ローゼ、困惑
「これが魔獣のお肉なのね? 普通のお肉と変わらないみたいだけど」
「少し待て、ローゼ。まずは俺が食べてみるとしよう」
「待って下さい、ショートニン様! 毒味なら俺が!」
「いいえ、私が致します!」
「あー、口に入れてはいけません(わ)!」
「大丈夫だ! 何を食っても、俺なら腹は壊さん!」
((((((そう言うことじゃねえ!!!!!))))))
晩餐に運ばれた食事を、ショートニンの部屋に集まり食そうとする一行。魔獣なんて食べたことがないので、まずは護衛が食べるからとショートニンを止めるが、それを聞かずに口に含む。
「もぐ、もしゃ。うっ、うー」
「やはり毒か! ショートニン様、吐き出して下さい!」
「水で口をゆすいで!」
「いやぁー、お父様ぁあ!!!」
なんて阿鼻叫喚だが、一瞬で状況は変わる。
「うまいー!!! こんなのはじめて食った。脂も旨味も乗ってて、極上の味わいじゃ! わはははっ」
「え、旨い、の?」
「毒は?」
「平気なんですか?」
「お父様、お加減は?」
心配そうな顔の娘や護衛や侍女に、豪快に笑いかけるショートニン。
「「「「「「ま、まぎらわしい(わ)!!! でも無事で良かったー!!!」」」」」」
先に潜入させた者からも、この国の貴族や平民も毒浄化さえた魔獣肉を好むと報告を受けていた。その肉を食べて魔力が強くなった仮説さえ聞いていた。
だがそんなことも忘れ、ショートニンは肉を貪り続ける。
「旨いから、お前らも食え! 毒の浄化を出来る国だから、この肉を食べられるのだ。我が国に魔獣が出ても浄化出来ないから、皮や牙を取った後の肉はただの廃棄物になっているだろ? この国の浄化出来る魔法使いをスカウトするか、我が国にいる数少ない魔法使いをここで鍛えて貰おうかな? 肉旨すぎる!」
喋りながらも手が止まらないショートニンに、ローゼの手も伸びる。一欠片口に食むと、すぐに口が美味しさで充たされた。
「美味しいわ。すごく濃厚。煮込んだ味なのか、ジューシーなのか分からないけど、とにかく今まで食べたことない感じよ」
その言葉に、護衛も侍女も食べ始める。
「うわぁ、何だこれ~」
「極上の味わいだ。こんな肉食ったことない!」
「薄味なのに、いろんな旨味汁が! 止まらん!」
「おいし過ぎるわ。口で蕩ける~」
1品目:さつまいもといんげんまめの(オウギワシの)手羽ロール。
2品目:(オウギワシの)鳥もものからあげ。
1と2品は言わずと知れた、ラリサ考案メニューだ。
3品目:(ヴェノムオーロックスの)牛ステーキ。
4品目:ファンブル公爵領(前世ラリサの薬草園)で取れた野菜と薬味を組み合わせた、色鮮やかな緑黄色のササミサラダ。ドレッシング付き。
5品目:沢庵おにぎり。
ちょっとグロいバンパイアスパイダーの素揚げも、ポリポリと酒のツマミに平らげられる。デザートはフルーツパフェと甘くないプリン。果物の生ジュースやお酒、ビールもたくさん用意されていた。
どれもこれも絶品だった。
ここでしか食べられないと言うのも、ポイントが高い。
「あぁ、満足だぁ」
「私もです、お父様。こんなに他国で食べてしまうとは。レディ失格ですね」
「いや。他人はいないのだから、良いのだローゼ。悔いが残るより良いと思うぞ。何でも屋台もあるそうだから、観光ついでに見に行こうか?」
「はい、是非とも。勿論食べ物以外も見たいですけど」
「お、おう。そうだよな。食べ物だけじゃ味気ないよな。………ウィリアム殿にも付いて来て貰うのか?」
「………あっ、そうだわ。そうでした………」
あんなハイテンションだったのに、11才のローゼの目的は既にズレはじめている。
(どうしましょう! ウィリアム様がいたら、たくさん食べているところなんか見せられないわ。せっかくのエスコートして貰えるチャンスなのに! はぁ、悩ましいわ)
(ああ。お嬢様が推しと美味しいの板挟みに! 辛そう)
(ここはウィリアム様では! 嫁げばいくらでも食べられますわ)
(シスコンで手に入らない男より、肉食いに行ってくれる方が嬉しいけどな、俺が!)
(十年足らずで、食文化がずいぶんと変わったものだ。他国との交流が進んでいるのだな)
(あー、酒うめぇ。この国の自酒良い! お土産いっぱい買って行こう。息子や嫁にも、この料理食わしてやりたいなぁ)
魔獣は自国で狩ったものだが、食文化は肉や魔石などを買い付けに来た商人達が、発展を見込んで出した店が多い。それを食べたこの国の民が研究や工夫を重ね、別の場所で飲食店を出していったのである。この国と他国の味の良いとこ取りで食文化が発展した形だ。
他国の味や料理を組み合わせたからこそ、今の味に繋がっている。魔獣や猛獣で荒らされて来た農業資源が落ち着いてきたのも、ここ最近のこと。調理人のやる気が爆発するのも、無理もないことなのだ。まさに平和万歳である。
こうして腹が満たされ、疲労もピークを迎えたローゼ達は、他国に来た初日なのに爆睡した。普段の彼らからすれば、見張りも立たずに熟睡するのは到底ありえないこと。それほどまでに、心地良いおもてなしだった。




