地味顔の魔女は、弟が眩しい
久しぶりに、我が家で過ごすラリサ(エリザベート)。
本人的には休んでいる暇はないと思っているが、家族から王様の元へ苦情が入り、急遽数日お休みとなったのだ。
毎日毎日王城に行き、怪我だらけで帰って来る。 王太子妃教育で登城してるはずなのに、どういうことなんでしょうか?と。
まぁ、普通そうだよね。
ラリサの両親には、過去のブラックゴルゴノプスドラゴン討伐話はしていないし、勇者様(の仲間)と言われる黒歴史?のことも伝えていないのだから。
でも本当のことを言うと、心配されて登城は止められちゃうだろうしね。 迷い所だ。
暖かい良い家族だから、私も心配かけたくないのよ。
前世と大違い。
幸せだからさくっと解決して、皆には平穏に暮らして欲しいんだけど。
油断してたよね。
前世を知る者達で、防音魔法を掛けて人が来ない離宮で修行して、魔獣討伐して。 修行討伐修行討伐……………をルーチンワークでこなしてたから。
結構一杯一杯で、他のこと考えてなかったからしょうがない。
何とか言い訳を考えようとしてたんだけど・・・・・・・
「姉上。 せっかくのお休みなのに、何暗い顔してるんですか?」
思考を巡らし、薔薇や色とりどりの花の咲く庭にある東屋で唸り声をあげていると、私の顔を心配気な弟の顔を覗く。
う~んと唸っていることにも気づかず、渋い顔をしていたようだ。
手を振りながら、何でもないと微笑むも、どうやら離して貰えないようだ。
銀の髪と緑色の瞳を揺らし、目を反らさせてくれない。
幼いながらも整った顔立ちは、姉のエリザベート(ラリサ)とは全然違い、全ての老若男女が好感を持つ美しさだ。
癖のある髪は肩まで伸びて、日の光を浴びて輝いていた。
ラリサの弟妹は父と母のどちらかに似ているが、2人とも美形である為、当然整っている面だ。
時々ラリサだって思う。
呪いさえなければ、きっと私も美人だったのにと。
ラリサも銀髪と緑の瞳は同じだが、この国の貴族らしくない薄い顔。 不細工でもなく美人でもない。 平均的な日本人のような顔立ちだった。 比較するなら、他の家族は英国の貴族風な華のある顔立ちと言っておこう。
話が進まないので、慣れ親しんだ顔のことは一旦置いておこう。
1つ年下のウィリアムは、2才の時に両親と和解?した時のことを覚えているのか、私に絶大の信頼を持っている。 依存と言っても良いレベルだ。
「えーと。 王子妃教育のことを考えていたのよ。 今王都には魔物が集まってきているでしょ。 それで万が一の為に、王太子妃様から護身術を学んでいるのよ。 アナスタシア様が、とっても凛々しくて格好良いの」
私はわざと明るく話した。
「そうなのですか。 護身術ならば無駄にはなりませんよね。 僕は体罰等受けているのではと、気が気でなかったのです。 その点では安心しました。 でも、姉上は王子妃候補を嫌がっていたので、怪我を理由に候補を辞退できるのではないかと思っていたのですが」
ウィリアムは頭を掻きながら、照れ臭そうに告げた。 まるで姉を取られていたような態度。 そしていつも気遣ってくれていることも可愛らしく思った。 けれど、今討伐を抜ける訳にはいかない。 早く大本を踏んじまって、平和な世の中にしたいのだ。
覗き込むように返答を待つ弟。
私はウィリアムを見つめ、両手でウィリアムの手を握りしめた。
咄嗟のことにウィリアムは瞬いている。
「他の令嬢も訓練を受けている以上、私だけ辞められないわ。 でも心配してくれて嬉しいよ。 いつもありがとう」
そう伝えると、静かに頷くウィリアム。 眉根を寄せ困惑気味な表情だ。
「浅慮でした。 王家の決定に、背くことなど出来ないのは解っていたのに。申し訳ありません、姉上」
いやいやいや、なんて天使。 尊いよ、ウィリアム。
他の令嬢も、護身術習ってるなんて嘘だし。
王家のお茶会だって、祖母タルハーミネが無理矢理出ろと言って来なければ、まずズル休みしただろうし。 ウィリアムが謝る要素は1㎜もないよ。
この子は周囲を察する力もあるし、頭の回転も早い。
私は前世の記憶があってこんなもんだが、ウィリアムは前世の記憶なしでこんなにしっかりしている。
天才と言っても差し支えない。
私が前世持ちで異常なのだから。
今回の討伐が片付いたら、ウィリアムには前世のことを話してみようと思う。
そうすれば少なくとも私に、今までのような尊敬の目は向けなくなるだろう。
自分の才能に目覚めて、思うまま進んで欲しい。
私に執着する時間は勿体ないもの。
けれど、次の言葉にはちょっと驚いちゃった。
「御迷惑でなければ、僕もアナスタシア様に稽古をつけて欲しいのです。 有事の際、皆を守る力が欲しいのです」
「ウィリアム。 貴方はまだ5才なのに、そんなに気負う必要は『ないと言うのですか? 順当に行けば僕が次期公爵なのに。 アナスタシア様のような素晴らしい軍人に、稽古をつけていただく機会はほぼないのです。 王太子妃様にはなかなかお目に掛かれませんから。 駄目ですか姉上』 うぐっ」
可愛い目で、精神攻撃を掛けてくる弟。(攻撃と言うか、上目使いで手を組んでのおねだりポーズだけどね)
私はこのキラキラに直視できず、即却下出来ずに逃げてしまったの。
「こ、こういうことは、私が決められるものではないのよ。 王様や当事者である、アナスタシア様にも確認しないと」
焦りながらそう告げる私。
頷くウィリアム。
「そうですよね。 うっかりしてました。 では将来親戚となるかもしれない僕の願いを、お伝えいただきますか? 姉上」
と、もの凄い良い笑顔を向けてくる。
これ王様が断ったら、私のことを認めてないとか器が小さいとか難癖つけそうだし、認めると訓練というか討伐に支障を来しちゃうよ。 どーしようか?
うん、まずはアナスタシア様に相談だ!
私に駆け引きとか、難しいことは出来ないもの。
さっき断っておければなぁ。
あの顔見たら無理だよなあ、天使だし。
私はもう、この時点で負けてることに気づいていなかった。
そして王子妃教育が再開する時に、この件を相談することにしたのだ。




