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公爵令嬢は顔が薄い  作者: ねこまんまときみどりのことり


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ライメイ、暗躍

2/16 15時。

コメディーと言えなくなり、ヒューマンドラマへ変更しました。スミマセン。

 ドラゴン、それは生物の食物連鎖の頂点に位置する生物。戦闘力、知力、寿命共に優れておりほぼ敵なしだ。


最近のドラゴン姉妹は、ジャームンサンド国にいることが多かった。


弟のカザナミが人化して、その国にいることが主な理由で、弟の同居人(キャラウェイ)達と美しさについて追求していた件も関わっていた。


要は遊んでいた訳である。


カザナミが優遇されるように、彼が生きているうちはジャームンサンド国に手を出さないことも約束していた。


ドラゴン姉妹限定で。


あくまでもドラゴン姉妹が手を出さないだけで、彼女達の友人や知人が攻めて来ても止めることはないが。



そんなある日、ドラゴンの姉ライメイは思った。

自分達の生命力は、魔力で左右される。


魔界からの魔獣は、放って置いても問題ないが、ジャームンサンド国へけしかけられてくる魔獣が多すぎる。


そして来た魔物は、ほぼ100%狩られている。



ライメイとウミナリは今後、自分達の寿命が尽きるまで(カザナミ)の転生を見守り、影ながら助けていく予定だ。彼が転生後にドラゴンの記憶をなくしても、ずっと。


その為には出来るだけ強く、長く生きる必要がある。


ラリサ達に魔獣が狩られ過ぎると、自分達(ドラゴン姉妹)の糧が減るのである。

魔族は毒が多い魔獣をあまり食べない(市井で養殖した獣がいるので)が、人間が魔獣を浄化して食べ強くなったことを知れば、需要は増えるだろう。



一度減少した魔獣達は、育つのに時間がかかる。

既に居なくなりそうな種も、ちらほら現れだした。


このままではまずい。

そう思ったライメイである。


彼女達(ドラゴン姉妹)は生まれた時から既に魔力も多く、特にライメイは魔獣が全盛期を迎えた時に若年期を生きていたことで、それらを屠り莫大な魔力を保有していた。


今後魔獣を食べなくとも、数千年は生きられるほどに。



けれど美しさが素晴らしいと評価され、快感を覚えたライメイは老いることや朽ちることを恐れた。

いつまでも美しく存在し、このまま生き続けたいと思い。



だからこそ、野心を燃やすジリアン達を利用したのだ。


そもそもドギェルが友人だと言うライメイだが、魔族とドラゴンの友情など、人間とは違う淡白なもの。


利用できるかどうかで、共闘したり共にいる時間を過ごすからだ。人間的に言えば、知人程度の仲と言っても言いだろう。



彼女(ライメイ)は、魔族のくだらない企みを知っていた。せっかく強い肉体を自ら捨て、自分達に都合の良い(カザナミの)竜玉を取り戻す為に、人間に転生する愚かしさを。


国を治める器にもないのに、権力を手放さずしがみつく強欲な魔王に。

そもそも魔界に魔王はたくさん存在する。

ハイルリヒ王(イリヤ(現在ウィリアム)の父親))率いるグリッドイメロディ国は、隣の国がジャームンサンド国であり、人間の住む地域なら勢力を伸ばせると思い、昔から小競り合いを繰り返していた。


本来なら同じ魔界の魔王に戦いを挑んだ方が、距離や物理的に簡単である。

けれどどの魔王も曲者揃いであり、脳筋のハイルリヒ王では敵わない強者であった。


グリッドイメロディ国は人間界と隣接している国であり、時に信じられない行動を取る人間達の防波堤的な役回りと見られていた。


だからこそ他の魔界の王から蹂躙されることなく、生きて来られたのである。時には魔国同士で、商品の売買なども行いながら。



基本的に魔界の住民のエリアは、王族や貴族、平民で住むエリアが分かれている。


ずいぶん昔に平民が戦禍の犠牲になり、働き手が居なくなったことで戦勝国も生活レベルが低下し、不満が爆発したことがあった。

支配した国の王族・貴族を奴隷としても、クリエイティブな物を作り出す職人ではないから、精々が下男・下女の仕事くらいしか出来ない。


食事も、服飾や装飾、便利な発明品、家具・住居建設にいたるまで、平民が支えていたことを知ったのだ。


その為に魔国の地脈になる平民区は、管理者を付けてバリアーにより守られることになったのだ。


時々国により統治者が変わっても、年始に税金を払う手続きを管理者に支払えば済む仕組みにした為、誰が統治者でも関係がなくなった。


他の国への出国も自由で、商売や暮らしにくいと思えば住み家も移して良いことになった。

その点の自由が保証されたのは、魔界の法律とも呼べる秩序を作ったのが、当時の最強国だったせいもある。


自国に人が集まれば、経済も発展し税金も集まる。

下手に住民を返せなどと責められることなく、有能な人材の引き抜きが出来ると考えたようだ。



だから個人(平民)的にはそれほど大きな問題もないのだが、愛国心は育つもので、麗しい王子や美しい王女が生まれれば、誇らしくも思うし、長年暮らす住居にも愛着は生まれる。


