ローゼ、王宮へ
「お父様、やっとお城に着きましたわ。ずいぶんとたくさんの方が出入りしてますわね」
「ああ、そうだな。どうやら貴族だけではなく、平民の出入りも多いようだ。身分に囚われず、実力のある者を職員に採用している噂は真実のようだな。国の体制も、昔とは変わったようだし」
ローゼとショートニンは城内の警備の関係で、城に着く前に同一の場所に乗り込んでいた。
ショートニンが言う昔とは、彼がまだ従軍していた頃の話だ。確かにこの国は閉鎖的だった。と言うか、魔獣や猛獣に必死に抗っていたことで、国の編成など行えていなかったようだ。
「何がきっかけかは分からんが、ここ十数年でいろいろと変わったようだ。見るものもないと思っていたが、侮れんな」
変わったきっかけと言えば、300年前にドラゴンを捕食した3人。ラリサ、キャラウェイ、ブロディが今世に揃った事だろう。
このトリオが揃わなければ、魔獣を食べようとは思わなかったはずだ。
補足として
①ラリサがブロディ(当時王太子だったニール)とアナスタシア王太子妃に、マジックバッグから出したドラゴン肉を食べさせなければ、(安全面の保証がなくて)国民には普及しなかった。
②キャラウェイが僧侶の法術で、魔獣の毒を浄化出来なければ食べることが出来なかった。
そもそも魔獣が、食べられると思われていなかった。
(300年当時の3人は貧しく、取りあえず何でも食べていた経験があり、安全性は確立されていた。ある意味治験済み)
③王宮に、自由に動ける脳筋が揃っていた。
アナスタシアとその直属軍、ゼフェル、ラリサ、キャラウェイ、ブロディ。ゼフェルの護衛も脳筋だった。
なんて状況があり、魔獣を狩っては安く市井に卸し、貴族も一部を除き食していった(ジリアンやロビン、一部魔獣拒絶派貴族は食べていない。今でもゲテモノ扱いである)。
だが魔獣を食した者は、ほぼないか乏しい魔力でも徐々に増えていき、強い戦力となっていった。一部の貴族は元々魔力が強かったがさらに高まり、ラリサ達は前世の記憶を取り戻したことで、魔力もうまく扱えるようになった(エリザベートだったラリサは3才の時に記憶を取り戻し、魔力を使っていた)。
その他にも、ブラックゴルゴノプスドラゴンとの和解など、いろいろあったのだ(詳しくは以前のものを参照してくだされ)。
そして国王達は、何れ尽きるであろう魔獣を想定し、魔力に頼らない国作りを目指していたのだ。
◇◇◇
先触れを出したことで、ジャームンサンド国の重鎮達に迎えられたローゼとショートニン一行。
国王ニール(ブロディ)、王妃アナスタシア、第二王妃ジリアン、王太子ゼフェル、第二王子ロビン、次期王太子妃サマンサ、ファンブル公爵家ブルーノ、同家公爵令嬢ラリサ(エリザベート)、同家公爵嫡男ウィリアム、同家公爵家次男ジョージ、伯爵令嬢ロールケイトが迎えることになった。
新たな貿易相手になりそうなクリンアンパーン国王なので、わりと大歓迎である。
馬車の扉が開いて階段を降りる際に、ウィリアムが恭しく挨拶をしてローゼをエスコートする。
「ようこそおいで下さいました。どうぞお手をお取り下さいローゼ・イグナンシェ王女様」
推し活でさんざん見てきた顔が動いて喋る様に、ローゼは顔がにやけるのを気力で制した。たぶんウィリアムファンなのは調査済みであろうが、ここで無様は晒せない。出来れば気に入られたい、そして最終的には嫁ぎたい! のだ。
「ありがとう存じます、ファンブル公子様」
そう告げて、ウィリアムの差し出す掌に自らの手を重ねて階段を降りたのだ。
それを見てショートニンはほくそ笑む。
(ほぉ、なかなか様になっているではないか。ナヨナヨした魔法野郎だと思っていたが、なかなかどうして。良い筋肉の付き方じゃないか。それに覇気も強い! うむっ)
ウィリアムの感情とは裏腹に、勝手に何やら認定されていく。2人の熱い視線に気づくも、華麗にスルーするクールなウィリアム。
ラリサ(エリザベート)とジョージだけは、手に取るように分かり目で会話する。
(ああ。かなりイライラしてるわね。あからさまだもんね)
(よく我慢してるよ、兄貴は。普通の令嬢になら、手も触れさせないのに)
2人は優しい目をウィリアムに向け、ラリサは頷きながら小さくガッツポーズをする。それに頷くウィリアムは、普段のクールさが溶けて微笑む。ジョージがスルーされているのは、いつも通りである。
それを見てまたローゼが滾っていた。
(最高ですわ! ウィリアム様。お姉様に微笑んでいる顔が尊過ぎます~)
馬車から降りた2人に、出迎えた者達は軽く挨拶を交わし、国王達は王宮への貴賓室へ案内する。
