地味顔の魔女は、詐欺師顔?
「たまには、私にも付き合いなさいよ!!!」
キャラウェイが突然、私の肩をガシッと掴み言い放った。
付き合うとは?
何に?
汗が流れ出るのでメイクをしていないキャラウェイは、がっしりしていて男前だ。
以前は腕だけ凄い筋肉だった彼は、全身均整の取れた体つきとなった。
もうどこから見ても立派な騎士だ。
ポカンとキャラウェイを眺めていると、むこうは怒りだす。
「ちょっと聞いてんの? ラリサ。 あんたは討伐終了すれば、公爵令嬢でのほほんと暮らせるだろうけど、こちとらメイクアップアーティストとして随分休んじゃって、これから名声を取り戻すの大変なのよ。 せめて腕が鈍らないように、顔くらい貸せ!」
なんなの、その謎理論。
こっちだって困ってるっつーの。
本当はこんな話し方(お上品?)じゃなくて、師匠が喋ってくれた威厳のある口調が憧れで使いたいのに(※ラリサの師匠の口調は、威厳じゃなくてただの田舎訛りでした。 首都は標準語なので訛りはないだけ)。
妹が怖いと言って泣くから今は使ってないし(←討伐と関係ないけど、ただ愚痴りたいだけ)
ラリサの名前だって、師匠が呼んでくれたのを忘れないように、転生毎に記憶が戻った時に改竄してラリサにしていたのに。
さすがに血筋(祖母と孫)となっては、注目されすぎるので改竄は無理だった。
父と息子なら、愛息として(ジュニアと言うことで)同じ名前でもまあ良しかもしれないが。
孫だと胡麻すりとか利権がらみとか言われそうだしね。
メアリーに負担は掛けられないから断念。
それぞれ皆大変なのに。
ブロディだって、時期国王?だよ(ゼフェルに飛ぶかもしれないけど)。
アナスタシア様だって王太子妃で、直属の軍だって持ってるし。
キャラウェイだけ大変なんじゃないんだよ、と言いたいが平民が生きていくのは大変なのは事実だ。
キャラウェイの性格上、王家に頼ることはしないだろう。
今ある生活を捨てて、しがらみのある僧侶としても生きないだろう。
ここは私が、男前になって犠牲になるか。
「解ったよキャラウェイ。 今日は休息日にして、好きなだけメイクしても良いよ。 何度描いてもメイク落としてやり直しても文句言わないから」
キャラウェイの方へ向けちょっと良い女風に言うと、キランと光る瞳と喜色満面が、高速で私の隣に立っていた。
余程メイク欲が高まっていたのだろう。
私を離宮の部屋へ移動し、メイク道具をアナスタシア様に借りてきたキャラウェイは、楽しげに下地を塗りたくる。
私のメイクは特別製♪
メイクを楽しむのは、女の子だけじゃないの♪
老若男女誰だって、いつだって変身できるの♪
今日は王様、明日は女優、男の子から女の子へ、美女から男前に♪
メイクは魔法♪
私は魔法使いなの♪
今日のあなたがなりたいのはだぁれ♪
適当な歌を歌いながら、私をいろんな種類の美女に変えていく。
私も単純に楽しみながら、メイク技術を目で覚えていく。
ただ手際が良すぎて早くて見えないので、魔力を目に凝らし動きを補足する。
全てが解決し、旅が出来るようになったら、その土地土地の人に成りきって見聞したいと思うから。
やっぱり裏メニュー食べる為には、外国人は不利だしね。
美味しい物食べて珍しい物を見つけて、行商するのも良いね。
いつもは気を張って訓練していたが、今日はアナスタシア様も公認のお休みになった。
自主練は自由との指示で、ゼフェル様だけは素振りの練習をしていた。
最近のブロディ(王太子ニール)は王太子の立場を自覚し、今更ながらアナスタシア様について公務を初め出していた。
