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公爵令嬢は顔が薄い  作者: ねこまんまときみどりのことり


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ロビンの結婚

 ローゼの侍女ランランは、先日一目惚れを実らせてキャラウェイと結婚した。生まれた時から傍に居てくれた彼女(ランラン)を手放すのは寂しいが、幸せになる彼女と涙ながらに離れることにしたローゼは、時々ジャームンサンド国に遊びに来ていた。


この国の驚異的な発展をその目にしたショートニンは、以前からの和平条約に加え、友好国となることを締結した。その他にも輸出入を行うことと航海についての知識を共有し、海路の安全性を互いの国が図ったことで海賊の取り締まりができて、行き来が活性化した。


以前より行き来が安全になったことで、ローゼが更に月1回単位となり、ランランに会ったり食後に買い物をして数日過ごして帰ることが通例になった。


ショートニンはその度に、ローゼ達が王宮で世話になることに申し訳なさがあった。その為、交換で留学生を毎年無償で受け入れることを提案して来たのだ。


提案は実施されることになり、

今年からクリンアンパーン国に、留学生が行けることになった。身分関係なく優秀な者が行けるように、教員達から推薦が開始される。主に武道を目指す者には憧れの国だからである。



◇◇◇

ローゼの侍女には以前と同様にリンリンと、新しい侍女ファンファンが付き従い、護衛は初回と同様の豪傑な男達が残留した。


護衛のアルニン(既婚32才)、サンダリオ(既婚37才)、ブレイク(独身23才)である。

ブレイクはランランに過去振られており、結婚した彼女に会うのは辛かったのだが、強いことでまた護衛任務でジャームンサンド国に来ることになった。


ショートニン曰く、 「男は様々な傷を乗り越えて強くなるもんだ。己の限界を越えろ」 とか何とかで。

国王に逆らえる訳もなく、また来ている訳である。



ちなみに侍女ファンファンの特徴だが。

水色の髪と碧い瞳で、中肉中背の美女より可愛い感じ。

ポニーテールでリボンを止めると若く見えるが、超ベテランの42才である(見た目は20代で声も高い)。


主に暗器使いで、油断を誘うことで止めを刺す。

ランランが抜けたことでの臨時任務である。



残留侍女のリンリンは、18才で孤児院育ち。

孤児達はファンファンにより、幼い時から剣術と体術を学ぶことが義務とされてきた。その中の精鋭達で、ショートニンの周囲が固められることが通例だ。


ついでのリンリンの特徴として(以前も説明していますが)。

騎士学校を卒業したばかり。

主に実技が優れ、首席で卒業を勝ち取った。

茶髪のおさげ。瞳は赤。身長は148cmくらい。

そんな彼女も若いせいか、可愛い物が好きだった。


リンリンは新卒と言っても、既に多くの経験を積んだ女騎士でもある。


そしてもう一つの秘密として、彼女は前国王の庶子。下級侍女である母を持ち、前王妃によりその母は暗殺されている。

女癖が悪い前国王の庶子は他にもいるようだが、完全には把握されていない。


男尊女卑のあるクリンアンパーン国は、女性の地位は著しく低い。女が生きづらい国で、唯一対等なのが戦う戦闘職である。さすがにその職に就く(リンリン)に、暗殺者は仕向けて来なかったようだ。

ローゼ以外の女性の名前が適当なのも、そういうところが関係している。

下手に貴族と同じ名にすると改名をさせられたり、無礼だと言って暴力を振るわれることもあるからだ。


その為前国王の庶子であるリンリンも、因縁をつけられないような名になった。

誰も言えないが、彼女の髪色と瞳は先代国王と同じであり、面差しは誰よりも(先代国王)に似ていた。、ショートニンから見れば年の離れた異母妹に当たる。


そして王族の血を引く彼女は、稀少な魔力を持っていた。

『魔力感知』と『鑑定』の2つもスキルを持つ。

武力と魔法が使えることで、女性ながらも秀でた才能が開花した。


ショートニンは才能で人を重視する。

彼の魔法や魔力は生まれながらに身体強化だけに注がれ、かなり高い保護機能を持つ。大きな怪我もなく、生き残ってきた要因の一つである。彼は魔力があることは周囲に秘匿していた。その強さが魔法のせいだけだと誤解されないように。彼の強さの本質は、多くの努力で作られていたのだから。


