地味顔の魔女の国、ロビン王子
あれから1年が過ぎ、ラリサは15才になった。
ゼフェルは17才、その弟ロビンは16才だ。
ゼフェルの婚約者サマンサ・ビルガードだが、ツンデレ要素は健在であるも軒並み交流は順調である。 ゼフェルはわりと容姿だけでなく、全体的にがんばり屋のサマンサを好んでいるので、些細なことは気にならない派だ。 勿論美しい容姿も好みであるが、2人の時だけに見せるちょっとツンの顔や態度も可愛いと思っている。
サマンサも何事にも動じないで、ニコニコと自分を甘やかすゼフェルが好きになっていた。 ツン要素多めな彼女は同年代に苦手意識を持たれていたので、いつも微笑ましく話を聞いてくれるゼフェルはレアな人なのだ。 色恋とか人の機微に疎い所もあるゼフェルだが、今は良い関係を築けている。
「サマンサは本当に頼りになるな。よく隣国伯爵の娘の好物なんて知ってたね?」
急に誉められ戸惑うも、顔をほんのり赤らめて返す。
「それは隣国の若い子の流行りは、事前情報で聞き及んでますので、それとなく話をしていれば該当しますわ」
「でも、たくさんある流行り物から直ぐ選択できたでしょ?。俺は流行りとかに疎くて。自分の趣味のことなら詳しく言えるんだけど。他は家族構成や農工産業のことで一杯だよ。本当にすごいよ」
お世辞が言えない心からの言葉は、彼女を素直にさせる。
「現地に赴くと興味が持てますわ。私もあちこちとお父様について回りました。実際に知っている土地だと、学びも深まります」
「そうか。じゃあ、新婚旅行は君も知らない土地にしようか? 共に新しい街を楽しめるように。それとも教授して貰えるように、一度行った場所が良いのかな?」
ニコニコと話すゼフェルと、さらに顔を真っ赤にするサマンサ。
「ま、まだ新婚旅行の話なんて、早すぎます!」
ちょっとツンな顔も良いとにやけるゼフェルに、周囲は和やかムードである。
『あのゼフェル様が…………本当に好きなんだなぁ。政略でなくて良かったなぁ』との意見多数。
魔石事業やそれに伴う国の再編で忙しくとも、有能な2人は回りと協力しバタバタと問題を会議で列挙し、解決していくことも多い。
物怖じしない態度も、時期王太子に相応しいと言う者も多くなり、順当に立場を固めていた。
それに不満な者も、勿論居ないわけではないが。
『何で兄上ばかり評価されるんだ。昔は俺の方が王太子に相応しいと言っていた者も、父上や王妃も兄上を支持していく。僕の方が優秀なのに………なんで認めないんだ!』
今は産業の過渡期だが、実際に魔獣と戦ったり貧民への事業に関わっていないロビンには、国民の熱気は伝わっていなかった。 いつも通りの通常の仕事量をこなすだけ。 選民意識が邪魔をして、状況を隔てた形になったのだ。 たかが平民のことなんて、王族が出るまでもないと。
通常ならそれでも支障はなかった。
しかし今、手を退いていたことが裏目に出た。
国を任せるべき者は、豊かにしてくれるのは誰かと言う国民の声は、王族や貴族に影響を与えるものになっていたからだ。
それだけ国が富みだしたのだ。
例えば魔獣達も狩ってばかりでは後がない。 最近は魔界からの流出も減って来ている。 いつか来なくなる時期も訪れるだろう。
それを見越しヴェノムタイガーのように、毒浄化や縮小化して畜産を目指す方法も試している。 魔獣の肉は魔力を得られて素晴らしいが、将来的に魔獣を狩らなくても美味しい肉を残す見通しも必要だから。
だが、ロビンは王族が動くものでないと考える。
「もう国は豊かで、下々のこと等大臣に任せれば良いだろうに。王自ら馬車馬の如く働くのは美しくないでしょう。他の国から貪欲すぎるとバカにされますよ。母上だって同じ意見ですよ、父上 !」
