地味顔の魔女、今日も出番なし。キャラウェイの回。
「まあ、さすがですね。これ欲しかったのですよ」
「そうなの? それは良かったわ」
さすがお姉さま達ですわと、魔界の女性達がワイワイと賑やかにライメイやウミナリを誉めちぎった。今回は試供品と言うことで、小瓶に入った物を数個づつ全員に配っていった。
魔界の住人達も、ラリサの国での姉妹の活躍を知っており、密かにミニフィギュアやぬいぐるみを購入していた。
ブロマイド購入や雑誌の定期講読をしている者もいる。
人間の国のファッションも今の魔界の女性達に人気があり、お忍びで購入している者もいる。ドラゴン姉妹がイベントで各地を回る特集記事で、人間界のいろんな観光地にも注目が向けられていた。
そうして魔界に住む魔族達の、人間達へのイメージが変わっていった。
一昔、否ドラゴン姉妹が現れる前の人間は、野蛮な未開世界の住人と言う印象だった。魔界を支配する為に、他国に好感を持たないような情報操作がされていたか、若しくは本当に昔は野蛮な狂暴性があったのかもしれないが。
ここに来て、相手のことが多少なりとも解り、実際に(魔族と言うことを隠して)人間に紛れ訪れても攻撃されることもない。中には粗野な輩もいるが、一部の者だと今なら理解できかけている。
ドラゴン姉妹好きな者は、男女問わず人間界に興味を示していた。少なくとも、蔑むことは以前より減ってきたようだ。
勿論以前と同様の思考の者もいるし、特に年配の権力者は考えを変えないだろう。ドラゴン姉妹がいた人間界と近い魔界の地域は、特に存亡がかかっている。すぐにどうこう傾けない状況である。
ま、それは置いておいて。
今回の青(水属性)の魔石に白金を溶かした「プラチナウォーター」。
これは身体の老化を促進させる「活性酵素」を除去する働きで、魔界よりも美容やアンチエイジングに良い化粧水が作成できた。
金は抗炎症作用や抗酸化作用を持つ。
金は美肌作用を持ち、そのまま食してアンチエイジングの期待も出来るし、小型の金塊に灰色(氷属性)の魔石を嵌め込んで、冷却効果を追加すれば肌の引き締め効果も上がる。
これも魔界の物より軽量化が図られ、冷却期間も実験では延びていると言う。
ドラゴン姉妹の住んでいる魔界の侯爵家でも、昔から資金集めの一環として、金や銀の鉱物を溶かした化粧品や魔道具を作成していた。
魔界には特に特許などはなく、誰が作っても罰則などはない。
但し高い道具と技術を必要とする為に、既にある商品に対抗することはなかった。魔界では……………
ただ今回、同じような商品が人間界で発売された。
明らかになっていないが、王妃の弟ジェイド(孤児のジェド)から。
出元は誰も知らない今回の出来事に、魔界の侯爵家は焦り憤っている。
今の所、魔界での侯爵家からの販売供給は変わらない。だが、今後ドラゴン姉妹が絡めば需要が人間界の商品に傾く可能性があるからだ。
そして、そもそも人間界と争う必要もないのでは?と、考える人が増えてきた。
ラリサの弟ウィリアム(魔界名イリヤ)は、魔界の戦力としてブラックゴルゴノプスドラゴン(カザナミ)の竜玉を取り戻す為に、人間界に出向いた。保有者のラリサを殺して、竜玉をカザナミに戻す為に。
・だが既にカザナミは人化し、ドラゴンには戻れない。
・そして魔界には内緒だが、ウィリアム(イリヤ)もタルハーミネ(ヘルガ)もラリサを守っているから、誰にも殺させないだろう。
・魔界から仕掛けなければ、人間界から攻撃してくることはないし、人間の生態もわりと穏やかそう。
そんな人間界より、他の魔界の国を警戒する必要があるんじゃないかとの意見も出ている。極めて妥当である。
今後計画を修正し、誰と組むべきか人間界との付き合いをどうするのか?
