ランランの告白
目下キャラウェイは狙われていた。10才年下の大国のローゼの侍女ランラン(28才)に。
ランランはショートニンを通して、キャラウェイを紹介して欲しいと言ってきた。ブロディ(国王ニール)とアナスタシアに頼んで。
2人はう~んと、困惑した。
前世の記憶が戻るまでは、バリバリのオネエだったキャラウェイの名前はパーティー。平民である彼は、改名が簡単なので、今は戸籍上もキャラウェイにしている(本人はどうでも良かったが、ラリサが希望した為)。
以前の記憶を取り戻した今、さすがにもう彼はオネエではない。元々呪い(ブラックゴルゴノプスドラゴンを殺したせい)の影響で、このキャラにされていたようなものだし。
普段は本来の男らしいキャラウェイ。
職業的に警戒を解く為に、オネエキャラを演じることはあるが、今はメイクの仕事以外では素の男らしい彼だった。
本人の名誉の為に言うと、オネエだった時も男性と恋愛的な関係は持っていない。
「あらっ。良い筋肉~、ステキ~♡」とか言っても、本当に筋肉を褒めていただけ。
理性で呪いに抗っていたようだ。
そんな彼に、ランランが惚れてしまった訳である。
彼は28才のローゼに仕えるベテラン侍女。
彼女は可愛いものに目がない。
黒髪のオカッパ。瞳は濃茶。
身長は165cmで、まだ成長中。
ランランは親が散財して没落した、男爵家の長女だ。弟を育てる為にショートニンの下に付き、武術を身に付け危険な任務も熟してきた。彼女がローゼに付いたのは生後すぐのことだ。
自分には女の幸せなど無縁と思ってきたのに。
(なんか、もう、好きになってしまったの。もどかしいけれど、この気持ちは止まらないの!)
この年まで独身な彼女だが、モテない訳ではなかった。
寧ろ引き締まった肢体とたわわな胸。ややつり目のナイスバディは峰不◯子ちゃんだ。
だが彼女の恋愛センサーは、イケメン+自分より強い男にしか反応しない。
彼女は生活がかかっていたことと、才能を持ち合わせていた為、メッチャ強くなっていた。そんな訳で告白されても振りまくりだったのだ。
黙っていることも出来ず、アナスタシアは2人を引き合わせる為にキャラウェイを城へ招いた。
勿論、しっかり向き合うのは始めてである。
「はじめまして。私はクリンアンパーン国のピクル男爵の長女ランランと申します。今日はご無理を聞いて頂き、ありがとうございます」
華麗なカーテシーをするランランは、髪をシヨニンで纏め、清楚な水色のワンピース姿だった。
「はじめまして。私はキャラウェイと申します。今日はお招き頂き、感謝します」
アナスタシアから、庭にある東屋をセッティングされた2人。お茶のセットをした侍女がその場を去ると、2人だけが残された。
近くには噴水の爽やかな音が流れ、花で囲まれたその場所は、普段からお茶会をするベストスポット。
大きな木や生垣には、キャラウェイ達を見守る人達が潜んでいた。
手持ちぶたさで紅茶を飲むキャラウェイは、ランランの言葉に微笑みながら答えていく。
(なんで呼ばれた俺。会ったことないから、何もしてないと思うんだけど?)
清楚な女性を前に、貴族苦手の顔を必死に隠す彼。
(ど、ど、どうしましょう。勢いで面会を頼んだら、何故か叶ってしまったわ。あの時の私は、どうしてこんなことを! でも嬉しい。今、彼が目の前にいるのだもの!)
