地味顔の魔女の商品戦略
「バリアーって便利だよ。気を抜いてゲームしてても安心だしさ」
「いきなり何言ってるのかな、カザナミは?」
「ああ、こいつ最近マ◯オカートに嵌まっててさ。
俺を守るようにこいつの姉さん達に言われているらしいんだけど、ゲームに集中できないからって、住んでる建物にバリアー張ったらしい。
ドラゴン力の無駄遣いだよな」
すっかり、ラリサ・キャラウェイ・カザナミの三人で外出することが増えた、午後のファミレスでの会話。
ラリサは今日も目立たぬように、安定のノーメイクで参加だ。
ラリサは塩ラーメンをすすり、キャラウェイはカレーうどんを食べ、カザナミはカルボナーラパスタをフォークに巻いている。飲み物は順にオレンジジュース、コーヒー、ブドウジュースを注文中。
キャラウェイはこの二人と食事をするのは落ち着かないので、たまには単独行動をしたいのだが、ドラゴン姉妹から彼の保護を託されているカザナミは逆らえない。
よって、いつも一緒である。
さすがのカザナミも、人化してパワー不足な今はテレポートはできないが、彼を座標にしてドラゴン姉妹が移動するのは容易い。
既にキャラウェイはドラゴン姉妹の美容要員なので、いつでも連れていかれる運命にある。
これには王妃アナスタシアも同意している。
「貴方には苦労をかけますね。でも安心して。貴方には特別給与と、軍の特殊訓練一時免除の特典を付けるからね。これからも国の為にお願いね」
慈愛に満ちた美しい顔だが、“絶対断るな”の圧を感じる。
(王妃からの圧、強すぎない? 魔物討伐仲間だと思ってたのにさ。まあ、ドラゴン二体に逆らえないけどさあ)
ちょっと遠い目のキャラウェイ。
ほぼ金で売り払われたようなものである。
(……でも特殊訓練は、おっさんの身にはきついんだよな。国王になったブロディ(ニール)は政務で抜けることが多くなったし、メークアップの仕事と兼任じゃ付いていけないって! だからまあ少しはマシなのか、コレ?)
少なからず利害は一致したようだ。
以前に心配していた生活資金も着実に貯まりつつあり、その方面の心配はなくなったようだ。
けれどプライバシーは皆無。
アナスタシアから、ドラゴン姉妹の下僕に変わったようなものだ。
でも彼は知らない。
どの国でも、一部魔界でもキャラウェイのメークの技術を欲していることを。
勝手に“師匠呼び”する声も多い。
ドラゴン姉妹の影響力は絶大だ。
例え人間だとて、竜種3体の加護を受けているキャラウェイは、“人間の癖に”等と馬鹿にはされることは決してない。崇められる対象である。
本人はその事実に、一ミリも気づいていないけど。
キャラウェイからしたら、カザナミは出来の良い少し生意気な弟で、ウミナリは姉に振り回されて共感しかない同僚、ライメイは文字通り女王様だ。今さらドラゴンに対しての恐れもない。彼にすれば、ドラゴンの姿も人間の姿も変わりなかった。
強いて言えば、ウミナリは白い綺麗なドラゴンボディで、ライメイは金色でピカピカのド派手ドラゴンと言う程度。
順応性が高いのか、慣れなのかは不明。
一々驚いていたら、それこそ疲れる。
最早家族のような密着度である。
話は戻り、バリアー発言に戻る。
「バリアーは、俺らドラゴンにしたら簡単な術式なんだ。魔力の弱い俺でも余裕だからな。でもこれは普通、教えられないんだよ。解析されると俺らの命に関わるからな」
じゃあ何で言ったと疑問のラリサとキャラウェイだが、カザナミは続ける。
「あんた達二人なら良い。教えてやるよ。簡単に死なれたら困るからな」
なんて照れながら言ってくる。
どうやら、ドラゴン姉妹から許可も取っているそう。
「いくら俺でも、風呂とかトイレは行けないし面倒だ」
そう言うと、ラリサ達の周囲に認識阻害と遮音を展開し、教えようとしてくる。
「ちょっと、待った」
手の平をカザナミに向け、ストップをかけるラリサ。
キャラウェイも同意だ。
そんな秘密重すぎる。
「今だとラーメン伸びるから、後で教えて」
「ああ、じゃあ後でな」
ズコッと転けるキャラウェイ。
(ラリサ、あんたってば! まあ、今さらよね)
一瞬で諦めるキャラウェイ。
カザナミはその時こう思った。
(ラーメンは伸びたら不味くなるのか。また一つ学んだよ!)
