ローゼ、花より団子
朝食を終えたショートニン達は、ジャームンサンド国の護衛達と案内役のウィリアムと共に街へ繰り出した。
危険な魔獣達がいることで、旨味のない国だと思われていたジャームンサンド国の季節は温暖だ。四季のようなものはあるが、冬も雪は降らないので農業や商業に適している。
クリンアンパーン国の城は、この国より北の標高の高い地にある為、寒さが厳しい。建物は頑丈に作られ雪にも耐えられる構造で、冬季は家にいることが多い民達は家具の質に力を入れている。飾り彫りも繊細で、百年近く経つと深い光沢が加わり、触れ心地もより滑らかになっていく。
それは高位貴族が買い求める、産業の一つになっていた。夏から秋にかけては比較的気候が良いので、広大な農地で根菜類とイモだけは多く取れる。港まで広がる領地だから主な産業は海産物であり、常に大きな漁船が港に留まっている。森林の猛獣は、国が率いる騎士団が陸軍として討伐を担当する。海は別の騎士団が、海軍として組織されている。
比較的災害が少なく、複数の産業があることで廃れないが発展もない場所だった。
そんな彼らだから、城から続く大きな通りに並ぶ街道に驚いていた。
何せいろんな店が所狭しとひしめき合い、多くの人が集っていたからだ。道を1本外れた場所には屋台通りがあり、簡単な屋根をつけた場所で、祭りに出店されるような肉串、焼き鳥、りんご飴やいちご飴、揚げいもにジュース、わたあめ、クレープなどと書かれた食べ物が売っていた。ローゼの国にはない物も複数見られた。
そことは別に、いかにも観光客用の魔石店や魔物関連のグッズ(上着、靴、リュック、印鑑、装飾品など)が売られる大きな店舗も数件建っていた。
銀行やギルドも、大きな店舗に隣接しているようだ。
支援を受けた平民達の店も多く、中に入るまでワクワクする。屋台から良い匂いもするし、魔石もみたい。
「ああ、時間が足りないです。どうしましょう!」
まずは平民が経営する、動きやすくて安い衣類と生地の店に入ったローゼ達は興奮していた。ここでは魔石の選別や加工をする女性達の動きやすい服が、店の多くの場所に置いてあった。
それも女性専用の作業服だ。
ジャームンサンド国では作業服は男女兼用で、ズボンやシャツの飾り気は皆無だ。狩りでも海でも、どうせ汚れるからといってお洒落さが皆無だった。
他国の人に会う時のドレスだけは、王都で学んできたデザイナーが作るが、他の衣類は昔から代わりばえがないのだ。
「ランラン。この繋ぎ見て! 可愛い色で刺繍もお花模様よ」
28才のベテラン侍女ランラン。
彼女は可愛いものに目がない。
黒髪のオカッパ。瞳は濃茶。
身長は165cmで、まだ成長中。
「それ、良いですね。大きなヒマワリ。こっちのも堪らないですよ。このシャツは犬の刺繍かな? サモエドかな? ふくふくだわ~」
白フェルトの中に綿入れし、その上に全体を銀糸で刺繍がなされていた。毛のモフモフ具合が繊細で、お目目は黒で鼻はピンク。凛々しくて可愛い、実写寄りである。
リンリンは18才で、騎士学校を卒業したばかり。
主に実技が優れ、首席で卒業を勝ち取った。
茶髪のおさげ。瞳は赤。身長は148cmくらい。
そんな彼女も若いせいか、可愛い物が好きだった。
「この抱き枕、艶々のタオル地ですよ。いろんな色がある~。説明書きを見ると、刺繍した布をカバーに縫い付ければ自分だけの枕の完成ですって。姫様は得意だから良いですよね。あ、買うとは言ってませんでしたね。てへへ」
リンリンも食い入るように、いろいろと見て回っている。
パステルの色で溢れる店で女子トークが炸裂。お店のお姉さんも 「迷いますよね~。私もここにいるとワクワクしますから」 と会話しながらフェルトを縫い合わせ、ウィリアムのぬいぐるみをさらに一体完成させていた。他にも可愛くデフォルメされた、動物のぬいぐるみも窓辺に並んでいる。
ウィリアムがうさぎを抱っこする、ダブルで可愛いものも。
どうやらローゼがウィリアムファンなのは筒抜けのようで、この店にはその方面のグッズが置いてあった。商魂逞しい!