任務なら標的の籠絡も容易な彼女が、乙女のように動揺している。
その緊張はキャラウェイにも伝わっていた。
キャラウェイは自分と話をしたい人がいると聞いて、アナスタシアに丁寧に頼みこまれここに来た。いつもは横柄な命令しかしない女王様に(←失礼)。
だからちょっと変だと思っていた。
一緒にいたカザナミは、異様に警戒して付いてくると言っていたし。勿論断ったが、断ったのだが、生垣に隠れているのが気配で分かる。
(あいつ、来るなって言ったのに。でもまあ、ドラゴンのあいつがすることに、逆らえる奴なんていないけどさ)
当然ながらカザナミは、王城なんてフリーパスである。今日は特に、他国の王族の警備で入城が面倒くさそうだからと、透明化で入って来ていた。
普通なら女性と差し向かいで、こんな風にセッティングされれば見合い的なことだと気づきそうなものだ。けれどキャラウェイは気づかない。
人のことには敏感だが、自分には関係ないと思うからこそ悩んでいたのだ。何で呼ばれたんだ! と言う感じで。
ランランはその態度を見て、小さく溜め息を吐いた。
「やはり私と話しても、楽しくありませんよね」
「いや、そんなことはない、です。ただ何で呼ばれたのか疑問で」
嫌みではなくそれが本心だと気づき、ランランはクスッと笑ってしまった。
「これは失礼致しました。貴方が呼ばれたのは、私がお話したいと我が儘を言ったからです。もう会えないかもしれないのでお伝えしますね。私は貴方を愛してしまいました。結婚を考えるほどに」
ド直球だ。
「はい」 か 「いいえ」 と答えるまで、ここから逃げられない。
鳩が豆鉄砲をくらった様子のキャラウェイは、 「何で?」 と知らずに呟く。
ランランはまた微笑んで、「この間、ラーメン屋台でご一緒しましたのよ。私もニンニクをたくさん入れてラーメンを食べましたの。美味しかったですわ」と出会いを伝える。
キャラウェイはそう言えばと、ラーメンを食べた時に座った客のことを思い出した。3人の女性が後から座り、美味しいとはしゃいで、楽しそうに食っていたなぁと。
「ああ、あの時か! その時に、俺に惚れたって?」
「はい!」
「ラーメンの食いっぷりで?」
「はい! (それだけじゃないけど)」
「はははっ、面白いなあんた、失礼貴女は。でもそんなに惚れっぽいと大変だぞ。変な男に騙されるから気をつけな」
「はい、気をつけますわ。ありがとうございます。キャラウェイ様は、いつもあの屋台をご利用ですか?」
「様はよしてくれよ。キャラウェイで良いよ。あそこにはよく行くんだ。メニューの他にも、書かれてない裏メニューのチャーハンがあるんだ。混んでるとだめだけど、人が少ない時は頼めばラーメンのチャーシューを使ったので作ってくれるんだ。旨いんだぜ!」
「それは是非食べたいものです。ではキャラウェイ、私のこともランランと呼び捨てて下さい。名を呼ばれないのは寂しいから」
「えっ、あっ、そうか? それなら、ランラン。国に帰る前に、一緒に屋台に行こうぜ。常連の俺が頼めば、チャーハン作って貰えるから」
「はい!はい! 是非お願いします! 嬉しいです、キャラウェイ、グスッ」
「お、おう。任せてくれよ。絶対後悔しない旨さだから! な、何で? 泣くなよランラン」
この場での告白の返事はなかったが、雰囲気は悪くなかったようだ。
「良い雰囲気ね」
「やるじゃん、キャラウェイ」
「なんか初々しいわ。2人ともいい大人なのに。泣ける」
「幸せになって欲しいわ」
「良いぞ、付き合っちゃえ」
なんかラリサやカザナミ以外にも、モロモロ覗いていたみたいだ。
数日後にキャラウェイとランランは、あの屋台で無事にチャーハンを食べたのである。
周囲の応援により、二人は何度も逢瀬を重ねる。
キャラウェイは、いろんな話に精通する彼女に共感を覚えた。仕事柄いろんな場所へ赴く彼は、比較的情報通だ。美容や化粧は地域ごとに異なるから、彼はその事や地域性も学んでおり、広く情報を集めていた。
その彼の話にもついてこられるのだから、話は弾むのも当然だった。ドラゴン姉妹とでは、その辺の話は共有できない。彼女達との私生活は別だからだ。
そして笑った時にエクボが可愛いランランと、特別な時間を過ごしたキャラウェイは、異性と過ごして楽しいのはじめて思った(ラリサは妹枠なので別として)。
◇◇◇
「言い忘れていたけど、キャラウェイとランランは似合うよ。今後別れたとしても、1回は番ってみても良いんじゃない?」
カザナミに言われ 、「え!」 と声が出るキャラウェイ。
「番うって、結婚するってことか? 俺がランランと? だって彼女は10才も年下で………可愛いし………ごにょごにょ」
煮え切らないキャラウェイに、カザナミは 「何言い訳してんの。ダサいよ」 と辛口だった。
いつも一緒にいる兄弟のような2人。
結婚なんてすれば、カザナミが寂しくないはずがないのに。
それでも背中を押していた。
「ドラゴンなんて番うとしても、何百年、何千年単位で年は離れているよ。好きなら関係ないよ、年齢なんて。好きじゃないのか? それならもう悩むことないよ。友達になって終わりにすれば」
「友達か、そうだな。それが良いか」
「でもさあ。友達だから、そのうち彼女の結婚式に呼ばれるよね。そして彼女の番いの男を見る訳だ。別に良いんだね?」
(彼女の番い!