そんな彼は平民、庶子、貴族などの身分はあまり重視していないし、魔法使いや魔導師にも偏見はない。


勿論国を支える重鎮達は大事にしているが、無能な者や害になる者には容赦がなかった。


命がけで戦って来た元々軍人の彼は、能力主義者なのだ。




◇◇◇

今日もリンリンは、ローゼの侍女としてジャームンサンド国の城にいる。


そんな時に、第二王子ロビンに声をかけられた。


「君の瞳はとても美しい。まるでルビーのようだ。ねえ、今から僕の部屋に来ない?」

「光栄ですわ、ロビン様。是非伺わせて下さい」


リンリンは頬を染めて、うっそりとした眼差しを彼に向けた。

それを見たロビンは、口角を上げてほくそ笑む。


彼は桃色の艶やかな髪、透き通るような水色の瞳と白磁のような肌を持つ美しい美男子だ。第二王妃ジリアンと同じ大きな瞳に見つめられれば、誰もがうっとりしてしまうだろう。


普通の王子であれば、賓客の侍女を性的な意味で誘ったりはしない。必ず侍女や護衛を共にする。誤解さえされないようにと。

一つ間違えば、友好国や和平条約を破棄されるようなことになるからだ。


それが普通ではないロビンだから、周囲から人払いをする。王子に逆らえる者は皆無に等しい。


そうやって彼は、多くの女性と逢瀬を重ねていた。時には商売で体を提供する女性の元にも通い続けた。

だが今まで彼が訴えられたことはない。

何故なら彼は『魅了』持ちだったから。

恐らく母ジリアンの、 『動物魅了』 に起因するものと同じなのだろう。


ジリアンの高祖母、ドギェルがサキュバス(夢魔・淫魔)と吸血鬼の混血だったせいで、ジリアンもロビンも僅かにサキュバスやインキュバス(男の夢魔淫魔)の素質を受け継いでいる。


だからこそ、多少強引な肉体的な関係を持ったとしても、よっっっぽど嫌いでなければロビンを責めないのだ。

王宮によく来る戦闘力高め女子は、(ロビン)の性癖を知っている為靡かないし、そんな(ロビン)も強い女子は嫌いである。

彼の理想はフワカワ女子である、母ジリアンなのだ。


それを最近知ったジリアンは、 「そんな女はいないのよ。幻想なのよ、ロビン!」 と言いたかったが伝えられないでいた。最愛の息子に嫌われたくなかったからである。



そんなロビンは、凹凸のないスレンダーボディーだが、何度も城を行き来する可愛いローゼの侍女、リンリンに声をかけたのだ。

(他国の王子に見初められるなんて、光栄なことだろう? もし騒げば、妾にでもしてやれば良いだろう。どうせたかが侍女だ) なんて考えて。


ロビンは地頭が良いのだが、王族の力を過信していた。

そしてローゼの側近である侍女が、どんなに恐ろしい存在なのかも分かっていなかった。


国王の溺愛するローゼの護衛だもの。

最強の強者しか傍に置く筈がない。

娘の為なら、護衛について忖度はしない。



ロビンの誘いに、リンリンは乗った。

彼女(リンリン)の鑑定で、(ロビン)のスキル 『魅了』 が分かっていながら。


そして最後まで体を重ねた後、バスタオルだけを巻いて部屋を飛び出し、そこを通った侍女に助けを求めた。


「ぐすんっ。た、助けて下さい。わ、私ロビン王子に部屋に連れ込まれて、何度も体を………。えーん、もうお嫁に行けないです、うっ」

「ま、まあ、何てことでしょう。もう大丈夫ですからね。こちらに来て下さい!」


ベテラン侍女は彼女の姿で、瞬時に状況を把握した。テキパキと動きで彼女を医務室に連れて行き、医師を呼び、このことをブロディ(国王ニール)とアナスタシアに報告に走った。



その大騒ぎを部屋で聞いていたロビンは、目を剥く。


「な、何故だ。あんなに僕のことを見てうっとりしていたのに。突然どういうことだ。………騒ぎになれば、叱責を受けてしまうではないか、あのバカ女が!」


歯噛みして暴言を吐き捨てるロビンだが、彼女は何もかも計算済みだった。

聞き耳をたて、廊下に人が来た瞬間に飛び出した。

歩行音で女性だと把握していたが、偶然にもベテラン侍女で運が良かったと己の運の良さに喜ぶ。


(ベテランならば躊躇することなく、スムーズに事を進めてくれるはず。これで揉み消されることはなくなったわね)