そんなような仕組みだった。



魔界の強者であるドラゴンには、標高の高い場所が住み家として認められていた。

今は数を減らす彼らが、太古から多くの山を占拠しても文句は殆どなく人々に敬われている。


魔族も一目置く狡猾さと残忍さは、他の魔獣のように使役しようとして失敗した過去にあった。


長寿である魔族達は、親世代の忠告を聞いて育って来たからだ。


『ドラゴンは強い。たとえ殺しても言いなりには決してならず、殺せば恐ろしい呪いがふりかかる』 と、子守唄のように幼い時から聞かされていた。


人間界にも伝わるその話だが、300年前のラリサ達は親との縁が薄くその話を知らなかった。そして300年後の今は、その話さえ風化している。



簡単に言えば、魔界でもドラゴンは放置されていたのである。

税金や宝石をねだることもないドラゴンという存在は、時に勝手に奪い、勝手に暮らしていた。

被害に合えば運が悪かったと、天災のレベルだ。


そのうちに自由に姿を変え、正体を隠して貢がせることもお手のものとなり、上手く人間界に馴染んだ者も出始めた。ドラゴン姉妹が良い例である。


ただずっと人化した状態で過ごすのは、今回がはじめてである。思っていた以上に魔力が消費されず、燃費が良い。


そんな生活で獲得した美意識が、今回ライメイを動かした。


ライメイからすれば、

「人間は寿命が短いから、悩んでいるうちにすぐ死んでしまう。けれどこの世に執着があって、手駒になりそうなら利用しても良いんじゃないかしら? 失敗?したら、痕跡も残らずドラゴンブレスで消したり、別次元に飛ばせば良いもの」 と簡単な思いつきだった。

ウミナリにもばれないまま、事を運べると思っている。



人間的なら最低だが、ドラゴン的にはごく普通の思考なのだ。強者の理論である。


ただドラゴンにも個々に性格がある。


ライメイはこんな感じだが、ウミナリは温厚だった。

彼女もライメイ寄りの思考だったが、ラリサやキャラウェイと出会い、人間が好きになっていた。


まあもしかしたら、今回のこの時間限定かも知れないが。

だからこそ、ラリサの仲間であるブロディ (ニール) の妻ジリアンを利用することを知れば、きっと止めたことだろう。それも利用の仕方がエグい。ジリアンVSジャームンサンド国との、骨肉の争いになりかねないのだから。


けれどライメイはジャームンサンド国が戦禍に見回れても良いと思っていた。


彼女はカザナミとウミナリがいれば、他は重要ではないのだ。

キャラウェイの代わりになる、彼の弟子も大勢確保出来たし、戦禍になればついでとばかりに魔石の山を飲み込もうとも思っている。

カザナミとウミナリに強く反対されても、主要人物が死んでしまえば諦めるだろう。

所詮(しょせん)、ドラゴンと人は違うのだから。

死んでもすぐに転生してくるわよ、程度な認識である。



◇◇◇

ジリアンは覚悟を決めた。


決意を聞いたガールナは、もう止めなかった。

ベッドに寝たまま朽ちるより、好きに暴れたら良いわと思って。




その日、ジリアンとガールナは、ドラゴン姉妹が暮らしていた山の山頂にいた。寒さと強すぎる魔素を防ぐバリアーをその身に張り巡らされて。



彼女達の眼前には、魔界の王子と宰相の息子であろう体が空中に浮いていた。


彼女の側近である『ネル』も、彼女の傍らにいる。



「ネル。今までありがとう。貴女のいないこの世は寂しくなるわね」

「勿体ないお言葉です。幼い時にライメイ様に救われた命、そのご恩を忘れた日は御座いません」

「本当に………辛いわ」


この時ばかりはさすがのライメイも、悲しそうな表情だった。家族以外に心を許せるのは、彼女の他にはいないのだから。



ライメイは魔界の王子イリヤと宰相の息子ジェダイの体を、魔方陣で作り上げたブラックホールのように黒輝(くろびか)る直径5メートル程の渦に投げ入れた。


ゴキバキゴキッと、あり得ない音を立てて渦は回り続ける。そこに老婆の人化を解いた 『ネル』 が、ドラゴンより一回り小さいブラックゴルゴスネークとなり、渦に飛び込んだのだ。



「ヒッ、何よこれ。みんな死んじゃうじゃない!」

恐怖にひきつるジリアンに、ライメイは言い放つ。


(わたくし)が無駄なことをすると思って? 私の 『ネル』 まで冒涜することは許さなくてよ!」


バキバキバキバキと、激しい音が暫くして鳴り止み、渦は小さい2つの飴玉ほどになって、ライメイの掌に降りてきた。


「これを1つずつ飲みなさい。ブラックゴルゴスネークの形は変えられないけれど、人間の型なら好きに変化するわ。思い浮かべながら、飲むのよ。効果が切れる前に、さあ!」


ジリアンとガールナは、腹を括る。

いくら恐ろしくても、もう逃げられない。



「ゴクン」

「ゴクッ」


2人は同時に飲み込んだ。


「ああっ、体が、熱い、や、中から、焼けそう。ぐぁ、ぎゃあああああっ、ひいっ、やああああああっ、たす、助けて、死にたく、ない、よ、お祖母さ、ま、あああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


「ひぐっ、ああっ、な、何で、苦しい、ジリ、ジリアン、しっかり、生きて、息を、ぎゃあああああっ、痛い痛いっ、ひぃいいいいいいい!!!!!!!!」



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…………

……




どのくらいの時が過ぎたのだろうか?


