ウィリアムに恋するローゼ
海で挟んだ隣国クリンアンパーン国王、ショートニンは元軍人である。兄が恋人と出奔した為に、繰り上がりで国王になった経歴がある。そんな訳で筋肉が凄かった。メイク筋が発達した、キャラウェイくらいの二の腕で、勿論全身も鍛えられている。ボディービルダーのような筋肉の付き方である。
本人曰く。
「国王なんかになっちまったから、こんなへろい肉体になったんだ。本当の俺はこんなもんじゃねえからな!」
誰も何も言ってないけれど、本人的にはご不満のようだ。
実践では剣を使う右腕や、踏み込み時に体を支える左下肢が発達しているのが良いのだそう。均整の問題ではないようだ。
そんな厳つい(強面で口髭とあご髭あり)ショートニンの娘が、最近ほぼ全国民の魔力が上がっているジャームンサンド国の公子が好きだと言う。
魔法と剣術・武道は、ベクトルが違う。
使う部所が違うせいだ。
魔法は術式を描いたり詠唱したり、意識(一部の者は無意識)の中で演算し放出する。主に知力が必要。
剣術や武道は、厳しい肉体の鍛練の結晶である。
一朝一夕で成せるものではないのだ。
「碌に体も鍛えねえ魔法野郎に、大事なローゼをやれるわけねえ! でもなぁ、言ったら嫌われそうなんだよな。クソッ、ジャームンサンドの野郎!」
完全な八つ当たりである。
ウィリアム的にはラリサ一筋であり、まして他国の姫など眼中にもない。そして知らぬ間に、ブロマイドや絵画的なものが巷に溢れていく。勿論無許可営業で、クレームが入れば即店は解散して、また違う場所で売られているようだ。
ウィリアムは知らないが、ラリサ(エリザベート)はそれを知っていた。
アナスタシアの放った諜報員からの情報は、ラリサ(エリザベート)やタルハーミネ(ヘルガ)、ジョージ、ゼフェルらに知らされていたからだ。
後継者教育で登城することが少ないウィリアムは、聞くチャンスがなかった。
「どうするラリサ? 国内どころか、国外にもファンがいるそうだ。無許可のグッズも多いそうだが」
「どうもこうも。これが王族なら、ロイヤリティを取りやすいですが。王族の血が入っていると言っても、公爵位ならば娯楽だと思って見逃すしかないかと」
「そうよねえ、ラリサ。あまり過剰に取り締まると、国の評判にも影響するし。もういっそのこと、公式で販売しちゃえば? 儲かるわよ!」
「ちぇ、兄貴ばっかり。俺のはないの婆ちゃん。俺だって顔はそんなに変わんないのに!」
「まあまあ、ジョージ。貴方は時々ちょける(ふざける)から、親近感のあるお兄さん枠なのよ。あなたみたいに人間味のある方が、まわりの女子に現実的にモテるのよ。ウィリアムはなんて言うか、王子様的な憧れなのよ。アイドル的な」
「やっぱ良いじゃん。何だよアイドルって。公子なのに王子って良いよなぁ。しょせん俺はイロモノなんだよ」
イジケルジョージが憐れ過ぎて、幸福爆弾を落とすアナスタシア。
「そう剥れるな、ジョージ。侯爵家のマーメイラ・ラボンネ嬢が、お前のことを明るくて好きだと言って冷やかされていたぞ。普段大人しくて物静かなのに、牽制かましたんだな、きっと!」
「ええっ!! マジか! 俺もずっと彼女のこと気になってたんだ。ウッヒョー!」
もう機嫌直ったよ、ジョージ。
これが噂のキューピッドかと、ラリサ(エリザベート)は思った。
(マーメイラ嬢なら、あのお調子者を御せるわ。あの穏やかなのに芯のあるところ良いわよね。もうみんな、そんな年になったか)
ラリサ(エリザベート)15才でジョージ13才。