通路には2列になって使用人がずらりと並び、ラリサ達も最後尾に並んで頭を下げていた。
城内に入る前の大きな噴水と、色とりどりの薔薇にローゼの乙女フィルターが目を引く。
「綺麗ですね。私達の国は特に冬の寒さが厳しいから、薔薇を育てられないのですよ。国にあるのは椿や山茶花くらいで、後は雪解けから植える1年草や球根花ばかりなんです。この庭は本当に良い香りですわ」
微笑むローゼは楽しげな口調で、庭を眺めている。薔薇は比較的寒さに強い。マイナス8度位なら枯れない種が多いが、クリンアンパーン国王は最低気温がマイナス30度もあるという。植物には厳しい気候のようだ。
11才の幼い王女は無邪気に喜んでいる。それを見るショートニンや侍女や護衛も優しい雰囲気だ。彼女は愛されているのだろう。
貴賓室にはローゼとショートニン、お付きの者と、ブロディ、アナスタシアだけが対面して言葉を交わすことになった。ウィリアムは貴賓室に入る前に、他の者とそこを後にしていた。
旅の疲れもあるだろうからと、軽くお茶をした後に宿泊する部屋へ案内する。
「イグナンシェ陛下、王女殿下。遠い場所まで、よくぞおいで下さいました。まずはゆっくりお休み下さい。夕食も部屋に用意させますので、何かありましたら侍女に申し付けて下さい」
「急な訪問に応えて下さり、ありがとうございます。お言葉に甘えて、のんびりさせて頂こう。感謝しますぞ、ニール・バルニアン陛下、アナスタシア・バルニアン陛下」
「どうぞ、私のことはニールとお呼び下さい」
「私のことも、アナスタシアとお呼び下さい」
にこやかに語りかけると、ショートニンも答える。
「では私のことも、ショートニン。娘のことはローゼとお呼び下さい」
「では、ショートニン殿。ローゼ王女。侍女にお部屋をご案内させますね」
「ああ、ありがとう。ではまた明日に」
「ええ。朝食で会えるのを楽しみにしています」
そして気づいたように、ブロディ(ニール)が尋ねた。
「あ、そうだ。ショートニン殿は、魔獣の肉は食べられますかな? 嫌なら他の肉を出そうと思うが、どうですか?」
暫し思考し、ショートニンは言う。
「是非食してみたい。楽しみにしていますぞ」
「任せてくれ。きっと、病みつきになるでしょう」
にこやかなブロディ(ニール)に、ショートニンも笑みを返した。
部屋に案内され、ベッドに腰かけるショートニンと護衛達は、深く息を吐いた。
「良い国ですね。国王も王妃も心から歓迎してくれているようです」
「本当にな。俺達は気配で何となく嘘が察知出来るが、微塵の厭らしさも感じられん。ただ………。第二王妃と第二王子が、少し癖がありそうだ」
「そうですね。この国で第二王妃は珍しいですから、いろいろあるんでしょうな」
「そうだろうな。ニール殿は善良に見えるが、若い時にいろいろあったのかもしれん。さすがに詳細は、諜報でも調べられなんだ。この国の民の忠誠心は強度のようだし」
「慕われているのは良いことです。国は外部より、内部が崩れる方が脆いですからな」
「そうだな。まずは明日から、いろいろ見てまわろう」
「「「御意に!」」」
なんて真面目なショートニンとは反対に、ローゼ達はきゃっきゃと騒いでいた。
「見た見た! ランラン、リンリン。ウィリアム様、超格好いいの。倒れそうだったよ~」
「実物5割増しですね。良いと思いますよ!」
「私は、ゼフェル様の筋肉の方が好きですね!」
「今はウィリアム様のことでしょ? もう、リンリンは筋肉好き過ぎ!」
「じゃあランランは、ウィリアム様に一番目が行った?」
「それは………。違うけどさ」
「何々、誰推し? 聞きたい!」
「姫様、ごめんなさい。私はアナスタシア様の筋肉に目が………」
「何で謝るの? 良いのよ、そんなの。みんな違って、みんな良いでしょ! 良い筋肉揃ってるものね。我が国にも負けないわ」
「そう言えば、そうですね。武力と魔法両方なら、最強じゃないですか?」
「そうね、そうだわね。でも全員が魔法使いじゃないんでしょ?」
「どうでしょうか? 調査する必要がありますね」
「よし! 明日から偵察開始しますわ」
「よろしくね、2人とも! でもウィリアム様が魔法剣士なら、ますます好きになりそう! どうしよう~♡」
「そうなれば、是非お嫁さんにして頂きましょう! 我が国の為にも! 頑張って下さいね、姫様」
「ええっ~、そんな。今日だって好き過ぎて、まともに顔も見れないのに!」
「女は愛嬌ですよ。姫様の魅力で、メロメロにしちゃいましょう!」
「わかったわ、頑張る。リンリンとランランも応援してね」
「「勿論ですわ!」」
筋肉で盛り上がる、武道国の女子だった。




