地味顔の魔女は、怒られている?
「報告する。 ラリサより宴用食材3体が、9時の方向に現れたとのこと。 全員配置につけ!」
「「「「「「「ヤーーーー!!!!!」」」」」」」
アナスタシアが部隊に伝令を告げ、部隊員は即返答をする。
危険な魔獣討伐なのに、ここに怯える者は1人もいない。
これが人との争いならば気も滅入るが、狩るのはご馳走である。
ちょっとやそっとの怪我なんて、物の数には入らない。
ジャイアントキングスネークは、腹を裂き、内蔵と骨を取り除き、塩コショウで下味をつけ、卵と小麦粉をまぶし、油で焼く。
所謂ムニエル風だ。
蛇は小骨が多くて食べる所がないと言うが、でっかい蛇なら話が違う。
人が中に入り一つづつ抜いていけるので、大人数で行えばあっと言う間に処理できる。
肝は干して滋養の薬に。
毒腺(毒袋)は、毒単体で使用でき、又はそれを使い解毒薬も作れる。
骨は白色で堅く、そのまま削り食器や容器に加工出来る。 砕いてボーンチャイナ(骨と粘土を混ぜた陶器)にすれば、更に丈夫で使い勝手の良い乳白色の一品に。
キングヴェノムスパイダーは、素揚げ一択。
味を付けなくとも、スナック菓子のようなスパイシーさがクセになる逸品。
ブラックゴルゴノプスドラゴンは、(王家とファンブル公爵家の一部プラスキャラウェイには)言わずと知れた万能ウマウマ素材。
煮て良し!
焼いて良し!
揚げて良し!
茹でて良し!
味を知らない人々には、幻の食材。
知っている人々には、忘れられない絶品。
そして殺害すると呪いが発動するので、尻尾を切り再生、尻尾を切り再生を何度か繰り返す作戦を、検討の矢先での出現であった。
゛こんな時に、ブラックゴルゴノプスドラゴンが来るなんて!〝
それも魔力が完全に戻っていない竜玉を取られた奴だし、弱ってるねぇ。
じゅるりっ~と涎音。
もう召し上がってと言ってるようなものだ。
逆にこの戦力では、殺してしまう可能性がある。
ここは人選をしっかりしないと、来世がめっちゃややこしいことになる。
と言うことで、
ラリサ
ブロディ(ニール)
キャラウェイ(パーティー)
アナスタシア
の4名で、ドラゴンは討伐することになった。
事前にドラゴンの呪いのことを周知させ、うっかりを防いだ。
今世の自分は良くても、来世にとんでもなくなるのはうんざりだろう。
ブロディ(ニール)然り、キャラウェイ(パーティー)然り。
二人は恐らく、今回で呪いは解けただろう。
今の2人は前世を思い出してから、ちょっと前世寄りで活動している。
ブロディは、今世の駄目さを反省し更生?してるし。
キャラウェイは、前世で会った意地悪お姉を思い出し、メイクアップの仕事以外ではお姉姿を出していない。
所謂、職業お姉である。
本当はもうお姉は嫌なのだが、やはり警戒心を解くには必要な技?な為、使い分けているらしい。
なので、隊では化粧なしイケメンだから、女子隊員には大人気である。
但しラリサは今回で2回の生まれ変わりだが、竜玉の影響なのか顔が変わらない。
下手をすると来世もこれである。
本来、混じりっけのない美男美女の子供は、美しい筈である。
なのに遺伝子に逆らうこの地味顔。
今回は偶然皆に愛されているが、記憶も戻らず周りも相当人の良い聖人でなければ、不義の子やらと言われたり他の兄弟姉妹と比べられて蔑ろにされる未来が見える。
遺伝に逆らうくらいだから、きっと誰にも似ていないだろうし。
なんとか解決したい問題であるのに、二重がけで呪われたらもう何とも身動き出来なさそうである。
それでもきっと、ブラックゴルゴノプスドラゴンは竜玉の力を身に宿す、ラリサを目指してくるだろう。
自らを囮にし、作戦を展開していく。
囮・・・ラリサ
頭部への一撃(からの気絶を狙う)と、足止め・・・アナスタシア
尻尾の切断・・・ブロディ
毒浄化・・・キャラウェイ
収納・・・ラリサ
尾の再生・・・キャラウェイ
動けば固定し、死なない程度にお肉をいただく作戦。
弱れば治癒魔法をガンガン掛ける予定。
きっと近くに魔族がいて、ドラゴンだけは回収していくだろう。
もし残していけば、飼育計画に変更するかもしれない(呪いについても調べたいし)。
でも、暴れられるとやっかいだしなんて考えていると、お出ましになった。
タルハーミネとジョージは、因縁のジャイアントキングスネークを襲撃。
※ジョージは祖母のタルハーミネの姿が、魔法で変化していることを知っています。
幼い時庭で見たスネークは4m程度だったが、今ここにいるのは10mを余裕で越える超大物だ。 幅なんて2mもある。
一口で大人10人は咥えられるだろう。
シャーシャーッと猫の威嚇音の様な音を出しながら、木々をバキバキとなぎ倒しうねうねと近づいてくる。
総員空中へ飛び、「イッケー!!」と言うジョージの号令で、持っている剣をスネークに突き立てる。
20名の隊員は均等に間隔を開け、動きを封じた。
ジョージの得意属性雷を、微量づつ流し流量を増やしていく。