これが護衛騎士なら己の失態になると思い、証拠を隠滅して揉み消ししたかもしれない。この部屋の近辺に護衛騎士が居なかったのは、ロビンが近寄らないように指示したからだ。隣国の侍女が抵抗すれば、さすがに護衛騎士が助けてしまうかもしれないとロビンは考え、邪な考えの下で遠ざけた。


護衛騎士だとて、まさか隣国の侍女を襲うなんて考えていなかった。せいぜい口づけくらいだろうと、たかを括っていた。どちらにしても、護衛騎士はロビンには逆らえなかった。



◇◇◇

ベテラン侍女が王宮医師を呼び、リンリンを診察して性交の痕跡を確認した。

その間もリンリンはずっと泣き通しであった。


ローゼも付き添い、リンリンの傍を離れない。


「大丈夫よ、リンリン。ちゃんと良いようにするからね。心配しないで」

「姫様、すみません。でも私、ロビン様に憧れていて。一緒にお茶を飲むだけだと思ってたのに、こんなことに。ご迷惑をおかけして、スミマセン、スミマセン」


「大丈夫よ。泣かないで、リンリン。ああっ、酷いわ!」

2人は抱きあって泣き続けた。

まあリンリンは嘘泣きだが。



そこには勿論、呆れ顔のファンファンもいる。

(この腕力女が手籠めにされる訳ないでしょ! わざとでしょ、絶対)


この部屋にはいないクリンアンパーン国の護衛3人も、ファンファンと同意見だった。

「あの暴力女が手籠めになんてなる訳ない」

「ああ、俺もそう思うよ。あのドS女、絶対碌でもないこと考えているよ」

「俺、あいつ怖い。ランランと全然違う、邪悪さが半端ないもん!」


同国の仲間さえ彼女(リンリン)を擁護しない程、リンリンの性格は知られていた。


心配しているのは、純粋なローゼだけである。




◇◇◇

「ロビンが誠に申し訳ない、リンリン殿。体は魔法で洗浄し避妊薬の投与はしたので、ゆっくり休んで欲しい。処遇に対してはイグナンシェ陛下 (ショートニン)に相談しているので、それまで待っていてくれないだろうか? 決して悪いようにはしないので、そこは安心して下さい」


国王のニール(ブロディ)が、アナスタシアと共にベッドに横たわるリンリンに頭を下げた。ロビンの母であるジリアンは、自室謹慎を命じられたロビンに付き添っている為、謝罪に来なかった。来ても謝る気はないようなので、居ない方が良いとも判断された。


「どうせ美しいロビンに、その女が言い寄ったのよ。王子妃にでもなりたかったんでしょ? こっちが謝罪を受けたいくらいよ!」


ジリアンの勘は概ね当たり。

ただ王子妃の部分は、見当外れだった。


彼女(リンリン)は先代国王の姿だけではなく、性癖まで似ていた。

先代もリンリンも、美しくて綺麗なものが大好きなのだ。手段を選ばぬ程に。


先代王妃は憂慮した。

リンリンの母を優遇する先代国王の思うままにすれば、彼は最愛だと言うリンリンの母を、何よりも優先するだろう。そうなれば国の派閥は割れて内戦に繋がる。もしリンリンの母を暗殺後も、第二の最愛が現れたなら同じようにするだろう。結婚前の婚約者時代にも同様のことが既にあった為、先代王妃は決断していた。思えば国を守る為に、辛い決断を彼女(先代王妃)はいつも続けてきた。子供に罪はないのに、親のない子を作ってしまうことに苦悩を続けながらも国を守り続けていた。



先代国王の遺伝子を継いだリンリンは、初めて会った時からロビンが欲しがった。自分のものにしたかった。ただ護衛騎士のいる彼に近づけないから、きっと無理だろうと半ば諦めてはいたのに。


