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公爵令嬢は顔が薄い  作者: ねこまんまときみどりのことり


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22/77

地味顔の魔女は、亡き師匠を思う

 ふと思い出す昔のこと。


 300年前ラリサを拾ってくれた、師匠兼養母ヘルガのことを。


 初めて出会ったのは、戦時中に親とはぐれて、1人で町をぶらぶらと食べ物を探索していた時だ。


 子供だし不景気で働き口なんかない、皆ギスギスしていて生きるだけでやっとの時代。


 物乞いをしても何もありつけず、空腹で屋台のパン屋から1つ盗みを働いた。

言い訳かもしれないが、1番安い硬くて小さい黒パンだった。

悪いってことも解ってた。

でもお腹がすいて、我慢できなかった。


 その行為が何度が続き、とうとう店の者に捕まった。

どうやらわざと泳がされていたようだ。

孤児を浚って売り飛ばす為に。


 私は女だったから、手っ取り早く娼館行きになりそうな話が薦められていたようだ。


 その時丁度、そこに通りかかったのが師匠だった。


 こともあろうに師匠は、結構なことを人買いに言い放った。

「そんな痩せっぽちのミソッカス、二束三文で買い叩かれるか、突き返されるさ。 丁度私の召し使いを探してたんだけど、銀貨3枚でどうだい? そっちの方が、ちっとは儲けになるだろ?」


 そう言われた人買いは一瞬だけ考えて、銀貨を受け取った。


 師匠は黒いローブを身に纏い、薬師とも魔女とも言われていた。

 その時代怪我人は多く、荒廃した町の汚染から広がる感染症等で、薬の需要は高い。

そんな中、薬師は随分と優遇されていたのだ。


 しかし、森の中の一軒家で1人暮らし。

 老婆の1人暮らしなんて、強盗の格好の餌食となりそうだが、家周囲には罠や仕掛けが張り巡らされ、人どころか熊だって近寄れなかった。

 ギルドの巡回も、付近を定期的に訪れていた。


 既に先客(強盗)の何人かは餌食になったようで、危険な家リスト入りもしていた。


 師匠を襲おうにも、煙り玉や痺れる杖・火傷等を生じてしまい近づけなかった。



 まあ、そんな訳で師匠の弟子として暮らし始めた。


 最初から口の悪い師匠。

覚えが悪いだの、動作がトロいだのと、散々言われた。

 それでも暫く暮らしていると、この口調が素なんだなあと解ってくる。


「ほらトロ子、もう夜だよ。 そんなの良いから、座ってご飯食べな。 残すんじゃないよ」

「はい。 絶対残しません。 う~ん、美味しいです」


「ドジ子、へそ出して寝るんじゃないよ。 熱だしたら大変だ。 これ巻いて寝な」

ぽんと投げてくれたのは、手作りの腹巻き。

なんと豚の刺繍入り。

「ありがとうございます。 でもブタ?」  

「そっくりだろ、早く寝なよ」

「は~い。 ありがとうございます、ブー」


 くふふっと笑い、ヘルガは背を向け寝室へ。

ラリサは腹巻きを抱き締めて、じっと温もりを感じていた。

夜に朝に、ちょこちょこ編んでたのこれだったんだ。

プレゼントなんて、初めてだ。 

それも手編みだ、わ~い~


 炊事洗濯掃除を教えられ、一通り出来るようになったら文字の読み書きを教えられた。

 その内に薬草の草取り、栽培、刈り取り、調合、販売まで。

薬草の調合なんて秘匿中の秘匿だろうに、惜しみ無く伝授してくれた。


 最初は焦がしたり、煮たったりで使い物にならなかった。

 失敗したのを味見して悶えたりも、火傷とかは何百回とした。

 素材だけでも高額な薬草なのに、そのことでは責められたりはしなかった。

 ただ鈍くさいねえとか、時間を合わせるんだよとか鳥頭とか、ニタつきながら小馬鹿にされた。

 それが悔しくてチクショーとか言いながら、正確に時間を見ながら鍋をかき混ぜた。

 大鍋だから、失敗したらごっそり損害だけど、そんなこと気にしない人だった。


 ある日留守番をしていると、若い女が家に入ってきた。

泥棒かと思い箒を持って近づくと、突然姿が変わりいつもの師匠になった。


 目を瞬いて吃驚していると、ああ見られちゃったとまた笑っていた。


 もともと師匠の姿は、この状態だと言う。

それでも520才なんだって、さっきの姿は30代くらいだったのに。

どうやら、自分の好きな状態で固定するらしい。

師匠は魔界からやって来た。いや、逃げてきたのかな?と首を捻っていた。

所謂魔族だと言う。


 何人かいる王様の妃で、1度出産すると次回の出産まで再び子に与える魔力を貯めるらしいが、今いる子供が成人になった(300才を越えた)から人間界(こっち)に出てきちゃったらしい。

