地味顔の魔女は、初恋を応援し隊
ゼフェルは思った。
婚約者を決めるって何?
………………うん、理屈では解ってるよ
将来結婚し、この国を一緒に背負う存在で
あの3人の中から、将来の王妃を決めることだ
俺が?
う~ん
どうしたら良いか解らないな
『ラリサ(エリザベート)』は、一緒に闘っていて頼りになるしそこそこ賢いし、美味しい物を作ってくれる。
本人は顔がどうこう言ってるけど、さっぱりしてて俺は別に気にならない。
勇者一行だというのもすごく憧れる。
戦闘面で言えば、『ロールケイト・レンブルズ伯爵令嬢』も中々だ。 俺が魔物を討伐する時、直ぐ傍で剣に攻撃力増強や身体に強化の付加魔法を掛ける。
危ない時は、障壁を張って補助だ。
正直感謝しかない。
その上ロールケイト嬢だけでも、小物の魔獣なら簡単に捌ける実力者だ。
知力にも長けており、伯爵家の後継者教育も受けていると聞く。
『サマンサ・ビルガード侯爵令嬢』
ちょっとつり目のクールビューティー。
会話時も表情を崩すことなく、アイスブルーの切れ長の目で、俺を真っ直ぐに見据えてくる。 サラサラの銀髪、自分のような筋肉のないスレンダーな肢体。 普段は熱のない雰囲気なのに、戦闘訓練の際の真剣な眼差しや蒸気した頬、時折見せる年相応の愛くるしい笑顔。
どんな話題にでも精通し、俺の苦手な宰相にも鋭い突っ込みを入れるクソ度胸(素敵だ)。
ここまでの心の声で、ゼフェルがサマンサを好いていることは明確である。
その視線に、流石のサマンサも気づいている。
と言うか、ゼフェル以外は全員気づいてニヤニヤを隠している所だ。
時々、笑いで吹き出す輩(タルハーミネやラリサ達)に、キッと睨むサマンサだが、照れ隠しなのが見え見えなので、ちっとも威嚇になっていない。
ただただ可愛らしい、子猫の威嚇程度なのだ。
まだ恋をしたことのないラリサまで、『甘酸っぱいわ♪ これが恋愛模様なのね』と、ゼフェル達の態度に呆ける始末。
第二王子のロビンだけは、『あんなキツそうな女より、断然エリザベートが良いだろうが! だが、エリザベートが選ばれないのは好都合だな。 傷心のお前を俺が癒してやるぞ! くっくっくっ』と喜色満面だ。
ロビンが怪しい妄想をしている時、ラリサに悪寒が走っていた。
嫌な予感! もしかしたら、魔族の急襲があるかも?
別方向の悪寒に気づくこともなく、警戒心に守備の強化を指示するラリサ。
しかし、予感も強ち違っていなかった。
若手魔族集団が、ブラックゴルゴノプスドラゴン(ラリサに竜玉を取られたドラゴン)を引き連れ、王城近くまで接近していたのだ。
数日経ち、今日はサマンサとゼフェルのお茶会日。
当然ながら、お茶会にラリサは居ない。
二人の邪魔が入らぬように、二人のいる庭園の警備だけは最小限である。
そして、第二王妃ジリアンとも連携が取れていない若手魔族達。
当初のラリサ(エリザベート)狙いの作戦をすっ飛ばし、「王太子殺せばはやいんじゃね」と、来ちゃったようだ。
その時、ゼフェルは決意していた。
いろいろ考え許嫁はサマンサにと、求婚するつもりなのだ。
周りも表情からそれを察していた。
『今日決めるんだな』
『頑張れ』
『グズグズしやがって、やっと決めたか』
『ダメなら骨は拾ってやるぜ』
『グッドラック!』等々、好き勝手な心の声である。
庭園は、城の中央部。
四方を囲まれており、守りは堅い。
もっとも襲撃を受けやすい、城背部の大森林に繋がる回廊をラリサは陣取っていた。
そこは大木に囲まれた自然を育む命の森。
多くの生き物が生息している。
その為、身を隠すにはうってつけの場所なのだ。
最も警備がし辛い場所を選択したのは、先日の悪寒と野生の勘。
勘と言っても適当ではなく、ラリサに宿る血が騒いだ。
いや、共鳴と言っても良いだろう。
ラリサの口元には涎が、僅か落ちる。
「アナスタシア様、今日は宴の予感です!」
気づかれぬように涎を拭き、近くにいるアナスタシアに告げる。
「ほお。 その様子だと、かなりの大物のようだが、機動力は不足してないか?」
獲物の期待に、アナスタシアも口角が上がる。
「今の所は何とも。 ただの勘の範疇なので」
落ち着いて言葉を返すラリサだが、数年前から森林に巣食う魔獣を撃退している彼女らに、今更普通の魔獣を宴と呼ばないのは明確である。
「ふむ。 それならば、タルハーミネ軍も呼ぼう。 彼奴らにも旨いものを食わせて、たまには機嫌を取らねばな。 此方はラリサの勘で、いつも大きくて旨い獲物を狩っているから、不満が出ているのだ」