墓穴を掘ってしまったのは、ロビンの方だった。




◇◇◇

ジャームンサンド国のブロディ(ニール国王)からの書状がクリンアンパーン国へ届く。

リンリンの異母兄であるショートニンは、リンリンの考えていることが何となく分かり溜め息を吐いた。


あやつ(リンリン)が本気を出せば、容易に逃げ出せたであろう。わざと既成事実を作りおったな。まあ仕方ないか。………しょうがないな、ここは兄らしく力を尽くすか」


そう呟いた後、ショートニンは(ふみ)(したた)めた。

それにはリンリンが先代国王の庶子で、ショートニンの異母妹だと言う事実。謝罪は不要なので、リンリンの思うようにさせて欲しいと言う希望を。


「な、なんと言うことだ。リンリン殿がイグナンシェ陛下 (ショートニン)の異母妹だなんて。それも謝罪は要らないと、逆に言えば受け取らないと言うことだ。もう結婚させるしかないな」


「それしかないでしょうね。クリンアンパーン国との友好国の関係は崩せない。ロビンには婿入りして貰いましょう」

「………済まない。苦労をかけるね、アナスタシア」

「大丈夫よ、ニール。………でもジリアンは納得しないでしょうね」

「ああ。でも納得させるさ。それしか手はない。下手をすれば戦争になるのだから」


辛い面持ちで決意するブロディ(ニール)。

彼だとて、自身の子であるロビンを愛しているのだ。同様にジリアンのことも。

ただ他にも大事な事が増え、彼らに多く構えなかったことを今さらながらに後悔していた。




◇◇◇

自室謹慎中のロビンに、クリンアンパーン国への婿入りのことを決定事項だと告げるブロディ(ニール)。当然のようにニールは抵抗し、ジリアンは激昂した。


「何ですって。あの女が隣国の陛下の異母妹だなんて。じゃあ何故、侍女なんかしていたんですか? 嫌です、僕は行きたくない! 助けて、母上!!!」


「ニール、止めて。こんなの酷いわ。女の方から誘ったに決まってるわ!」


「そうなのか、ロビン?」

ブロディ(ニール)は優しくロビンに問うた。既に他からの事実確認は済んでいるが、息子の意見も聞こうとして。



「………いや。僕が部屋に呼んだ。お茶を飲もうと言って」

ロビンは正直に父へ呟く。


「嘘でしょ、違うわよね!」


「お茶に催淫剤も入れたので、抵抗はされなかったんだ。けど行為が終わったら正気に戻ったみたいで、廊下に彼女が出て行った。そして侍女が彼女を保護したみたいなんだ。ごめんなさい父上、母上も」


愛息子より真実を聞かされて愕然とするジリアンは、驚愕で目眩を覚えた。

(催淫剤? 何処でそんなものを? 誰が? どうしてロビンにそんなものを?)


その後本当に気を失い、倒れてしまったジリアン。

ブロディ(ニール)は、彼女を抱え彼女の部屋のベッドへ運んだ。


「ごめんな、ジリアン。今回ばかりは庇えない。ロビンは隣国に婿に出す。リンリン殿の婿にする為に」


意識が戻らないジリアンの手を握り、ブロディ(ニール)は悲しそうに静かに囁いた。踵を返して部屋を出ていく彼をジリアンは目で追った。


部屋に着いた時には彼女の意識は少しずつ戻り、(ニール)の様子を窺っていたのだ。辛そうなもの言いに、ジリアンの心は揺れた。


「ニールはあの子が可愛くないの? もし王子がロビン1人なら、そんなにあっさり諦めたりしないわよね。………もっと庇ってくれても良いじゃない。酷いわ、酷い……うっ、うっ」


声を殺して泣く彼女は、ニールを恨んだ。

ロビンが悪いと思っていても、どうしても受け入れられなかったからだ。


その後もショートニンとブロディ(ニール)は文書のやり取りを行い、リンリンを子供のいない伯爵家の養女にしてから、ニールを次期伯爵として迎え入れることになった。


ジャームンサンド国よりクリンアンパーン国の方が、昔からの続く大国である。経済力は飛躍的に上昇しているジャームンサンド国であるが、近い未来に魔物が狩れなくなれば魔力も減り軍事力は低下するだろう。だから今は、防衛面に力を注いでいるのだ。