彼女達の背後には、ショートニンや護衛とグッズ当人のウィリアムもいるのに。
ウィリアムは最初、グッズを売られるのを嫌がっていた。けれど王族じゃないから大目に見てあげてと、アナスタシアより頼まれて、渋々承諾した過去がある。
なので売られているのは良いとしても、買うのを見るのはちょっと嫌だった。と言うか、本人を目にして買いたいローゼ達にもプレッシャーがかかる。
てな訳で、一旦男子女子別行動にして、街の中央にある噴水の公園で待ち合わせることにしたのだ。
「ぐぬぬ。抱き枕は荷物になるから断念ね。代わりにぬいぐるみと作業ズボンを買う。後自作で作れるように、裁縫糸とフェルトを買い込んでいくわ」
「良い判断ですわ、姫様。私は犬シャツを買います!」
「私は外側に黒バラの刺繍が入ったジーンズにしますわ! 次の狩りが楽しみです!」
彼女達は侍女なので、基本的に騎士服は着ない。狩りの時はシャツとズボンは私服で、上着はその時だけ騎士服を羽織る。
ローゼはショートニンとたまに狩りに行くので、その時まで侍女達の服もお預けではあるが。
今回のローゼは、ウィリアムグッズを取ったようである。
そして店を出て、時間まで街を見て回ることになった。
ウィンドウショッピングしながらお喋りしていくと、屋台でラーメンを食べている人が見えた。
その人物は彼女達は知らないが、いつもの3人組だ。
ラリサ、キャラウェイ(本日メークなし)、カザナミである。
ラーメンはメイクが落ちるから、してなかったキャラウェイ。ラリサは元からやる気なしで、スッピン。メイクなしで美しいカザナミ。
匂いに引かれて、寄っていったローゼ達。
そう言えば、もうそろそろ昼に差し掛かる時間。
顔を見ないで後ろ姿なのに、胸がときめいたランラン。
「あの後ろ姿、良い筋肉だわ!」
異様に魔力の強い3人が、笑いながらニンニク増し増しでラーメンを食べている横に座ってしまった。
(良い匂い過ぎて抗えない。もう食べよう!)
彼女達は普通の味噌ラーメンを頼んで、屋台を囲む。
「美味しいです~」
「あっ、ひ、ローゼ様!」
「ひ、待って!」
「ありがとう、お嬢ちゃん。このチャーシューは魔物肉だから、ジューシーだろう?」
屋台の兄ちゃんがローゼに話しかけた。
「やっぱりそうですか? 今まで食べたラーメンで、一番美味しいですわ」
「おう。ありがとな! 1枚チャーシュー、サービスだ!」
毒味前にローゼが先に食べてしまった。
いつものことである。
ケロッとしているので、取りあえずセーフだ。
「本当に美味しいですね。もう他のラーメンじゃもの足りなくなりそうです」
「いいえ、手はあるわ。お肉の輸入よ!」
「「おおっ、その手がありましたね」」
メッチャ美味しく食べていたが、ふと気がつくと隣の客がイケメン(ラリサ除く)! 一瞬ムセそうになるも、今さらである。ただもう二度と会うこともないと思い、ラーメンに集中するローゼ達だ。
ラリサも同時にムセそうになったが、何とか踏み留まった。
(ローゼ王女が何故屋台に? それにしても良い食べっぷりね。何か気取らなくて良い子そうだわ。この子ならウィリアムに似合いそう、かも?)
ラーメンに集中していたせいで、勘の鋭いリンリンもラリサに気づかなかった。だいぶん警戒が解けているようだ。
そしてランランはメイクなしのキャラウェイを見て、 (格好良いわね。この国のイケメン率どうなってるのよ) とか思っていた。
イケメンの自覚のある男2人は、気にすることなくラーメンを完食する。ラリサも遅れて食べ終え、その場を去った。
ウィリアムがくしゃみをして (噂のくしゃみかな? 姉上だったら嬉しいな) なんて、暢気にローゼ達を待っていたのだった。