魔界の他国との戦力バランスを把握する必要がある。
大々的に人間界のことが知れれば、驚異が薄い人間界を掌握しようとする魔界の国が他にも出てくるだろう。
そしてドラゴン姉妹不在のこの国を、支配する足掛かりとして動くかもしれない。
何とかこの国の国王ハイルリヒ、宰相アイドステル、軍務大臣アルファードが主導していければ良いのだが、残念ながら彼らはわりと脳筋だった。宰相さえも。
唯一の頭脳、外務大臣のサーシャル・ジャクリスだが、何度進言しても経済的変化を受け入れない国王達の姿勢に、王位を改革派に渡そうとしている。
現王国大ピンチである。
四面楚歌でそれを助けてくれる人がいるなら、それはウィリアムやジェドくらいのものであるが…………
それをドラゴン姉妹が、彼らに伝えられるのか?
そもそも転生のこと知らないし、気にもしていないかも?だ。
「お姉さま、そのルージュ。唇プルプルですわ」
「そうでしょ? 多色なのよねぇ。ねえ、ミナさん全色あるかしら?」
「勿論ですわ、ここに。他にも今日は新色アイシャドウもありますわ。そして、メイクアップアーティストも連れてきてますわ」
「えーと、キャラウェイと申します。よろしくお願いします」
突然寝起きで、魔界に連れてこられた彼。
濃い魔素で彼が死なないように、この建物には結界が張ってある。勿論転移魔法で直通で入ってきた。
「スゴいわ。貴方、お姉さま方専属の美容師よね。私、憧れてます」
「私も、尊敬してます」
「とても印象が変わりますよね。もういつもワクワクしてます」
「コスプレ?ですか、お姉さまが男性になる変装痺れます」
等々と、称賛がキャラウェイに舞う。
ここは西洋のお城のような石作りだった。
ドラドン姉妹の私邸らしい。
ここに集まったのは、ドラゴン姉妹ファンの平民・貴族総じて23名だ。比較的、人間に好意的な者が集まった。
私服はイギリスの王族のような、レース・ドレープ多めのドレスだった。顔立ちはメイク前から皆美人だ。
魔力の関係なのか、細胞単位で生き生きしているし、肉体も引き締まっている。
以前にジリアンの高祖母が着ていた、アーマービキニは戦闘用の動きやすさ優先の物で、普段は決して着ないらしい。
褒められ、煽てられた?キャラウェイは、テンション爆上がりだった。口調もおネエになっている。
「えーと。ありがとうね、みんな。今日は全員、なりたい顔にしてあげるわ。遠慮しないで、どんどんリクエストして!」
「「「「「やったー! ありがとう、師匠!!! イエーイ♪」」」」」
そんなこんなで、全員にメイクして、髪にブローして、着付けしてをやりきったキャラウェイ。
ゼーゼー言いながらも、満足そうに笑って全員を仕上げた後、気絶して倒れた。
「じゃあね、皆さん」と、キャラウェイを横抱きにして去っていくドラゴン姉妹。
皆も満足そうに家路に戻り出す。
その1人にイベント中、キャラウェイの気配に気づく者がいた。
ウィリアム(イリヤ)の魔界の異母妹アザレアだった。
「どういうこと? あの気配は、300年前の勇者の1人だと思うわ。………ああ、私が美しい。やっぱり気のせいかしら? いや、でも、きっと、うーん………」
変身後の自分に見とれ、鏡を見ながら纏まらぬ思考を巡らすアザレア。
周囲の女性達も、ドラゴン姉妹宅の大鏡や自分のコンパクト鏡を見て溜め息を吐く。
「「「「「美し過ぎる。もう別人ですー」」」」」
アザレアがキャラウェイの気配に気づいた様子に、ドラゴン姉妹はまずいと一瞬考えた。…………けれどすぐ忘れた。
『まあ、カザナミもいるし。大丈夫でしょ』と。
やはりドラゴンと人間の思考には、見えない溝があるのだった。
疑っていたアザレアさえも、殺気よりも羨望を抱いていた。
「このメイク、神! キャラウェイ師匠!」
もうキャラウェイの名前さえも前世と同じに呼ばれていたが、有耶無耶になっていき、正気に戻るまで思い出されもしないのだった。
そのまま思い出さないことを願うばかりだ。