ロビンとリンリンの結婚は、うまくいけば両国の架け橋になるだろう。けれど気候の厳しい土地と、武力国家である国にロビンが耐えられるかは分からない。


ただ言えることは、リンリンはロビンを決して逃がさないだろうと言うこと。


ショートニンはリンリンに負い目がある。

先代国王のせいで、母を亡くしたリンリンに。

実母の行ったことは理解できても、感情面はまた別なのだ。

彼は情に厚い男だから。

ローゼのことでジャームンサンド国に来た時に、ロビンのことも調査は済んでいた。女癖の悪いロクデナシであることを。


ただ今回リンリンの鑑定で、インキュバス由来の魅了をロビンが持つことを知った。彼は魅了を知らずに振り撒き、女性を翻弄してきたのだ。

リンリンは諜報員として、ファンファンに訓練を受けていろんな仕事も熟していた。

その中には一線は越えなくても、恋人を装うハニートラップのようなものも。

リンリンはロビンにはその素質があり、利用できるだろうこともショートニンに伝えていた。


リンリンは自分の手の中にあれば、浮気くらいは許すつもりだ。全部を把握し、必要時には女性側を切りつけることに躊躇はしないだろうが。

リンリンの苛烈さは周囲に多く知られている。

どんなにロビンが美しくても、クリンアンパーン国の者ならば、リンリンの影がある男に手は出すことはないだろう。


リンリンをローゼの傍に置いたのは、その実力と女性の権利を守りやすい地位と、何よりもやらかさないように監視の意味も込めてだった。


リンリンはロビンに執着しているが、それがいつまで続くかは彼女自身にも分からない。子供は2人以上で、男の子と女の子が欲しいらしい。


もし生まれたら、愛情の対象はロビンよりも子供に行くかも知れない。


その後は……………。

もうクリンアンパーン国でロビンが縋れるのは、リンリンしかいないだろう。

けれど彼が何処までそれを、未来の状況で理解できているのは分からない。




◇◇◇

クリンアンパーン国で、ロビンとリンリンの結婚式が行われた。


ロビンには2つの選択肢があった。

一つはリンリンと結婚し、次期伯爵になること。

もう一つは去勢して、神殿で罪を償うこと。


結婚はロビンが選んだ結果だ。

けれどそれでも、不服は多分にあった。


「あんな寒い国に行きたくない。助けて母上」 と最後まで抵抗していた。ジリアンも父侯爵やブロディ(ニール)に他の選択肢を望んだが、ショートニンの思惑もあり却下された。


ショートニンは、リンリンの希望を叶えたかったからだ。


結婚式には、ドラゴン姉妹が転移魔法で大勢を移動させた。それは移動途中でロビンを逃がさない為でもある。


ジャームンサンド国からは、ブロディ(ニール)、ジリアン、ジリアンの父侯爵、ファンブル公爵夫妻、ゼフェルとサマンサ、ラリサ(エリザベート)、ウィリアム、ロールケイトと、城でローゼが顔見知りになった者が参加した。特別枠でドラゴン姉妹とカザナミも参加である。


国の守りの為、今回アナスタシアはジャームンサンド国に残り、ジョージは面倒だとパスし、キャラウェイとランランも参加することになった。


お祝いと逃走防止の2つの意味での人員配置だ。


ジリアンと彼女の父侯爵は、まだ逃走させることを諦めていなかったが、それを上回る最強の布陣をラリサ達は完成させていた。

結婚を成功させる為のクリンアンパーン国の守りも、相当強固なもので、ジリアンの使役する魔獣での逃走は到底無理だった。



途中から考えるのを止めたロビンだけが、気楽に式に興じていた。

「まあ良いか、結婚くらい。リンリンは可愛いし、嫌になったら離婚すれば良いんだから」


新郎の控え室で笑うロビンに、ゼフェルとブロディ(ニール)、ウィリアムは顔がひきつる。


(結婚したなら、家庭を守らないと駄目だぞ!)

(無理だろ、そんなの! なんでこんなアホになったんだ? 幼い時は賢かったのに! あんなに両国の関係についても説明もしたのに)

(あの女がお前を逃がす訳がないだろ! 諦めろ!)