好きでもないし、女がいっぱいいる男はもう勘弁らしい。

一応息子には言ったらしいが、好きに生きたら良いと承諾を得たと。 

魔族はドライな家族関係が多いらしい(一部ウェットなのもいるらしいが)。

 50年位はこの姿で、人間であちこちふらふら旅をして。

 それも飽きてここに居ついたが、若い女のままだと男が寄ってきたり、歳を取らないと変に思われるが、おばばなら興味も持たれないだろうとこの姿(おばば)に落ち着いたとのこと。


 見たところラリサにも魔力があるので、ラリサが覚えたければ魔法の使い方も教えてくれると言う。

あと、魔族が嫌なら出ていっても良いとも言うのだ。

1人で生きていける技は、身に付けさせたからだそうだ。


 そんなこと言われたって、ラリサにとっては姿なんてどうだって良いのだ。

魔族だろうが、妖怪だろうが、助けてくれたのはヘルガ師匠だけだ。

いつだって一緒にいたい。 恩返ししたいのだ。

大好きだもの。


「師匠、私に変身魔法を教えてください!」

私は真剣に頼んだ。


「ほぇ。 怖くないのかい?アタシのこと?」

てっきり逃げられると思ってたヘルガ。

放心して変な声が出てた。


「怖いわけないですよ。 口は悪いけど、人が良い師匠大好きですもん」

喜色満面でよい返事だ。


 ちょっと照れながら、ヘルガも答えた。

「そこは人が良いじゃなくて、良い人って言うことだろが、

もう。 まあ、私は良い人じゃないか。 あんたが目の前で売られそうだから助けただけ。 本当に良い人なら皆を助けたり、いろいろ働きかけたりするんだろうからね」


 そのことは、この国の人がしなきゃいけないことですよ。 

王様とか偉い人が。

こんなこと言ってる時点でもう・・・・・・・

大好きだー!!! 


 そんなこんなでいろいろ魔法を学んだラリサ。

わりと直ぐたくさん覚えることができたので、案外王族か、魔族の血が混ざってるかもねと言われた。

家事はダメダメだったな、2年位はひどかったなともだめ押し。



そして数年後

 ーーーーー最後のお別れの時、こう言われた。


 魔界は魔界、人間界は人間界でそれぞれバリアーで覆われていて、天寿を全うした魂はその世界で転生するらしい。


 魔族と生まれた師匠だったが、魔素の少ない人間界で過ごしたことで寿命は短くなっていた。

魔族は魔力で生命力を補填するので、なかなか変化は少ない。

身体機能の衰えで死へ向かう。


 でも人間界で生きる魔族は、生命力を人間と同じように消費するので衰えが早いのだ。

人間でも、魔力が多い者が若々しいのは、その辺が関係しているらしい。


 そこまで解れば、人間も魔族も元は同じものだと実感する。

師匠が生まれ変わるのは、次は人間なのだ。


 「ラリサ、最期の時間をあんたと過ごせて、面白かったよ。 またこんなに騒げる相手がいれば、退屈しないんだけどね。 まあ、あんたも好きなように生きなよ。 アタシはあんたを気に入ってるから、またきっと会える気がするよ」

ベットに寝たまま、右手で私の頬を撫でる師匠。

もう目も殆ど開いていない。


 私はそれでも泣かないと決めている。

賑やかなのが好きな人だから。

師匠の手を両手で触り、絶対会えます。

会いに行きますと答える私。


 「適当な…こと……言って………」

口元に弧を描き、触れていた手の力が抜け落ちた。


 逝ってしまった……………………………

もう泣いて良いよね。

「うわ~ん、寂しいよ~~ いかないでよ~うわ~~あ~あ~ん……………」


 涙が枯れるまで泣いた。 泣ききった。


 師匠のお墓を作ろう。

 そして旅に出よう。

 師匠も見た景色を。


 


 そんなこんなで今に至るも、実は師匠には会えていない。

全てが片付けば、世界の果てで会えるかもしれないね、師匠。


 なんて思ってるラリサなのだが、実はもうすぐ側にいたのだ。

実は義理の祖母タルハーミネが、ヘルガの生まれ変わりなのだ。

ラリサは気づいていなし、タルハーミネも気づいていない。


 お互いに遠慮しないで、わりと文句言ってる関係な2人。

なんと言っても、ヘルガは人間1周目だから我が儘が止まらない。

仕方ないよね、今まで魔族でブイブイ言わせて、王を振ってきたくらいだし。


 それでもお互い繕わない性格は、わりと気に入っているのだ。

メアリーのことで多少は遠慮もあるが、もう少し成長すれば喧嘩友達くらいには……………なれるかな? なれないかもね。


 でも、会いに行く約束は、既に果たされていたのだった。




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