地味顔の魔女は、今日は出番なし
王妃に絶賛嫌われ中の第二王太子妃は、婚姻前は本当に天然であった。
単純に言えば、本人の行動には悪意がないのである。
所謂『無自覚地雷女』である。
私のことを皆が愛している。
好きじゃない人は敵。
だから、自分の思う通りにいかないと、誰かが邪魔をしていると泣く。
見た目にも気を配り綺麗を保つので、外見は完璧な可愛らしさである。
だが王子を産んでいる王太子妃として、いつまでも白やピンクのドレスを着ているのは、首を傾げる所。
似合ってはいる。
とんでもなく可愛らしい24才ではあるが、母としての装いも求められるのが王室なのだが。
侯爵家の第二子として高等教育を学んでおり、表面的な面での常識は問題はない。
頭の回転も早いが、不要と思うものは一切拒否してしまう切り換えの早さもあった。
それは影の存在を覚えていないことにも通じる。
周囲は自分を守ったり自分を助ける為に存在すると思い、疑わないからだ。
当たり前のことに気を配りたくないと、スルーしていたのだ。
侯爵家で愛でられ育てられたジリアンにとって、思い通りにならないことはなかった。
そして全ては彼女の思惑通りだった。
『事件?は、そんな彼女が16才の時に遡る』
それを覆したのが、王太子と王太子妃の結婚だ。
自己評価が山より高い彼女。
当然、格好良くて(国で3番目に)身分が高くて、優しい王子は自分に求婚するものだと待ち構えていたのに。
「なんでよ~~~~~~!!!!」と号泣し喚き出す始末。
逆に、本人よりも周囲の者がキョトンである。
幼い頃に婚約を結んでいた王太子と王太子妃だ。
そりゃあ時期が来れば結婚もするだろうに。
何故に自分を迎えに来ないと、喚く方がおかしいことだ。
だがそこは地雷女のこと、ジリアンが結婚して欲しいと迫ればすぐ結婚出来ると思っていたらしい。
「舞踏会で王子様と踊った時、私のことを『可愛い可愛い』と褒めて下さったのよ。 『きっと素敵なお嫁さんになるね』って」
社交辞令が通じない!?
さすがの侯爵も、言葉がでなかった。
更に本気で王太子妃を狙っているとは、思ってもいなかったのだから。
愛娘には、同格か1つ2つ下の爵位でも良いから、娘の我儘に付き合える者に嫁がせようと思っていた。
その為に自分の持てる権力や経済力も、全て活用して幸せにしてやるつもりだった。
それがだ・・・・・
国で二番目に高貴な女性となる王太子妃、後の国母となる王妃を狙っていたとは!
それに本気で狙っていたと相談されれば、教育なり社交なりごり押しなりの手を出して、婚約者を変更出来たかもしれないのに。
う~ん、でも王太子妃は最強を誇る辺境伯家の娘ではないか。
結婚前に、ライバルとして喧嘩を売るにも相手が悪すぎか。
後、頭の出来とか気品とかも絶望的だし、やっぱり無理だったかな?
侯爵だって、貴族として生き馬の目を抜くような厳しい日常を過ごす日々だ。
客間的に娘を見れば、いろいろ足りないのは一目も二目見ても瞭然だ。
しかし、愛娘の願いだし。
まあでも、すぐ気が変わるかもしれないしと、侯爵は少し様子を見ることにした。
だが今まで何でも、思う通りに望みを叶えてきたジリアン。
手に入らぬものには余計に執着を見せたのだ。
その日から一歩も部屋を出ず、懸命な説得にも食事はせず水分だけで7日が経過した。
目は落ち窪み顔色は蒼白で、艶やかだった肌も髪もかさつき、自力で起き上がれぬほどに衰弱。
侯爵は娘を抱きしめて何とかすると誓い、娘を説得し食事をさせた。
最愛の妻を5年前になくした侯爵に、娘まで亡くしてしまうのではないかと恐怖が襲った。
その後、ジリアンは徐々に回復を見せた。
そして侯爵は言う。
「王太子妃は、既に決まってしまっているから諦めなさい。 しかし、最終的にお前が王妃になれるように全力を尽くそうと思う」
「どうやるんですか?」
侯爵(父)を真っ直ぐ見遣り、目を細める。
「お前が第二王太子妃となり、王太子妃のアナスタシアが死ねばお前が王太子妃となる。 王太子が王位についてから王妃が死ねば、お前が王妃となる。 簡単な話さ」
赤ワインの入ったグラスを一度回し、薫りを楽しみ口に含む。
「その為にはお前は変わらねばならない。 王太子好みのふわふわ女にな。 そして運命の出会いを果たさねばならん。 できるか?」
鋭い目でジリアンを見つめ、覚悟を問う侯爵。
何のことかは想像がついたジリアン。
侯爵(父)の書斎で見た机に、王子に関しての調査書類が置かれていた。
王太子の行動範囲・交遊・女性関係諸々。
女性関係は行きずりの者もあるが、主に高級娼館が多かった。
娼婦の証言としては、自己への自信が乏しく虚しいとかが多いとのこと。
また、妻が優秀過ぎて周囲が自分と比較して辛いと。
被害妄想も含まれているかもしれないが、実際に言われたこともあるのだろう。