そこには横たわる2人の女性がいた。


服はボロボロであるが、その肉体には傷一つない。



「お、お祖母様。私、生きてるの?」

「………あぁ、ジリアン。生きていたんだね。良かった」



永遠とも思える苦痛の中で、それでも自我を保ち続けられた2人。きっと1人では諦めていたことだろう。


堪えきれない苦痛の中でも、お互いを思い合う気持ちが明暗を分けたのだ。


もし自我崩壊して暴れるだけの存在に堕ちたならば、ライメイは即座にその存在を呑み込んだだろう。



山頂に来てからの時間は、僅か1時間あまり。

だがそれは、酷く長い途方に暮れるほどの経験になった。


「お祖母様、とっても綺麗だわ。まだ成人にもなっていないような姿です」

「そうなの? やっぱり私は、若い時代に戻りたかったのかしらね。それよりも良かったわ。ジリアンが無事で」


「お祖母様………、私の為に(ごめんなさい)」


辛かった筈なのに優しく微笑むガールナは、ジリアンの心を強く揺らした。最初はジリアンには変化をしなくても良いとさえ言ってくれていた。

全ては自分(ジリアン)の為に。



ジリアンの父ナシンを生んで、ナシンが魔力が少ないことで怒った夫に追い出された後、何を犠牲にしてもナシンを連れて行けば良かったと後悔したあの姿まで戻ったようだ。


でもその思いは今、ジリアンを守りたい気持ちへと変わっていた。

ライメイからこの件を提案された時も、死の淵を覗いた時も気持ちは変わらなかった。


ナシンが無事に生きていたから会えた、唯一の孫。

自分と同じ寂しさを抱えた、ナシンに似ているのに悲しい目をした女の子。




◇◇◇

ジリアンもまた、こんな苦痛を共に乗り越えてくれたガールナに愛を感じた。

自分のことだけを中心に考えてきた彼女(ジリアン)は、本気で自分のことを考えてくれたガールナを信じたのだ。


ジリアンの体もまた、若返っていた。

ニール(ブロディ)に恋をする前の、まだ子供だった頃まで。



ライメイの依頼の一つ目は、卵を生むことだった。

ドラゴンの巣の中で、2人は変化する。


山を隠すほどの大きな大きな黒い大蛇へ。

大いなる脅威が今日、2体誕生したのだ。


おどろおどろしい姿を互いに晒し、1メートル程の卵を10日で5つずつ産んだ。


そして何ともない顔をして、生家の侯爵邸に戻った2人。

旅行に行くと言い10日前に家を出て、戻って来たのだ。

ナシンは護衛を付けたがったが、男を傍に近づけたくないとジリアンが訴えた為に、ガールナと2人で出て行ったのだ。



既にガールナは以前とは別人だった。

だからジリアンは父侯爵(ナシン)に、ガールナの妹の孫だと説明する。


「………そうか。まあジリアンの好きにしなさい」

「分かりました。ありがとうございます、お父様」


ナシンは気づかない。

ガールナが若返った姿だとは、微塵も。



だけどもう、ジリアンとガールナに孤独感はなかった。


「そろそろ城に戻るの? ジリアン」

「ええ。お祖母様も一緒に行きましょう。私の侍女として」

「そうね。侍女なんて楽しそう」


アルカイックスマイル(張りつけた笑み)を武器にして、2人は敵地に戻る。誰の味方もいない場所へと。




◇◇◇

その頃ライメイは、ウミナリにバレないように画策していた。グッドルッキングガイと旅行に行っていたと、嘘を吐いて。


勝手なことをして、嫌われたくなかったからだ。



この短時間でライメイは、グリッドイメロディ国から王族と貴族の体を2体盗み、ジリアンとガールナを魔獣に変化させ、彼女達の産んだ卵を丸のみしていた。



お肌のツルツルに喜ぶも、あまりにもやらかし過ぎてちょっとだけ後ろめたさもあった。


さすがにウミナリも、怪しんでいるようだ。


間もなくバレてしまうだろう。





◇◇◇

そして分身とも言える体をなくした、ウィリアム(イリヤ)とジェド(ジェダイ)は感覚でそれを感じていた。


「僕の体が消えた……………。誰が?」

「俺の体が、なくなった。もう戻れない!」



絶望もあるが、諦めもついた2人。

それもそうだ。

だって元々、人生を2人分生きられる訳はないのだから。



この日、ウィリアムはラリサの弟として、ジェドは魔石の第1号研究員として生きることを決意した。





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