みんな真面目顔のラリサの席。
でも大したことは考えていないのだった。
それを遠目で観察するウィリアムは、嫉妬していた。
(俺も誘ってくれたって良いのに。いつもあの三人でばかりつるんでズルいよ)
既に恋仲でないことは確認済みなので、純粋な仲間はずれ感の嫉妬だが、ラリサ達は気づいていない。
ラリサからすれば長男ウィリアムは正統な公爵家の後継者だ。
多忙著しい彼を誘うのは気がひけるし、ウィリアムを誘うと次男ジョージ、次女イゾルデ、三女シーラも黙っていないだろう。
あくまでもひっそりの大食い計画なのだ。
それにラリサを女の子扱いしない、キャラウェイとカザナミといるのは楽なのだ。
そんなウィリアムの気持ちを知らないラリサは、呑気にラーメンを頬張る。その姿も可愛いなと思いながら、大好きな苺パフェを口に運ぶウィリアム。
気になるなら同席しようと声を掛ければ良いのだけれど、「邪魔って言われたらどうしよう」等と、考えすぎて動けない彼は、ひたすらスプーンを動かす。
その姿を見て頬を染める周囲の少女達。
さすがにウィリアムが、公爵家の人間だと知る者は少ない。
だってここ、普通のファミレスだもの。
ファミレスの概念は、以前に出会ったカローラと言う少女に教えてもらった。新しい学校のデザインコンペの時、話した内容が生かされている。
(複数の食べ物が注文できる幸せ空間。良いねってことで)
ラリサに付いて来て、苺パフェの美味しさに目覚めたウィリアムと、ウィリアムにこっそり付いて来て食べ物を注文する少女達と、少女達につられてここに入る少年達で儲かるお店。
知らずと経済を回すラリサ達。
そのラリサ達はラーメンなどを食べ終え、ジュースを飲みながら相談していた。
危険を伴うドラゴンバリアーではなく、なんかこう煙幕とか目がシボシボして辛くなるような玉ねぎを切った時の感じの防具ができないか、三人で考えていた。
「ほら、一応私達仮にも軍人だからさ、鍛えてはいるのよ。問題は隙をつかれて狙われた時に、その場で隙をつく物の方が良いと思うのよ。…………残念ながら、私もキャラウェイも脳筋なの。難しい術式無理なのよぉ」
「ちょっと、一緒にしないでよ。まあ、おっさん脳で覚えるのは大変かもね。ドラゴンバリアーは、生まれた時に体に刻まれて備わってくる目や耳みたいなものでしょ?思っただけで展開すると聞いたわ。頭の中で演算して紡ぐのでしょ? ………残念だけど、本当に私達には無理だわ」
一瞬抵抗したキャラウェイも、ラリサに同意した。
やはり最強の竜種は、知能も超越していた。
天才魔導師ならともかく、凡人に無理なのだ。
「そっか、一番安全だと思ったのにな。じゃあ、いろいろ作ってみようぜ」
「うん、玉ねぎ爆弾からやる?」
「玉ねぎすりおろして、瓶に詰めるとかか?」
「蒸発とか腐ったりしそう。毎朝作る?」
「毎朝涙流して準備するのか? 面倒!」
「それなら、玉ねぎぶつければ?」
「良いね」
「ちょ、ちょっと、隙をつくアイテムなんだろ?」
「「そうだったよ!」」
「じゃあもう、アナスタシアに頼めば良いんじゃない? 頭の良い奴居るだろ?」
「うん、そうだね」
「さすが、カザナミだな」
言葉なく、笑顔で頷くカザナミ。
(何だかよく解らないけど、楽しい。でも商品化まで気が抜けないな)
なんてことで、食事会は満腹のうちに終了していた。
「満足、満足」
「嫌だ、カレー跳ねたわ。お気に入りなのに」
「洗えば大丈夫だよ」
「あんた達、自分で洗濯しないでしょ? カレーは染みになるのよ!」
((じゃあなんで、カレーうどんを食べた))
優しいので(若しくは煩いので)、反論しない賢いラリサとカザナミ。性格を熟知し、伊達に一緒にいる訳じゃない二人だった。
後継者教育で忙しいウィリアムも、パフェに満たされて公爵邸に戻っていく。
(また来よう。今度はラリサと来たいなぁ)
なんて憂い顔の彼の隠し撮りされた写真が、高値で市民に広がっていった。
「麗しの貴公子様、王子様」等々と。
それが隣国の王女ローゼの目に入り、イケメン好きなので調査が開始される。公爵家の嫡男と知られてしまうのは僅か先。
「待っていて、麗しの王子様」
銀髪緑眼の美丈夫ではあるが、公子であって王子ではない。
それを叫ぶ王女ローゼは、白金の髪と琥珀の瞳で、天然物のたいそうな美人。
その美人につられて、我が国の第二王子ロビンが出張って来るのも、もうすぐなのだった。
「美しい王女は、僕にこそ相応しい。隣国の力があれば、実権を握るのも夢ではないかも」と。
ただ王女ローゼはまだ11才。ラリサの妹イゾルデと同じ年齢だった。