一息に強く電流を強くすると、身が堅くなることを他の魔獣で学んだからだ。
気を抜くと丸飲みされる恐怖。
それを乗り越え、美味しさに極振りである。
美食に対する思いが重い。
危険なことは百も承知、だけどこんな大物滅多に来ない、出来る限り食用部分を残し、皆と味わいたいのだ。
スネークを固定しても、体にある毒分泌腺からの毒の放出、口からも唾液腺からの粘性毒を撒き散らす。
体の動く部分を多いきり揺らす。
「うわっ」「っう痛っ」「皮膚溶けくる」「毒消しちょうだいー」等の怪我の洗礼は、皆満遍なく受けていた。
怯まず攻撃を加え、次第に動かなくなっていくスネーク。
そして討伐は完了した。
キングヴェノムスパイダーは、見えない蜘蛛の巣をあちこちに貼り、先発隊員の動きを奪った。
「うわっ、動けない。 来るなー、わあああー」
素早い動きで巣にかかった者達を、毒の牙で襲う。
間一髪で直ぐ後ろにいた者が、火魔法で絡み付く蜘蛛の糸を燃やし、もう1人が前面に出て障壁を展開した。
「大丈夫ですか?」
「ああ、助かったよ。 死ぬかと思った」
やや憔悴したベテラン部隊員だが、闘志は消えていない。
油断していなかったことも、一目瞭然だ。
動きは封じられてしまったが、腕が触れた瞬間即止まっていたのだ。
ただ、糸が強力過ぎて逃げられなかったのだ。
「見えない罠は、やっかいですね」
「ああ、全く動けなかった。 服を切って離脱しようとしたが、少しの動きで、横の糸が弛まさり飲み込まれそうで留まっていたんだ。 1人じゃやばかった。 いいや、今だって少し遅れたら毒仕込まれてた。 たぶん即死した。 ありがとう」
スパイダーから距離を取り、礼を述べる隊員。
言葉を受ける女性隊員は、貴方が心配だから目で追っていた。
だからピンチに駆けつけられたと言う。
「恩義を感じるなら、つけこみます」
「おう、何でも言ってくれ」
ベテラン隊員は鷹揚に頷くと、女性隊員は直視していた顔を背け、
「じゃあ、嫁に貰ってください」と言う。
「ええっ!」
「いや、駄目ならいいんです。 すいません」
ペコペコ頭を下げる。
「違う、違うって! こんなおじさんで良いのか? 年10才くらい離れてるぞ」
「おじさんじゃないです。 素敵です」
メチャ照れなベテラン隊員は、「な、なら良いんだな」と動揺しながらもプロポーズを受けた。
わりと保守的で、やや男尊女卑感のあるこの国も少しづつ変わっているようだ。
やはり女性が仕事をすることで、自信に繋がっているのだろう。
下階層の教育が向上したことで、貧富の差が狭くなってきている。
男女が支え合う世の中で、男尊女卑はまかり通らなくなるだろう。
なんて、敵前で言ってる場合ではない。
既に他の隊員がスパイダー周囲の巣を火で焼き、攻撃の機会を計っていた。
スパイダーの外殻は、普通の蜘蛛と違い鋼鉄のように硬い。
何度か剣で打ち叩くも、ダメージは与えられない。
頭胸部も腹部にも傷1つ付けられず、特に足には最先端にはかぎ状の爪があり、かするだけでも服が切れていた。
腹部の糸いぼからは、透明の糸が時折排出される為近寄れず、緊張が走る。
「こうなればもう、糸いぼから毒を仕込むしかないですね」
ラリサやタルハーミネ等、高出力な魔法を使える者がここにはいない。
いても浄化前に高出力で焼いてしまえば、食べられなくなる。
雷撃でも焦がしてダメにしてしまう可能性もある。
「危険は伴うが、糸いぼを狙おう。 でも危険と感じたら直ぐ撤退しろ、良いな」
「「「「「「「はい!!!」」」」」」」
「試行錯誤して、いろいろ試しながら戦わねばならない。 効果がないこともあるから深追いするな、良いな 」
「「「「「「「了解!!!」」」」」」」
毒魔法を使える者が、蜘蛛の後方の糸を出す穴目掛け魔法を放つ役につく。
スパイダーに悟られぬよう気配を消す。
他の隊員が頭胸部や足に狙いを定め、相手の攻撃を避けつつ剣や魔法を放つ。
幾度の攻撃で足に損傷が出始めていたが、何度かかぎ爪で抉られて離脱する者も現れた。
治療をすると傷は塞がるも、一度毒を受けると暫く脱力感が抜けないようだ。
だが機動力の足が減ったせいで、動きは鈍くなっていた。
一度糸を出した瞬間を狙い、蜘蛛毒とは違うフグ毒のテトロドトキシンを注入した。
その瞬間、痺れのせいなのか動きが止まる。
十数分静観後、生体反応の消失が確認された。
「やりましたね」
「うん。 やったね!」
「討伐完了だ」
「ヤッホー、すごいね」
「指揮官クラスがいない中、すごいよね」
「うん。 私達エライ」
「ヤッターね!」
スパイダー部隊が喜びを噛み締めていた頃、ブラックゴルゴノプスドラゴンが、ラリサの前に現れた。
「久し振りだね。 300年ぶり位かしら?」
おどけて話すラリサに、ドラゴンは苛立ちを隠さない。
「グワウォオー、 シギャーウァー!!!! (お前のせいで、姉さん達にバカにされた! 許さん許さん、八つ裂きだ!!!!)」
何を言ってるかさっぱりだが、怒っているようである。