ブロディ(ニール)は悲しくなり、ウィリアムは同族嫌悪故に心で叫ぶ。ゼフェルは式前に咎めることも出来ず、困惑するだけだった。


ロビンの祖父侯爵は最早手札が尽き、諦めていた。

(すまんな、ジリアン。俺ではここから連れ出すことは不可能だ)



◇◇◇

そして新郎新婦は、神父の前で愛を誓い口づけを交わした。

リンリンは誰からも見えない角度で、妖しく微笑んだ。愛する者を手に入れた喜びで。

(一度は逃がしてあげたのに、自分から飛び込んで来るなんておバカさんね。もう絶対離さないから)


彼女は初めてジャームンサンド国に来て滞在する間、何度かロビンの誘拐計画を立てていた。けれどラリサ(エリザベート)達の包囲の目から逃れられないと思い、ジャームンサンド国の諜報員に依頼することも断念した。


たぶん依頼しても、絶対に断られていただろうけれど。



せっかく(ロビン)を目に映さないように努力したのに。



彼女の愛は重い。

けれど仕方がない面もある。

彼女は母が殺され、父と疎遠で過ごしてきたから。


孤児院でも競わされ、優秀でない者は碌でもない人生が待っている。特に女は生涯下働きか、夫に奴隷のように尽くすしか未来が見えない。


だから彼女は努力を続けた。

何もせずに諦めるのは嫌だったから。

先代国王の母は強くて美しい魔法使いだったようで、魔力を殆ど持たない国では優遇されたそうだ。

彼女もまた、魔界から来た魔族だったことを知る者はいない。

彼女だけではなく、他にも魔族は存在し市井に潜んでいた。海が隔てるこの地は魔界から遠かったので、数が少なかっただけだ。

また男尊女卑が強く、この地を離れる者も多かったようだ。それが魔法を使える者が少ない要因の一つだった。



リンリンの魔力は強い。

それは多く魔族の遺伝を継いだが故。

先代国王もまた、その血によって強い女性を求めたのだ。リンリンの母である下級侍女も魔力が多く、先代国王は意識下で彼女を求めたのだった。



彼女(リンリン)は今、幸せに満たされている。

欲しいものをやっと手にしたからだ。

彼女の倫理観が歪んでいるのは、遺伝と環境からだ。


ショートニンが歪まなかったのは、愛されて育ったからだ。彼の兄もまた、純粋に人を愛して幸福を得ていた。


今さらではあるが、この国で生まれなければ彼女(リンリン)はこうはならなかっただろう。


彼女はロビンが完全に裏切りを見せたなら、命を奪い剥製にして傍に置くだろう。彼女なりの愛故(あいゆえ)に。


そんな愛の巣にロビンは絡め取られた。

彼女(リンリン)はまだ、気づいてさえいないけれど。


そんな彼女(リンリン)とロビンは、今日夫婦になった。


『もう逃げられない』


この事実に気づいた者は、極僅かだ。



そしてドラゴン姉妹のライメイは、その思考に共感を覚えた。

(愛する者を束縛するのも愛。心まで繋ぎ横取りされるくらいなら、その女ごと潰して差し上げなさいな)



それぞれの思いを抱えながら、式は滞りなく終了した。




◇◇◇

結婚後1週間でロビンはショートニンに呼びだされ、この国の貴族として生きていく為の訓練が開始された。


伯爵はその家門の貴族を導き、国を守る役目が与えられる。彼の持つ 『魅了』 だけでは賄えない。

その為に武道訓練が開始される。

逃げることは許されない。

ただ耐えるしかないのだ。


「はぁ、はぁ。何でこんなに訓練が厳しいんだ。僕は王子だぞ!」

「何かと思えば寝言か? 今のお前は伯爵だ。伯爵は先陣を切り戦う役目を果たさねばならんのだ。それに安心しろ。俺は侯爵だから、お前より身分は上だ。安心して俺に従うと良い!」


剣技の訓練に顔を歪めて涙を溢すロビンに、周囲の騎士は厳しい表情を向ける。けれどリンリンの婿である為、致命傷は避けられていた。

下手をすれば、彼らがリンリンに殺られかねないからだ。


「くそっ、やれば良いんだろ! やってやる!」

「おう、その意気だ。早く強くなれよ。お前が弱いままだとリンリンが馬鹿にされるからな」


剣技の訓練で打ち合って落とした剣を拾い、ロビンはマナーム侯爵に向かう。

「もう一度だ! 僕が弱いままでいる筈がないだろ!」


弱い癖に強い覇気を放つロビンに、マナームは破顔した。

(弱い癖に、良い覇気じゃねえか! もしかしたら、化けるかもな)



