地味顔の魔女は、お肉が食べたい
10/17 誤字報告ありがとうございました。
とっても助かります(*^^*)
前世を含めると40年ぶりの王城だ。
城内に入ると、中央に3mの大きな噴水が目を引く。
その噴水を丸く囲んで小さい白薔薇、円形の通路を挟み黄薔薇、その周りが広い(横に5人並べる)通路となり王城へと続く。
通路脇には大輪の赤い薔薇が、城の隅まで咲き誇る。
薔薇の前後には季節の花も植わっており、薔薇の花の時期を終えても庭が楽しめる仕様になっている。
特にかすみ草は白・ピンクの種類があり、庭を覆うように咲く様は、薔薇とのコントラストでやさしい色味のブーケのようだ。
「懐かしいな」
僅かに微笑み、口元を綻ばす。
かすみ草の咲く時期、ラリサはいつも思い出される出来事があった。
それは300年前、剣士と僧侶と共に過ごした日々。
エリザベート(ラリサ)の手を繋ぐメアリーは、その様子に少し安心する。
心底嫌がっていたお茶会だった。
私とブルーノは体調不良を理由に欠席一択だったのに、義父母が乗り気で口を出しここまで来てしまったのだ。
「王家の招待を断るなんて、何を考えているのかしら? これだから田舎の貴族は教育がなってないのよ。 ねえ、ヴァルモン」
正論を言ってやったと、したり顔のタルハーミネ。
「メアリーに失礼なことを言うんじゃない」
ヴァルモンはタルハーミネを窘める。
そしてブルーノとメアリーに参加を促す。
「エリザベートを外に出したくない気持ちは解るよ。 だが、いつまでも社交は避けては通れないことだ。 王家の心証を悪くすれば、エリザベート自身にも不利益が生じるだろう。 今回は行って欲しい」
そう言われれば、断れる訳がない。
ラリサも参加に同意する。
「ヴァルモンの言うことは正しいよ。 あいつら(王家)は難癖つけんの得意だからな。 チャチャと行って帰ってくれば良い」
そんなことがあった参加なのだ。
メアリーは両拳を握りしめて、エリザベート(ラリサ)を守り抜くことを心に誓う。
その横でエリザベート(ラリサ)は、たらりと涎が溢れていた。
『ブラックゴルゴノプスドラゴンの肉・・・・もう一度食べたいね。 あれから大きめの魔物が地下に逃げて、狩れなかったんだよ。 その場で調理して食べたのを、(他の魔物に)見られたのがまずかったね。 マジックバックに入れて後からゆっくり調理すれば、でかいのあと2,3匹捕まえられたのに失敗した~ でも皆腹ペコで死にそうだったし、仕方ないか』
そうブラックゴルゴノプスドラゴンを倒したのは、かすみ草の群生する山の中。
かすみ草の匂いが、あの時の肉の味を思い起こすのだった。
次回の王宮舞踏会は、現王太子から王への即位式が行われる。
同時に第一王子の立太子就任式も行われる予定である。
その際に婚約者披露の計画も進められ、今回の場が設けられたのだ。
王太子の婚約者に力ある家門が付けば、王家は勢力を増し諸外国からも磐石と認められるであろう。
王家の婚姻は国の安定にも関わる案件なのだ。
だから王達は思う。
なるべく勢いと金のある公爵家の娘であることを。
でなければ、まあこっちで選ぶので同じなのだけど。
「相思相愛は理想だよね。 できれば希望を叶えてやりたいものだ。 王太子や王になることは権力が伴う分、自由になることが少ないからね」
王妃や宰相、気を置けない側近達に言葉を漏らす。
王アルバートは、王妃イライザと幼馴染みの初恋同士で、共に協力し国を守ってきた戦友とも言える仲だ。
だがもう互いに齢50を越え、後継に後を託す時期にきていた。
現王太子ニールに王位を譲り引退する時期も近い。
しかしニールは、頭の回転は良く剣技の腕もそこそこだが女に滅法弱い。
ハニートラップに、何十回かかってるか数えるのも嫌になる。
外に子供が出来ていないことが救いだ。
もしかしたら既にいて、消されるのを恐れて潜伏しているか、旗印に反乱を狙う可能性だってある。
もうニール吹っ飛ばして、孫のゼフェル(第一王子)に王位を譲りたいくらいなのだ。
王太子妃アナスタシアは知性高く、王太子妃だけでなく王太子の仕事も手助けし、美しく優しい家族思いの女傑だ。
さすが騎士団長を勤める、バスティーユ辺境伯の次女殿と謳われたものである。
ただ剣技や体技での1対1での戦いなら分はあるが、複数戦ましてや毒殺等では太刀打ちできないだろう。
派閥・権力闘争で現王太子妃を亡き者にし、娘や親戚を王太子妃に据えたい者や、王太子妃が亡くなれば自分がその地位に就けると思っている浅慮なニールの浮気相手達。
そんな混乱の中実権を掌握しようと、暗躍する者もでてくるだろう。
王太子ニールは存在だけで、幾つものトラブルを抱える厄介な面を持つ。
だが素直で、誰にでも優しい憎めない人柄でもある(残念だが王には向かない性格なのだ)。
だから王太子妃は我慢出来ているのだ。
ただ、これから王となり矢面で全てを抱える時、心もとないことこの上なしだ。
私も手助けするが、全てを行うことはでない。
傀儡王と新王が思われれば、諸外国に嘗められ国力は低下するだろう。
そこで期待される第一王子の婚約者なのだ。
婚約者候補達も、まさかここまで期待を受けていることは、僅かしか気づいていないだろう。
その僅かな者(令嬢の親達や親族)は、これをチャンスと娘の売り込みに力を入れて来るはずだ。
思惑をまったく介さず『せっかく来たのに、お茶会には肉が出ないのね。残念』と思っているラリサと、絶対エリザベート(ラリサ)は渡しませんと、敵から子を守る母狼のようなメアリーは今茶席に着いたのだ。