俺じゃない奴が彼女と結婚。結婚するよな。
可愛いし、知的だし、おっぱいでかいし(これは違くて)、わー、どうしよう!!!)
悩んだあげくキャラウェイは、アナスタシアの執務室に訪れて彼女に相談した。ランランと交際したいことを。
「ま、まあ。そうなのね、キャラウェイ。おめでとう。でもね、詳しい相談とかしたの? ほら、住む場所とか?」
アナスタシアは混乱している。
もしキャラウェイがクリンアンパーン国に行き、ドラゴン姉妹達も付いていけば、ジャームンサンド国の鉄壁の防御が崩れるからだ。
どうしても素直に喜べずに、笑顔もひきつる。
「えーと。もし結婚前提なら、彼女はこの国に住むって。丁度俺のマンションに空き部屋もあるし」
「へっ。だって彼女はローゼ王女の護衛じゃない? 辞めるってこと?」
「うーんとな。ここに残るのなら、イグナンシェ陛下 (ショートニン)から長年の献身に免じて、退職金付きで辞められるってさ。良い国王だよな」
「そ、そうね。そうだけど (彼女ただの侍女じゃないわよ。それに乳母みたいなものだとも聞いたわよ。大丈夫なの、この国。狙われてない? ああ駄目。裏を読みすぎると具合が悪くなる………)」
アナスタシアはキャラウェイの方に向き直り、腕を伸ばして彼の両肩を 「パンッ」 と叩いた。
「(裏切らないわよね、キャラウェイ) 私は応援するわよ。ちなみに貴方の忠誠はこの国にあるわよね!」
「(肩痛え。何この圧。絶対幸せにしないと国際問題なるとかの心配? でもそれなら大丈夫だ) 勿論です。忠誠はこの国に。そしてランランは幸せにします!」
「ああ、頼んだぞ! まずは交際だよな」
「結婚でも良いですか? 彼女もそれで良いって言ってました」
「まだ会って数日だよね? 急すぎない?」
「ああ、アナスタシア様。俺もそう思ったんですが、カザナミに背を押されました。人間は寿命が短くてすぐ死ぬから、番いたい者がいたら逃がすなとね」
「そうか。そうだな。覚悟があるなら良いよ。好きにしなよ。君達の交際も結婚も、イグナンシェ陛下 (ショートニン)から許可は得ているから」
「ありがとうございます、アナスタシア様。さすが仕事が早い。結婚式には呼びますから」
そう言うとキャラウェイは、そこを去って行くのだった。
◇◇◇
その後彼らは、思惑なんてぶっ飛ばして結婚式を挙げた。クリンアンパーン国の教会で式を行い、ジャームンサンド国では祝賀会を行った。
彼女の両親は既に亡くなり、弟アルデンテは男爵家を継いで復興の最中だ。
「僕の為に頑張ってきた姉上なんです。どうかよろしくお願いします」
涙ぐむアルベルトに、キャラウェイは頷き声をかける。
「絶対幸せにするよ。そして君も俺の弟なんだから、いつでも頼ってくれよな」
「ありがとうございます、義兄さん。心強いです」
男爵令嬢と平民の結婚式だ。
けれどランランは、ショートニン達には家族同然だったから、それは大きい規模の参列者が集まった。ジャームンサンド国からはゼフェルが残り、ブロディ(ニール国王)とアナスタシア、ファンブル公爵家からはラリサ、ウィリアム、ジョージが、他にもカザナミとドラゴン姉妹が参加していた。軍の関係者も来たがったが留守番だ。
移動は、ドラゴン姉妹の転移魔法で一瞬だった。
キャラウェイの両親は幼い時に離婚しており、父と暮らしていたキャラウェイはほぼ育児放棄状態で育った。見かねた父方の祖母がずっと世話をしてくれたのだが、数年前に亡くなっている。
ランランと同様に親との縁は薄い。
彼の血縁はここ(クリンアンパーン国)には来ていない。けれどそれで良いと思う。
行方も知らない親に知らせる義務はないのだ。
ただ傍にいて、大事にしたい大事にしてくれる人がいれば良いのだから。
「キャラウェイ様。私は幸せですわ」
「俺の方が幸せだよ。結婚してくれてありがとう。家族になってくれてありがとう」
「うっ、キャラウェイ様ぁ。大好きです」
神父の前で愛を誓い、キスを交わす2人をみんなが祝福する。
