地味顔の魔女は、お茶会に行きたくない
R7、3/9 15時 誤字報告ありがとうございました。
大変助かります(*^^*)
エリザベート(ラリサ)は6才になった。
ブルーノ・メアリー夫妻とウィリアムは、謝罪の件から蟠りがなくなり、理想的とも言える関係に落ち着いた。
まあ、とっても仲良しになったということだ。
愛溢れる家族に次々と子宝が授かる。
どの子に対しても隔てない愛情を注ぐ夫妻に、エリザベート(ラリサ)は満足し、気を抜き過ぎていた。
前世の失敗を繰り返しそうな状況が勃発したのだ。
貴族の義務とも言える『結婚問題』。
残念なことに、前世で記憶が戻ったのは8才頃のこと。
ラリサの親は恋愛結婚だった為、娘にも婚約者は作らず呑気に過ごしていたが、当時の公爵令息の婚約者が流行り病で他界。
当時、公爵令息とラリサは互いに6才。
家格の釣り合う年齢の令嬢は既に婚約者がおり、急遽伯爵家のラリサが婚約を結ぶことになった。
ラリサもラリサで記憶が戻った後も、学校に行くようになれば自分のような地味顔よりも可愛い娘に目が行き、婚約解消されるだろうと楽観視。
子爵家くらいの娘ならば、家格1つ違いだし公爵もそれほど反対しないだろうと踏んでいた。
しかし、サバサバして裏表のないラリサ(元より嫁ぐ気もないので適当だった)は、公爵夫妻に気に入られてしまい嫁ぐことになってしまった。
これほど多くの人間が絡めば、記憶を消す位では修正不可だ。
そして現在に至るのだが、ここで結婚していなければブルーノにも会えていないのだから皮肉なものである。
しかし、ブルーノもメアリーも、ラリサに政略結婚をさせる気はさらさらない。
逆にラリサがいつでも旅立るように、心を決めている。
ラリサは可愛い娘であるエリザベートであり、育ての親でもあるのだ。
縁を切ったり記憶を消されて別れるより、いつでも帰って来られる環境を作るつもりだった。
この国で学者となりフィールドワークで世界中を巡るという形や、公爵家の貿易業を後押しする品を見つけたり、販路を拡大する為に各地を巡るという建前はいくらでも作れるのだ。
国を出るまでは公爵家の影に、協力(皆が見えるような護衛を)してもらい他の国へ行ってから別行動すれば、公爵令嬢が1人旅をしているとばれないだろう。
勿論影が秘密を漏らすこともない。
そんな感じで緩く計画を立てていたラリサとブルーノ達だったが、横槍の入る出来事が持ち上がる。
この国の王子の婚約者を決めるお茶会が、開催されることになったのだ。
ただ都合の良いことに、8才の王子と釣り合う年齢や家格の女子はたくさんいる。
乗り気でなく地味顔のエリザベート(ラリサ)には、お鉢は回ってこないだろう。
しかし、異常な熱量で迫る者が1人いた。
ブルーノの義母タルハーミネだ。
現王の従妹であり、前公爵夫人である。
そもそもタルハーミネが、ブルーノを継子いじめしてできたラリサとの深い縁。
ある意味ブルーノとメアリーを結びつけたキューピッド(天使)だ。
ああ、天使様。 あんな女の比喩にしたことを深く謝罪します。
アーメン(笑)。
血筋第一主義のタルハーミネは、男爵家のメアリーの血が公爵家に入ることを非常に嫌がり当初結婚に猛反対したらしい。
そもそも、自分が公爵家に入るのも不満だったくらいだ。
選ばれなかった癖にね。 まったくもう。
そして結婚に尽力したとして、優位に立ちたいという思惑もあった。
『王の従妹である私の力あってこそよ』と言いたいのだ。
全く浅ましい理由である。
だけどこの結婚には、ブルーノの父ヴァルモンも賛成だった。
タルハーミネに唆された訳ではないが、孫に女子が多い状況で王家との縁が紡がれることは、今後下の子の婚姻にも優位になると考えたからだ。
父の希望にブルーノも真っ向から反対は出来ず、当日は気合いを入れて参加することになった。
エリザベートの薄い顔に、国でも指折りのメイクアーティストを呼び寄せ化粧を施す。
大柄な女性?声は男性だわ。
おネエ?の『パーティーさん』は言う。
「すごいわ貴女。 この私の創作意欲に火をつけるなんて。 そのキャンパス(顔面)には、深海の如く深い可能性が眠っているわ。 行くわよー」
そう叫ぶと、アシスタントと共に縦横無尽に動き出す。
右手に化粧筆を持ち、左手に数十種類のファンデーションパレット。
アシスタントには色混ぜ用のまっさらなパレットを持たせ、ファンデーションを塗り重ねる。
途中で別色のファンデーションボードに持ち変え、作業は続く。
アシスタントは邪魔にならぬよう、パーティーさんに動きを合わせる。
そのさまは化粧と言うよりも、格闘する画家の如く。
何層も肌色を重ね角度を計算し、目鼻立ちを膨らませることに成功。
ついで控えめながらも見映えのするメイクにすることで、絶世の美少女が完成したのである。
作品完成にタルハーミネ・ヴァルモンは満足し、執事・乳母・侍女頭らを筆頭とした使用人達も驚愕し頭を垂れた。
「「「美しいです。 美の女神も裸足で逃げ出します!!!」」」
美の女神に失礼である。
そしてエリザベート(ラリサ)にも、もっと失礼である。
メイクアーティスト『パーティー』は語る。
このメイクは、余計な素材がない故になりたった奇跡であると。
中途半端に高い鼻や大きな目は、陰影を描き出すのに邪魔でしかないと。
今までの人生で最高傑作であると涙し、深い息を漏らした。
そして「依頼があればすぐ駆けつけるわ。 新しい作品を共に作りましょう~!」と、スッキリした顔で意気揚々と帰っていく。
もう二度と会わないことを願い、見送るラリサ。
「なんか、いろいろ吸いとられた気がする。 魂?とか」
ぐったり脱力な6才児。
反面ブルーノ・メアリー・ウィリアム・他の弟妹達には、美少女メイク大不評である。
皆面倒見の良いエリザベートが大好きで、地味顔上等なのである。
幼き妹2才のイゾルデと1才のシーラは、姉を探し泣き出す始末。
そんなこんなでお茶会へ向かい出発する。
2時間のメイクで、エリザベートの体力は激しく消耗されていた。
「取りあえず、挨拶してお菓子食べて帰ってくるか」
まったくドキドキ感と無縁なラリサであった。
その頃、城で待つ王子も疲れきっていた。
家格と娘の姿絵を、数日前から教え込まれていた。
取りあえずは、自分の気に入った娘を選ぶように言われている
(最終決定は王と王妃、宰相達である。 自分はあくまでも選ぶだけ)。
勉強も剣術にも真剣に取り組み、時期王として期待される第一王子である。
しかし国を治めることよりも、世界を見て回りたい誰にも言えない夢があった。
幼い時に読んだ冒険譚。
300年前にこの国に立ち寄り、ブラックゴルゴノプスドラゴンを討伐し、民を救った勇者と魔女と僧侶の物語。
英雄達のように魔物を討伐したい欲望。
「だいたい弟達の方が腹黒くて、よっぽど王に向いてるよ。 本当俺には荷が重いって」
まだまだ幼い王子には、婚約者選びは面倒事に他ならないのだった。