地味顔の魔女は、お腹が鳴る
アナスタシア様に問われ、私は前世の記憶を持っていることを話すことにした。
椅子が1つしかないので、アナスタシア様はベットに腰かける。
第一王子が知っている、300年前のブラックゴルゴノプスドラゴン討伐を勇者が行ったことや、討伐後に勇者達3人が呪いを受けてたこと。
これらは王家が代々詳細を伝えているので、アナスタシア様もご存じだろう。
問題はどこまでを伝えるかだ。
ブロディは今王太子だ。
それを考えると美談にした方が良いのだろうか?
実際は、私もブロディもキャラウェイも、別に人助けをする為に討伐した訳じゃない。
生きる為、若しくは美味しいからなのだ。
ドラゴン討伐時は勇者と言われていたが、実態はただの冒険者だった。
犯罪こそしていないが、ギルドの依頼で用心棒やどぶ掃除、悪徳商人の護衛など、生きる為に何でもした。
そもそも私たちの出自を語るには、美談だけでは説明できない。
皆生きる為に逃げることを選択したんだから。
そうじゃないと出会ってない。
と言うことで、だいたいのことを話してしまった。
ブラックゴルゴノプスドラゴンを倒した後は、死骸を私のマジックバックに突っ込んで王都を離れたが、王家の影に終われて結局別々に逃走してそれきりになった。
影は優秀で、撒くまでに何週も時間を要した。
その後はいくら気配を辿っても、2人を見つけられなかった。
空腹でドラゴンの肉を1人で少し食べた。
空腹は満たせたけど、以前のような美味しさは感じられなかった。
私は、解毒や浄化魔法が使えない。
薬草から毒消しや栄養ポーションは作れるが、魔物の毒は消せないのだ。
そんな訳で、キャラウェイが解毒魔法をかけてくれたドラゴンの肉は、勿体なくて今も半分残っている。
マジックバックのことを知られるのは、どうするかと考えたけどドラゴン(肉)の実物を見せた方が良いかなと思ってばらした。
すでにズブズブだものね。
ブロディに食べさせたかった肉を、300年後に調理する機会が来るなんて思わなかった。
なんかすごく嬉しい。
アナスタシア様には、防音魔法をかけた状態で打ち明けさせてもらった。
いくら信用が置けると思う側近でも、家族が脅されていたりお金が必要だったりハニートラップ等で情報が漏れることを懸念したからだ。
アナスタシア様も同意してくださった。
第二王太子妃が魔物を操る側についている以上、漏れれば命に関わる。
だから前世の話を知る人物は、今の所王家ではブロディ(王太子ニール)とアナスタシア様だけだ。
「貴女の優秀さは、幼い時から有名でした。 まるで人生2周目みたいと囁かれるほど。 今は胸にストンと収まった感じです。 これからブラックゴルゴノプスドラゴンが復活します。 貴女の知識を、是非皆にお与えください。 お願いいたします」
アナスタシアは私の前で膝をつき、協力要請をされた。
私は頷くが「疑わないのですか」と改めて問うと、首を横に振り伝説に背くほど愚かでないと言う。
私は再び頷いた。
ブロディ(王太子ニール)が床に降りて、アナスタシアに土下座した。
「すまなかった!!! 僕が優柔不断で意気地無しだから、後継問題で皆に迷惑をかけた。 本来ならしなくても良い苦労を、君にもゼフェルにもかけてしまった。 僕は王位を継がず、ゼフェルが次の王で構わない。 だからこれからでもゼフェルに剣術の稽古をつけても良いだろうか? 君が嫌なら関わらない。 けど頑張っているあの子になにかしたいんだ。 頼むよ」
真剣な眼差しで、アナスタシアに懇願するブロディ(王太子ニール)。
アナスタシアは王太子ニールを見つめ、ただ1度ゆっくり頷いた。
前世の境遇を思い出した今、理不尽を見逃すことはもう出来ない。
甘ったれた思考は捨てて、守りたい者に自分の力を使いたいと思ったのだ。
その為には自身の心身も鍛え直す必要がある。
明日からはゼフェルと特訓だと、気合いを入れる。
アナスタシアもラリサ(エリザベート)も、ブロディ(王太子ニール)の変化を微笑ましく思った。
ただブロディ(王太子ニール)は、決着をつけなければいけない大仕事が残っている。
1つは、復活後のブラックゴルゴノプスドラゴンや魔獣の討伐。
もう1つは、第一王子の暗殺未遂を明らかにすることだ。
自分の弱味を晒し、激しく愛した第二王太子妃。
ジリアンはブロディ(王太子ニール)をどう思っているかは解らない。
同じ思いか全く違うのかも。
はっきりと次期王太子は、第一王子で決定だとジリアンに伝えれば、ジリアンは反発するだろう。
ブロディ(王太子ニール)に怒りや失望を浮かべたり、逆に情に訴えるかもしれない。
短絡思考の彼女だから、殺意も芽生えるかもしれない。
それでも決着をつけなければならないのだ。
それを突きつけ、彼女の裏にいる人物を誘き出す。
彼女1人では、様々な暗殺計画は思い浮かばないし、実行には結び付かなかったであろう。
本当は、そうなる前にブロディ(王太子)は止める必要があった。
全てに目を反らして逃げてはいけなかったのだ。
「ぐ~ぎゅるるるるっ~~~」
ラリサ(エリザベート)は赤面した。
城内の魔物討伐で空腹だったのだ。
だって成長期の女の子だもん!なんて言えず、俯くラリサ(エリザベート)。
ブロディ(王太子ニール)がラリサに呟く。
「300年前、僕はずっとブラックゴルゴノプスドラゴンの味が気になってたんだ。 それこそ死ぬ前にもせめて1口食べたかったと思ったくらい。 だからご馳走してくれないかな?」
300年前とは違い麗しい顔になったブロディ(王太子ニール)。
でも気遣いできる優しさは、あの時と同じ。
前世でずっと会いたかった笑顔は、今も同じように眩しかった。




