ローゼ、お茶会
城の裏手には、部外者が入り込めない秘密の庭があった。密談や王族達が気を休められる場所である。
今回のお茶会は少人数であることと、北の大国の国王と王女がいることでこの場所が選ばれた。
鍛練を積んでいないロビン以外は、自分の身は自分で守れる強者ばかりであり、もし上空から敵が訪れようと守り抜くことが可能だと判断されたからだ。
彼女達と少し離れた場所に座る大人達は、お茶を傾けながら会話を交わす。
「まあ可愛いわ。まるでみんなの妹のようですわね」
アナスタシアは、ピンクのドレスを着てちょこんと座るローゼを見て、ほんわかと呟く。
ショートニンも無言で頷き、「このような機会を頂き、ありがたいと思っています。私自身も国王の身分なのに、娘可愛さで付いてきてしまいました。警備面も去ることながら、滞在中の過分なもてなしにも感謝しかない。誠にありがとう」
ショートニンはブロディ(国王ニール)とアナスタシアに心から感謝した。
2人もそれが分かり、互いに微笑み合う。
お茶会はローゼがウィリアムと会話する機会を持ちたいが為に開かれたようなものだが、2人だけだと余計な憶測が飛ぶ可能性があるので、婚約者が決まっていない子息、息女を多く集めた形だ。
例えローゼの目的がウィリアムだけだとしても。
だがそんなローゼだが、推しの前ではてんで声が発せない。だって推しだから。尊き存在過ぎて。
そんな彼女をサポートするのが、年上のラリサ(エリザベート)達だ。ローゼの緊張を解そうと、いろいろと声をかけて会話を広げる。昨日観光した所はどうだったとか、楽しいものはあったかとか。余裕を持って聞き役にまわるロールケイトなども、実の妹のように可愛いローゼにメロメロとなった。彼女には1才下の生意気弟しかおらず、心から和んでいた。
笑顔で会話も盛り上がり、ゼフェルやサマンサも言葉を交わす。勿論ウィリアムやロビンも。ただジョージだけは途中で飽きたのか、ショートニンの護衛騎士に声をかけ、手合わせしようと少し離れた場所に1人を連れ出して稽古をつけて貰っていた。あらかじめ用意した木剣が置いてあったのを見ると、退屈なことを見越していたのだろう。その辺はなんとも知恵がまわるようだ。まあ普通の令息は、分かっていてもあきらめるんだけどね。まだ13才だからセーフか?
次第に会話も進んで、油断したラリサ(エリザベート)がやらかした。
「屋台のラーメン、美味しいですよね。あのニンニクがまた良いのですよ。元気もつくし。あっ、しまった!」
「な、なんでそれを! 見ていたのですか? 何処で?」
一瞬にして思考はラーメン屋台に戻るローゼ。確か屋台には自分達の他には3人のお客しか座っていなかった(あと1人分のスペースしかなかったし、そこは空席だった)。
ほぼ満席の屋台はスルーされ、周囲に人気はなかったはずだ。
「ど、ど、何処にいらしたのですか? 私達も一応変装していたので、一瞬では分からないと思ったのですが?」
ラリサ(エリザベート)が観念し白状する。
「あの時、一緒にラーメンを食べていたんですよ。私も変装していたので気がつかなかったでしょ? 和やかムードに水を差すと思い、お声をかけませんでしたの。すいません」
「そうなんですか? そうであるなら、謝罪なんてなさらないで下さい。却ってお気遣いをありがとうございます」
「まあ、ありがとうございます。ローゼ王女」
謎が解けたように微笑むローゼだが、侍女のランラン28才(独身)がその話に食いついた。
「あの3人は親しそうでしたわ。エリザベート様と御一緒ならば、恐らく護衛の騎士なのでしょうか? ご紹介とか可能かしら?」
いつもはクール担当のランランなのに、今は灼熱のような眼差しをラリサ(エリザベート)に向けている。そう例えるなら、獲物を狙う猟師のように。
(筋肉良し、顔良し、食べっぷり良し! どうか伴侶にして連れていきたい!)
ちょっと怖いと、リンリンは後ろへ身を退いた。
(超ヤバい雰囲気。いつもの先輩じゃない!)
ショートニンも少し焦っていた。
(あんなランランはじめて見たぞ。だがランランよ、無理強いは駄目だぞ。いくら好みだとしても強奪は駄目だ。ちゃんと紹介して貰って身元を確かめないと。既婚者かもしれんぞ!)
なんて変なことさえ、混乱して考え始めている。
護衛のアルニン、サンダリオ、ブレイクは頭を抱えていた。
「あいつ、男に興味ないと言ってたのに」
「じゃあ、一目惚れか? ヤバいな」
「何で俺じゃ、駄目なんですか?」
「「ん? なんて言ったブレイク?」」
「俺、告白したんすよ。2年前に。そしたら、ちょっと間を置いてごめんなさいって。理由も言われなかったんですよ!」
「お前イケメンの部類だよな。クリンアンパーン国ではさ」
「うん。性格も良いし、強い」
「ありがとうございます。じゃあ、何が足りないんですかね?」
「ワイルドさとか? お前ワンコ系だもんな!」
「うん、年上受けする感じ」
「俺ランランさんの5つ下ですが! 年下ですよ」
「嫌われてはいない」
「好かれてると思うぞ」
「「だけど、好感と恋情感は違うからなぁ」」
アナスタシア達の後方に立つ、ショートニンの護衛の会話に、お茶を吐きそうになる彼女。
(ラリサがつるむ筋肉なら、きっとキャラウェイだわ。彼モテるのね。でもいつも面倒くさい時は女装するのに。あ、食べ物関係の時は匂いが邪魔するからって、あんまりしないんだったわ。素顔はワイルドイケメンだからね。悪い人に見つかったのは悪手だったわね。でもドラゴン姉妹が離さないか!)
なんかとんでもないことになったと、ショートニンの侍女や護衛の様子に焦りを感じるラリサ。
キャラウェイのことを聞かれないように、黙って逃げることにしよう。そう誓うのだった。
ローゼは満足だった。
何度となくウィリアムと会話し、楽しい時間を過ごせたから。
(やっぱり推し様は推しのままが良いですわ。幸せな時間でした~♡)
納得の王女と、いろいろ滾らせている侍女ランラン。
果たしてキャラウェイは、無事に逃げられるか?