貴族然としてロビンは意見するが、国王は止まれない。ニールとしてだけロビンと接していた時なら聞き入れた意見だが、前世記憶のあるブロディ色の強いニールでは、泥臭いなんて誉め言葉でしかない。 今ある機会を最大限に生かすように邁進している為、逆に『こいつも手伝ってくれないかなあ』くらいしか思わない。 でも手伝えとか言ったら、第二王妃が怒って怒鳴り込んでくるのは目に見えた。 ジリアンも労働は下々の仕事と思っているからだ。
だから円滑に場を収める為「まあ、ちょっと落ち着いてからな」と、言葉を濁す。
『ジリアンも、昔はほわんとして可愛かったんだけどなぁ。だけど、年を経っても全然大人にならないで、我が儘ばかり言うし困るよなぁ。まあ、あれが普通の貴族夫人なのかもな。アナスタシアが特別出来る女だから、比べられないか』
なんて失礼&惚気を考えていると、欲しい言葉を得られないロビンは去って行く。
父が普段から権威を考えて動いていないと不満もあった。けれど、結局は自分の意見を受け入れない姿勢も解った。国王とは意見が違うだけではなく、自分を疎かにしていると気づいてしまったのだ。
そしてモヤモヤは募っていく。
「僕の立場が弱いから、きちんと話しを聞いてくれないんだ。 それならば解らせてやれば良い。力のある婚約者を得て発言権を得ればきっと…………幸い僕は美しさも王子としての地位もあるのだから」
お母様に頼んでみよう。 きっとお祖父様経由で良いお話も得られるはず。
「解ったわ、ロビン。私も最近の貴方のお父様の変貌には怒りが湧いていたのよ。貴方に似合う子を探してみるわ。それに貴方のお祖父様のコネも、もう少し活用してみようかしら?」
ジリアンは微笑んで、ロビンを抱きしめた。
自分と同じ桃色の髪、透き通るような水色の瞳の息子を。
「そうだわ。貴方貴族の息女には手は出してないわね。そういうのは、後で面倒臭いから止めてね」
「はい。それは解っています。ですが…………」
「何か問題でも?」
「それが………著しく貧しい者が居ないせいか、娼館に美しい娘が居ないのです。もう若い娘すら居なくて………なので少し地位の低い娘に手を出すかもしれません」
少し戸惑いながらも、嘘はつかず答える。
さっきまでは弾ける笑顔だったジリアンが、急にその声に翳りを落とす。
「娼館? ロビンが…… 娼館に」
初めて息子から聞く言葉に、目に見えて青ざめた。
「お母様、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。ごめんなさいね」
『そうよ、ロビンだってお年頃ですもの。当たり前のことなのよ。ニールだって通っていたわ………でも、天使のこの子が………』
明らかに大丈夫ではない様子だが、ジリアンは人差し指をロビンの唇に当てた。
「大丈夫よ。また後で話ましょう」
「解りました」
歩き出したジリアンだが、ふと以前ロビンがエリザベートが気になると言っていたことを思い出し振り返る。
戻ってきた返答は、「軍に入る狂暴な女なんて願い下げですよ。僕はお母様のような、か弱くて可愛らしい方が好きです」だ。
満面の笑顔がそこに見えた。
「解ったわ。また明日ね」
「はい。お母様」
そこを去るジリアンは、息子の見る目の無さに眩暈がした。
「女がそのように演じるのは男の気を引く為、演じているだけなのよ。本当にそんな女がいたら、どれだけ抜けているアホ女か。それに娼館なんて行けば褒めちぎられるだけなのに、その年で解らないのかしら………… 頭は良い筈なのにどうしてこういうことに疎いのよ。教育は受けている筈なのに。それにあの様子なら政略の婚約者も大事にできなそう。まずいわ……」
次々と問題が噴出する中、頭を抱えるジリアン。
こんな筈じゃなかった。
ニールと幸せに暮らす筈だったのに、いつからかそれも可笑しくなった。
「このままじゃダメ。何とかしないと」
離れていく夫と権力と女性に執着を見せる息子に、焦りを見せるジリアンだった。




