王太子妃候補は、バタバタする
「ゼフェル様、避けて!!!」
ゼフェルの死角を狙い、大型のオウギワシが急降下してくる。
サマンサは咄嗟に席を立ち、両手を広げてゼフェルを庇った。
「危ないサマンサ!!!」
ゼフェルはオウギワシに気づき、サマンサを抱き締め敵に背を向け身を竦め守る。
「駄目、貴方が死んじゃうわ! そんなのイヤー!!!」
ゼフェルの胸を叩き逃げるように叫ぶも、サマンサをさらに強く抱き締めるだけだ。
「カキーン!」
弾く音が聞かれ、オウギワシが吹っ飛ばされた。
「えっ」と驚くサマンサだが、それを解っていたゼフェルは、そんな状態の彼女を見詰めて頷く。
「やはり貴女だけしかいない。 俺と結婚してくれ」
澄んだ碧眼が、アイスブルーを捉えて逸らさない。
先程の死の恐怖と、今まで適切な距離でしか過ごしていないのに、抱き締められたままの近距離に混乱していた。
サマンサは言葉がなかなか紡げず、ひと時沈黙が支配する。
流石のゼフェルも、断られると思い沈んだ声で尋ねてきた。
「やはり俺のような武骨者では、貴女に釣り合わないだろうか?」
ぽそりと言われ、サマンサは我に返った。
「違います。 そんなことないですわ。 武骨なんかじゃないですよ。 少なくとも私は好きですよ」
慌てて早口で捲し立てるも、頬が真っ赤になるゼフェルを見て失言に気づく。
『あ~っ、この状態で好きとか、告白ではないですか。
ゼフェル様にも、好きとかは言われてないのに。 恥ずか死ぬ』
腕ごと抱き締められているので、顔を耳まで真っ赤にしたまま目を瞑り誤魔化すも、ゼフェルは逃がしてくれない。
耳元に顔を近づけて囁く。
「告白の後に目を瞑るなんて、キスを強請ってるみたいですよ。 良いんですか?」
サマンサは活きの良い魚のように、バタバタと体を動かし腕から逃れた。
余裕な発言にムカつき、睨んでゼフェルを見ると顔を真っ赤にして俯いている。
「あ、れ?」
あんな台詞を言った本人が照れているとか。
ん?
ゼフェルは片手で両目を覆い、手の隙間からサマンサを見遣る。
「えーと、怒った、かな?」
予想外の照れ顔に怒りも消沈していく。
「怒ってませんわ。 でも何故そんなに真っ赤になってるのですか? 先程の台詞を言う人が、照れるのは変な感じなのですが・・・・・」
やや落ち着いたので、いつも通り率直に聞いてみるサマンサ。
言われたゼフェルは堪らない。
もう誤魔化せないとばかりに、サマンサの方を見詰めた。
「変だよね。 かー、やっぱり聞いただけの知識じゃ隠しきれないよね。 ごめんね、これ父上の受け売りなんだ。 でも、貴女が好きなのは本当だよ。 死ぬかもしれないのに、俺を庇ってくれる勇気にもう感動で。 直ぐ結婚したい!」
一気に言い募ったゼフェル。
必死な様子に、もう良いかと心がほんわかする。
「もう、解りましたわ。 婚約お受けします。 これからよろしくお願いいたしますね、ゼフェル様」
「良いの、良いの! やったー、ありがとう。 絶対幸せにするからね!」
鼻下を指で擦っての満面の笑顔に、サマンサもつられて微笑んだ。
『あの時の独り言で、ずっと気になっていたエリザベート様のことを知れたのが決めてでしたが。 杞憂でしたわ。 でも・・・・・』
「あの~、ゼフェル様。 ゼフェル様は国王様のことを尊敬なさっているのですよね」
「うん、すごい人だよ。 全盛期は過ぎたけど、剣技の腕はそれほど衰えていないよ。 俺、ずっと教えを受けて来たんだ」
嬉しそうな顔で語るゼフェル。
サマンサも微笑んで聞くも、1点だけ譲れない所もある。
「そうなんですのね。 その、ゼフェルは国王様の女性のお付き合いも見習いたいのですか? たくさんの女性を側室にしたい、とか?」
聞きにくいが、聞かないといけない。
この返答で今後の関わり方も変わるのだ。
王太子妃、その後王妃になるとしても、嫉妬せぬように一線を引かねばならぬ。
出来れば自分だけを愛して欲しいが。
「側室なんて持つ筈ないよ! 生涯貴女だけを愛すると誓う。 父上に学んでたのは、女性に対しての会話術というか、そんなのなんだ。 俺の周りには、男か戦士しかいないから。 勿論女性と付き合ったことなんかないし、若い頃の父上のようにふらふらしたこともないよ、信じてくれ!」
先程より必死なゼフェルに、サマンサは声を出して笑ってしまった。
「ふふっ、解りましたわ。 今後はどうか解りませんが、今は信じてます」
「いやいや、今後とかもないから」
そう言って、その後も席に着き、穏やかに会話が続けられた。
先程、側近達の障壁で飛ばされたオウギワシは、ひっそりと引き摺られその場を後にした。
「サマンサ様も、意外と肝が座っておる。 案外似合いかもしれん」
うんうんと、頷く側近達。
念の為、護衛人数を増やしこの場を見守ることにした。
『この雰囲気は壊せん。 我々は空気と化す。 頑張れ王子!』
一切の感情を消し、側近と護衛達は2人の壁となるのだ。
オウギワシに意識を移し、ゼフェルを襲った魔族イートンは呻いていた。
「ぐわー、く、苦しい。 殺れると思ったのに、気取られていたなんて。 人間のクセに!人間のクセに!人間のクセに!」
バリアーで弾かれた後、もう一度攻撃する機会を狙っていたが駄目だった。
体が痺れ動けなかったのだ。
もう元の体に戻ろうとしたが、それすらも上手くいかない。
障壁が強固で、精神体も通り抜け出来ない程だった。
オウギワシは今では食用鳥。
解体され民間に卸される。
両羽が縛られて、毒を浄化する為に倉庫に移動された。
鮮度を保つ為、屠殺されるのは出荷直前だ。
毒を浄化しなければ食せない獣達は、専用倉庫に入れられる。
浄化前の肉を盗む者はおらず、警備は人員だけでバリアーは張られていない。
オウギワシに憑依していた魔族イートンは、そこに移動されてから何とか脱出したのだ。
だがその場で討伐されていたら、いくら憑依していた精神体だとしても、衝撃で瀕死は免れなかったであろう。
「くそっ、以前の障壁はあんなに強くなかったのに!」
この国のバリアー、延いては魔力の上昇は(間接的には)魔界のせいなのだが、その為に苦戦を強いられる魔族達。
そして民間には卸されない超高級食材否、大型危険魔獣ジャイアントキングスネーク、キングヴェノムスパイダー、ブラックゴルゴノプスドラゴン達が、大森林を目指して移動を始めていた。