(少し前に赤ちゃんだったのに、もうこんなに大きくなって)
思わずばばあモードに入るのだった。
13才も15才も、十分若いのに。
◇◇◇
そしてまあ良いかと、ウィリアムの件は放置された。
その3日にクリンアンパーン国王、ショートニンとローゼ姫がジャームンサンドに来訪したいと国王ニール(ブロディ)に連絡があり、公爵家にもそれが通知された。
表向きは魔獣購入の打診だったが、諜報員からの報告を知る彼らは本当の目的が薄く見えた。
クリンアンパーン国の王太子は既にいるから、きっと他国に嫁ぐことも視野に入れているのだろう。
2国を挟む海は海賊も多く、協力出来れば保安的にも貿易にも良い国だ。
(((だけど、ウィリアム(兄貴)だからなぁ。無理だな))
心の声が一致する3人(ラリサ、ジョージ、タルハーミネ)だ。
けれどラリサ(エリザベート)だけは、他の2人と何かずれていた。
(いつまでも姉に頼る気の弱いところがあるから、武道の姫は気が強そうだから無理かなぁ。優しい子だと良いけど)
他の2人は極度のシスコン(ラリサ限定)だから、無理だよと思っている。何でも自力で出来るのに、時々弱弱しくラリサに駆け寄り「どうしましょう、姉上」とかなんて相談していた。
以前に空気の読めないジョージが、「それなら、俺が力に「(無言のウィリアムからの睨み、若しくは威嚇)」ヒッ、ごめん、ウソ、サイナラッ!」なんてこともあった。
そうして鈍さ100倍のジョージは、その後タルハーミネ(ヘルガ)に慰められながら兄の性癖を知ったのだ。
アナスタシアから何故かウィリアムへ直々に、「年の近い高位貴族を話し相手にしたいから」と、来訪時のエスコート役を任されてしまう。
ラリサもジョージも参加するが、ウィリアムはエスコートに難色を示す。
ローゼ11才、ジョージ13才、ウィリアム14才、ラリサ15才、ロールケイト15才、第二王子ロビン16才。王太子ゼフェル17才、次期王太子妃サマンサ15才。
以上が参加メンバーだ。
安全の確保の為、参加者はわりと武闘派で固めた形だ。
王太子ゼフェルは無理でも第二王子ロビンは婚約者がいないので、優先順位はウィリアムより上の気がするからだ。
「何故、僕が? 年齢ならジョージが近いし、地位ならロビン王子なのでは?」
疑問を口にしても、さすが公爵嫡子は王命には逆らわないのだが。ただただ悩ましげなウィリアムをラリサが慰める。
「きっとウィリアムがしっかり者だから頼まれたんだよ。ジョージじゃ心配だし、ロビン王子は破廉恥そうな顔してるし。ね、頑張って♪」
「姉上に言われたら、役目を全うしなければなりませんね。でも少し不安です僕………」
「もう、大丈夫よ。私の自慢の弟だもん!」
そう言ってウィリアムの頭を優しく撫でるラリサ。ウィリアムの表情からは既に不安さはなくなり、至福の笑みを浮かべている。
母メアリーと父ブルーノは、ラリサが前世持ちだと知っているので、微笑むだけだ。
(ラリサ様はお優しいわ)
(婆ちゃんは、いつでも婆ちゃんだな)
祖母タルハーミネ(ヘルガ)、祖父ヴァルモン、ジョージは生暖かく見守る。
(ラリサは弟に甘いわね)
(ああ、また甘やかして)
(計算づくだね。ヤバい! あんまり見過ぎて睨まれた!)
家族内でもいろんな意見が飛び交う。
「兄様、甘えん坊ね」
「姉様、甘やかし過ぎです」
妹達は直球だ。
勿論ウィリアムが聞こえないふりをするのは、通常運転。
そんな感じで、ローゼ達の来訪の日が近づくのだった。




