ(タルハーミネ)が祖母として傍にいるので、あまり寂しさは感じていない。
元々仕事第一で、家庭を大事にしなかった父親。
そして愛人が山ほどいて女性を大事にしない部分は、魔族であった時も嫌だと感じていた。
だからこそ、愛に溢れる今の家族が大好きなのだ。
父の下にいる家臣は大変だろうけど、他国に渡るのは自由だ。一からやり直すのは大変だけど、前向きに頑張って貰うしかない。
多忙な1日を終えてベッドに入るウィリアム(イリヤ)は、既に魔族の役割を終えたことを自覚する。
「明日から僕は、ただのウィリアムだ」
人間の彼も侯爵家の次期当主。
まだまだ覚えることはたくさんある。
少しだけ荷物を下ろした彼は、グッスリと眠りに就くのだった。