「「「「おめでとうございます。幸せになって下さい、お姉様!!!」」」」
面倒見の良いランランは、多くの人に好かれていた。その中には彼女に振られた男もたくさんいた。
「君は生涯1人で、純潔で生きていくと思ってたのに。ランラン様ぁ」
「年上のおっさんが良かったのかよ」
「まあ、顔は良いけど」
「筋肉もすごいけど」
「世界的なメイクアップアーテストらしい」
「あんな青髪で黒目の地味な男より、金髪の俺の方が美しいだろ」
「「「「いや、十分イケメンだろ(キャラウェイは)。お前はハゲたら地味顔しか残らんぞ!!!」」」」
「いや、酷い。愚痴くらい言わせろよ!」
どこからか、ツッコミが入ったり入らなかったりして式は恙無く終了した。
◇◇◇
「おめでとうキャラウェイ、ランランさん。お幸せにね」
「ありがとうございます、エリザベート様」
「ありがとう、ラ、エリザベート様」
「おめでとう」 と多くの声がかかる中で、ラリサ (エリザベート) は少し寂しかった。兄のように気軽に関わってきたキャラウェイが、家庭を持ってしまったからだ。
けれどキャラウェイは幼い時から孤独な状況が続き、恋愛なんてしてこなかったそうなのだ。自分でアルバイトをしながら、学校にも通ったらしいことも聞いていた。
そんな彼が偏見なく関われる女性は珍しい。
自分には愛してくれる家族がいたが、ラリサ達に会うまでのキャラウェイは仕事人間だった。
キャラウェイはランランと共にジャームンサンド国に住み、ドラゴン姉妹のメイクアップの仕事も熟していくことになる。
ランランは魔石研究所のジェドの下で働くことになった。本人的にもクリンアンパーン国の為にも、魔石の驚異を把握したいと思ったからだ。
けれどもう、彼女はジャームンサンド側の人間になったから、秘密を漏らすことは出来ないけれど、意見などは伝えていこうと思っていた。
それに単純に未知である魔石について、いろんな面で興味があったのだ。
(攻撃性のある武器にもなるけど、美容面でも多くの品が出来ているわ。私も良いものを作りたいの)
今までストイックに国に仕えたランランは、自分から選んだ夢に突き進んでいくのだった。
◇◇◇
キャラウェイの恋を応援したカザナミだったが、こんなに展開が早くてビックリしていた。
「あいつも40才近いから、何でもチャレンジするように言ったんだけど、行動が早いよ。まあ、良いんだけど」
ずっと一緒にいたキャラウェイが離れるのは辛いけど、カザナミも人間になった。これからはキャラウェイを人生の手本として学ぼうと思っているのだ。
「愛する人か。俺にもいつかできるのかな? 人間の寿命は短いけれど、それでもずっと1人だけの時間は寂しいよね」
キャラウェイの結婚により、カザナミも人と関わる必要性を考え始めていた。
◇◇◇
ドラゴン姉妹は、珍しく話し込んでいた。
「キャラウェイもついに番いを持ったのね。女っ気がないから、男が好きなのかと思ってたわ」
「お姉さま、それは失礼ですわ。キャラウェイは良い男ですよ。気持ちも真っ直ぐな方ですし」
「あらっ、珍しい。そんなに気に入ってるなら、貴女が番ったら良かったのに。どうせ、一瞬の時間だもの」
「それが嫌なのです。もし家族として愛したら、亡くなった時に辛いですもの。種族間の違いで子も出来にくいですし」
「真面目なのね、ライメイは。それなら私のことは良いから、男のドラゴンを探しに行って良いのよ。同じ種族なら同じ時を過ごせるでしょ?」
「………でも。あいつら浮気者過ぎて、信じられないんです」
「ライメイは真面目過ぎよ。ドラゴンだって浮気男ばかりではないのに。こんなに可愛くて一途なのに、あのシャンベルタのせいで! 見かけたら噛みついてやるのに!」
「お姉さま、ありがとうございます」
「妹は黙って甘えなさいな」
二人は抱きあって、互いの体温を確かめる。
ライメイは、キャラウェイへの気持ちにけじめをつけた。仄かに動いていた淡い恋心を。
そしてまた、新しい日常が開始されるのだった。