彼の 『魅了』 はインキュバス由来の為、男には効かない。生き残る為には強くなるしかない。


元より彼は優秀な素質を持つから、真面目に訓練すれば頭角を現すだろう。

傷ついた彼をリンリンは優しく労り、次第に2人の絆は深まって行った。


「いつもありがとう。絶対強くなるから少し待っててくれ、リンリン」

「焦らなくて良いのよ。そのままの貴方が大好きなのだから」

「ああ、嬉しいな。こんなに真っ直ぐに僕を受け止めてくれる人は、今までいなかったよ。………頑張るから。頑張りたいんだ」

「愛しています、ロビン」

「僕もだよ。リンリン」


歪だった2つの魂は、心からの繋がりを持った。

ロビンも美しい王子の身分故に、権力や利権を求めて群がる人の本性を知ることがあり、うんざりしていたのだ。

それに彼は第二王子だから、国王にもなれない。

王太子である兄ゼフェルは、脳筋ながらも礼儀を重んじ王太子妃のサマンサに支えられていた。それに気持ちの優しい人格者だった。それをロビンは痛いほど知っている。

ふて腐れて公務を放り出して女性に溺れる自分にも、いつも前向きに向き合って話しかけてくれたから。


「ロビンは俺より頭が良いし、落ち着いている。だから是非一緒にやって欲しい公務があるんだ」

「女性を翻弄するのはいけないことだよ。いつか本当に好きになった人にも誤解されて、振り向いて貰えなくなるかもしれないから」

「ロビンには俺の頭脳(ブレーン)になって欲しい。俺は視野が狭いから、お前がいれば助かると思うんだ」

「なあ、ロビン。困っていることがあれば相談してくれ。俺にはお前が、女性を理由に何かから逃げているように見えるんだ」


確かに女性と一緒にいる時は、何も考えずにいられて楽だった。容易に快楽に沈むことが出来た。

けれどその行動が、後から金や宝石や時には王子妃の地位を望むものだと分かった時の虚しさは図りしれない。


嫌になれば、いつもあっさり別れることが出来たのは良かったが、その後腐れなさにも寂しさを感じていた。


その理由の一つには、彼の『魅了』能力が関係していたのだが、それに気づくことは出来なかったロビン。



(ロビン)は母ジリアンが好きだった。

無条件で自分だけを守ってくれたから、出来るなら願いを叶えてあげたかった。

けれど父ニール(ブロディ)も、ゼフェルもアナスタシアも嫌いではなかった。


母願いは苛烈で、いつしか(ロビン)には重荷になっていた。

兄ゼフェルがいる以上、自分が王太子になれる訳がない。だけど母は 「必ずロビンを王太子にしてあげる」 と言うのだ。


成長する毎に、明らかに努力による能力の差が開き、自分は兄に(かな)わないと思い知らされ自堕落に過ごした。こうなれば母も諦めるだろうと思っていた。


けれど母の言葉からは、諦める様子は見られなかった。

自分の為に、いつか何かをするのではないかと不安になった。


そうなる前にクリンアンパーン国に、来られて良かったのかもしれない。




「突然父に怒られ母に泣かれ、この国に来ることになって抵抗したが、今思えば良かったよ。もう寂しくないんだ。リンリンがいるからだね」


「私もだよ、ロビン。貴方を騙すみたいに連れて来てごめんね。でもずっと貴方を守るからね」


「僕も君を守りたい。けど今は弱っちいから、無理かな? リンリンはきっと強いんだろうね。マナーム侯爵がいつも君の話をするんだ。僕も追いつくように頑張る、から………」

(マナーム侯爵は何を言ったのかしら? 後で直接聞いておかないとね。クフフッ)


話ながら眠ってしまったロビンは、その寝顔さえ美しかった。

「ロビンは変わったね。私は最初、貴方の顔だけが好きだったのに。今はその気持ちも嬉しいよ。だから裏切らないでね。浮気くらいなら良いと思っていたけど、それも堪えられないみたいだから」


ロビンの寝顔にキスを落とし、ソファーに眠る彼に毛布を被せる。

「おやすみなさい。良い夢を」




彼はジリアンの呪縛から逃れることが出来た。

彼がリンリンを愛し続ければ、リンリンも愛を返してくれるだろう。




◇◇◇

その頃一人になったジリアンは、ジャームンサンド国で憎しみに燃えていた。


「私の唯一の希望だったロビンを奪われた。ニール(ブロディ)は役に立たない。そもそも私達なんて眼中に無いのでしょうね。こんな国なんて、もういらないわ!」


涙を流しながら声を荒げるジリアンは、祖母ガルーナと共に破滅への道を歩き始めた。





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