そんな訳で今離宮にいるのは、私・キャラウェイ・ゼフェルの3人である。
そこで油断していた私は、離宮に防音や隠蔽魔法を掛けるのを怠っていたのだ。
完全なる気の緩み。
そんな時ゼフェルの腹違いの弟が、キャラウェイの珍妙な歌声につられて側に来ていたのだ。
離宮の広場で轟く、ゼフェルの「エイッ、エイッ」と言うかけ声とキャラウェイの歌声で、いつもなら警戒して気付いたであろう離宮を歩く足音も見逃していた。
「お前達、ここで何をしている?」
突然の声に驚愕のラリサとキャラウェイ。
丁度ラリサのメイクは完了していた。
振り返って声に向き合うと、思考を高速回転させ挨拶をしたのだ。
黙ってここまで来られるのは王族のみ。
年齢・髪色・瞳の色から判断し、弾き出したのは『第二王子ロビン』だった。
「初めてお目にかかります。 ゼフェル様の婚約者候補で、ファンブル公爵家の長女エリザベートと申します」と淑女の令を取る。
固い表情で何故ここにいると、質問が続く。
ラリサは慌てず答える。
「ゼフェル様の剣の訓練を見学していたのですが、汗でメイクが崩れてしまい直しておりました。 この者は我が家に専属しているメイクアップアーティストです。 声が煩く申し訳ありません」と、キャラウェイと共にまた頭を下げた。
不穏な動きに気づき、ゼフェルがそこに駆けつける。
「なにかあったのか? 大丈夫ですかラリサ!」
息が切れるほど、ぶっちぎって来てくれたようだ。
ロビンは少し思考し、ラリサを見つめた。
「なるほど。 解りました。 また後日お話いたしましょう、ファンブル公爵令嬢。 兄上、心配なさらずとも、私は挨拶しただけですよ。 ではこれで」
ロビンはラリサと言葉を交わした後、ゼフェルにも薄く微笑みその場を後にした。
ラリサは、防音と隠蔽魔法をかけ忘れた自分のミスだと、2人に謝った。
キャラウェイもメイクに夢中で、気配に気づけなかったと非を詫びた。
ゼフェルもいつもラリサに任せて、侵入者の気配に鈍感であったと反省をみせた。
3人でそれぞれ非を認め、今回のことをアナスタシア様に報告して判断を仰ぐことにした。
「ただ先程のロビンの発言。 あいつはまたラリサに会いたいようだった。 今の貴女の顔はあいつの母に似て、儚げで可愛いらしい。 気にいられたかもしれません」
そう告げるゼフェル。
今度正式に謁見する時は、この顔で行かなければならないだろう。
第二王妃に似てるのかぁ。
王妃様嫌がりそう。
なんて適当に考えていたのだが、どうやらもっと面倒くさいことになりそうな気配があった。
「兄上の婚約者候補と言うが、こんな離宮にまで連れ込むとは。 かなり親密なのか? 1度兄上を救う胆力も見せ、筆頭公爵家のファンブル。 なによりあの美貌。 兄上には悪いがまだ候補の段階、本気で誘惑すれば断りはしないだろう。 僕にこそ彼女は相応しいだろう」
くつくつと喉で笑うロビン。
歪んだ性格は、王も気づいている折紙付きだ。
その時、寒気で全身鳥肌の立つラリサ。
風邪ひいたかな?
ロビンに報告を受け、ファンブル公爵を取り込めればかなり(時期王太子になるのに)有利になるとほくそ笑む、祖父のタウランガ侯爵。
娘譲りの甘い顔で誘惑すれば、楽勝で落とせるんじゃないかと。
顔だけならゼフェルより勝っておる!!!
顔だけなら!!!
複雑な思いの母。
あの子が女の子に好意を持つなんて。
私の可愛いロビンを誑かすなんて……………くうっ、憎いわ
でもでも、あの子を王にするには、権力も必要………
ああもう~~~~~
預かり知らぬところで、架空の嫁姑問題にも発展しているのだった。