くつくつと笑いが漏れだすアナスタシア。
大きな獲物は攻撃力も高く、怪我の危険も高い。
だがこの国の軍は、大きい獲物を取られて不満を言う猛者が多いと言うこと。
数年かけて軍事力が羽上がった。
個々の訓練と、魔獣の美味しさの賜物である。
今まで食べてこなかった(捨てていた)魔獣も、ラリサのお料理レシピとキャラウェイ等の僧侶の浄化があれば、魔獣の毒も消えると言うダブルコンボで大人気である。
肉をお安く食べられて美味しい。
魔獣の肉は一般化し、その身に宿る魔力も知らずに補給され、国民の魔力量も底上げされていた。
一般化する前から食していたアナスタシアやゼフェル達も、既にかなりの恩恵を受けている。
魔力持ちの国に生まれ変わったのである。
勿論魔獣が来なければ平和だし、魔力もそれほど増えない。
ずっと魔獣を食さなければ、自然と魔力も減少していくだろう。
だが、魔界からの纏まりのない襲撃が繰り返された為、魔獣の肉を食べた国民の魔力量は上がり、学校も増設された。
幼い子でも、小型魔獣を捕まえることができるようになり、ギルドで売ることで賃金を貰え生きていけるシステムとなった。
孤児院には魔導師が通いで指導する。
手に職をつけた子供達は、労働力を安く買い叩かれて働くのではなく、頑張り次第で魔法で食べていける道も出来たのだ。
魔法の適正も様々で、攻撃・治癒・保護・付加等多岐にわたる。
魔導師、冒険者、治癒者、料理人、魔道具の加工等、本来の基礎にプラスなので、全ての希望は叶わない。 でも何も持たない孤児が得るには、素晴らしいギフトとなった。 仮になりたくない職業でも、お金を貯めて転職だってできるのだ。 全てに魔法が関わるわけでもない。 行きたい国にだって行ける。 お金があれば自由だって買えるのだ。
魔法を学ぶには、読み書きが必要である。
魔力を増やすには体力も必要である。
国は教育を惜しみ無く援助してきた。
将来の魔族との決戦に向けて。
逆に選民意識を持つ貴族達は、魔物を食すのを拒否した。 その為、その一族は何も変わらなかった。
反対に積極的に食し、魔力の多い者の登用を図る貴族も出だした。
何れ魔法が使えなくなったとしても、今ある機会を生かすことで、弱いと言われていた者が教育を得られ向上心を持つことが出来た。 希望を持てる国は発展するだろう。
そしてこの機会を逃さず、魔族が来ると諦めて国を捨てることに成らぬように、教育に力を入れた王達に国民は誓いを新たにした。
一方で、王達はここまで考えてはいなかった。
国民の魔力量の増加を魔導師に聞いていた、アナスタシアとニール(ブロディ)は、暴発とか危険だから管理しないといけない。 そう思い、各所に魔導師を派遣して、情報の収集をしていったのだ。
その収集が大きな財産となり、側近として働く者にも繋がっていた。
魔力の上昇の恩恵は、拒否をする者以外に行き渡った。
そんなことを知らない魔族の襲撃者が、ラリサ達がいることを知らない森林と、庭園の上空の2ヶ所から攻撃を仕掛けるのはもうすぐ。
どちらが悲鳴をあげるのか?
そしてゼフェルは、サマンサを前にお茶会でタジタジしていた。
気配を殺し、無言で見守る側近達。
ゼフェルは、この時やや空想に逃げる。
「やはりサマンサは美しい。 ラリサはお祖母様みたいだし、ロールケイトはまんま部下だし、お母様は黄色いゴリラだし、俺にはサマンサしかいないよ」と、知らずに口に出していた。
「ブフォ!」と、勢いよくお茶を吐き出し咳き込むサマンサ。
護衛からも、何やら呻き声が聞こえた。
「大丈夫ですか? ビルガード令嬢」と、慌てるゼフェルだが。
サマンサは、ハンカチを口に当て「大丈夫です」と冷静に返す。
『なんなのこの人、影でサマンサ呼びなの? って言うかおばあさまだの、ゴリラだの、2人に聞かれたら無傷じゃいられないわよ。 本当に筋肉バカなんだから。 しょうがないわね、私が何とかするしかないか』と、覚悟を決めていた。
そして、笑って吹き出しそうなのを堪える為に、表情筋に力を加え、真面目な顔を維持した。
ゼフェルは、俺なんか変なことしたかなと、またタジタジ。
そして護衛から声があがる。
「超大型のオウギワシが現れたぞ! 皆配置につけ!」
「「「「「「「了解!!!」」」」」」」
上空からの魔物が、ゼフェルを目指し速度を増した。
ゼフェルも僕っ子から、一人称が俺になりました。