王や王妃にも、もっと努力するように言われたのかもしれないし。
(本来、高級娼婦にとって客との秘密漏洩はタブーであるが、一生働いても貰えぬ金銭を積まれれば別である。 さくっと喋って田舎に引っ込むまでだ)
ジリアンは侯爵(父)に返す。
「私がすることは、王太子を全面的に受け止め甘やかし自己肯定感を与えることですね。 弱気ですぐ泣き守ってあげたいと思わせる庇護欲を擽り、手放せない存在となる」
「そうだ。 今までのように我儘で傲慢なやり方では、王太子は落とせん。 顔と体だけで済む男なら別だがな。 できるか?」
「王太子を手に入れるなら、何だってするわ。 私こそがこの国に頂点足るに相応しい女です。 今までのように、怠けたりしませんわ」
「そうだ。 王太子との出会いを劇的に果たしてやろう。 暴漢に襲われそうな所を助けられるとかかな?」
微笑して言うと、ジリアンは深く頷く。
「可憐で憐れな少女を演じますわ。 きっと落として見せる」
自信満々に言うと。
「運命の出会いだ。 その場では直ぐに別れ、何度も出会うようにするよ。 奇跡の出会いと思い込むようにな」
悪い顔で笑うもその実力は本物だ。
法務大臣を担う影の実力者。
父の父、祖父の代から法務大臣だった。
ジリアンの祖父は、実際に王位を狙っていた。
当時の王女と結婚し、王子を排除して王位に就こうと画策していたのだ。
しかし王女の好みはゴリマッチョ(筋肉好き)だった為、地位もあり長身で面も良いのに祖父は軽く弾かれた。
運が良い女王様である。
まさに筋肉万歳である。
それからの祖父は歪んだ。
結構自信家だったから、実力のない筋肉に負けたと。
実際には戦果を挙げている有力な伯爵家嫡男であり、優れた騎士であった為、実力のある筋肉である。
そこで子の代で王権を狙い、この国にはいない魔導師や魔法使い・魔物使いの3人と結婚して、能力を継がせて有用性を見せ、嫁がせようとしたのだ。
しかしこの地では、300年前にブラックゴルゴノプスドラゴンが討伐されてから、魔物が少ないせいか魔素も乏しい。
結果として多少の魔力はあるが、魔法は使えない子が4人生まれただけだった。
祖父は失望した。
それでも何とか女子を王太子に嫁がせようとしたが、大好きな幼馴染みと結婚した王は、第二夫人や妾も全て固辞した。
王子がニール1人であり、王妃が産めないならスペアも必要だと意見した者もいたが、何かあれば姉の子に王位を譲るので問題ないと一蹴された。
そんな中で嫡男の娘として誕生したジリアンは、魔物使いの才能を見せた。
殆どの動物が彼女の言うことを受け入れて行動したのだ。
ただ、自分よりレベルの高いものには命令は出来ない。
その変わりに、魅了という形で多少の好意は持たれることはあった。
それは人間にも効果が見られた。
残念なことに人間だと女性には、男性ほどの効果は見られない。
単純に、彼女の傲慢さが酷過ぎたせいかもしれないが。
魔力を持つ者が少ないこの国で、スキルの報告は必須ではない。
教会で魔物使いの診断を受けても、ほとんどはレベルが低いので放って置かれた。
彼女の場合は中等度の力を持っていたが、教会に多めの寄付を握らせて秘匿して貰った。
全ては祖父が、ジリアンを王妃に就けたいが為に。
しかしジリアンの父が侯爵を継いでからは、そんな大変な者(王妃)にならないで良いと言い、1人娘のジリアンを甘やかし始めた。
4人の内3人が男児で、女児1人だけの愛娘。
親の欲目で甘やかして現在に至るだ。
こうなった今、侯爵が頭を下げて父(ジリアンの祖父)に協力を得ようと思う。
きっと手を貸してくれるだろう。
魔物使いの義母(ジリアンの祖母)に助力を得て、全力で王太子妃アナスタシアの除去を進めるべきだ。
魔物の捕獲
魔物の調教
この2つをジリアンも習得しなければならない。
祖母はいつでも近くにはいないのだ。
機会を逃さず実行できるかが鍵だ。
そして私の可愛いジリアンを、誰が見ても愛されるジリアンに教育しなければならない。
この子の願いを叶えるには、辛いだろうが仕方がない。
それが終われば寂しいけれど、第二王太子妃としてジリアンを捩じ込もうではないか。
侯爵としての全てを使って。
その後に運命の出会いで結ばれて、第二王太子妃になった私。
それから数年が経った。
今日も私は可愛いを王太子ニールに提供するわ。
周囲の人は首を傾げ、時には頭のネジ飛んでるんじゃないかとも言うけど、ニールが安心できるお馬鹿でいる為に必要な演出。
他の人に営業お馬鹿を見抜かれても、ニールの前では完璧を目指さなければ。
第二王子ロビンが、この国の頂点に立つまでは。
今の彼女が影のことを知らないのか、知っていても気にしていない振りをしているのかは謎である。
単純に忘れている可能性もあるし。
やることいっぱいあったしね。
今もいっぱいいっぱいなのかも。




