地味顔の魔女は、ダメ男に逢う?
王太子ニールの朝は遅い。
視察と言って城下に赴き、合法カジノ・ダンスホール・高級料亭・高級酒場・高級娼館等など、夜な夜な遊び歩いているからである。
勿論危険回避の為、側近や護衛も気を抜けずに付き従う。
当の本人はそんなことは何処吹く風で、金払い良く人当たりも良いと、何処へ行っても人気者だ。
変装をし認識阻害眼鏡も装着しているが、元からの美貌と所作から上級貴族であることはばれている。
まさか次期王と成る王太子とは思われてはいないが。
金髪碧眼で背丈も190cmはあり、ほっそりと整った鼻梁と、長い睫毛で流し目の似合う美丈夫。
自他共に認める見目麗しさだが、王太子としては誠実さが不足している。
ニール自身も自己の身分を、荷が重いと実感している。
12歳の時に辺境伯地周辺へ狩りに出た際、大熊に襲われ1人はぐれた時騎士団に救われる。
アナスタシアとはそこで、騎士団の一人として出会った。
母上(王妃)は甚く感動し、婚約の運びとなってしまう。
最初は鎧を着ていたので解らなかったが、兜を外した彼女は母上の大好きな男装の麗人(少女だが)そのものだった。
今より幼い頃から聞かされていた英雄。
才色兼備なアナスタシア。
あの場所で出会わなければ、きっと僕とは結ばれることなど無かったはずなのに。
何度もお茶会やお出掛けし、彼女のおっとりとした性格には好感が持てた。
結婚した後もそれは変わらない。
婚姻前からの城下への視察にも口出ししてこない。
もしかしたら彼女は、僕には何も期待していないのかもしれない。
そう思うと、とてつもなく虚しくなることがあった。
そんな時に声を掛けてくれたのが、現第二王太子妃だった。
彼女だって、僕の地位にすり寄ってきた1人かもしれない。
だけど、独りよがりで空気の読めない駄目駄目な少女に、どうしようもなく安心感を感じてしまう。
影の調査で僕たちのことは知られていたはず。
それでも制止はされなかった。
さすがに仕事も満足にせずアナスタシアに頼りっぱなしの奴が、第二王太子妃を娶りたいと言った時には皆に反対された。
アナスタシアは僕を責めず、ただ悲しそうにしていた。
どこまでも優しい妻。
いっそ泣き喚き、詰ってくれたら僕も考え直したかもしれない。
その時にはもうアナスタシアは懐妊していたし、1人息子である僕は廃嫡されることもなかった。
後継者問題の可能性も考えたが、それでも第二王太子妃を迎えたのだ。
その後アナスタシアは、一時的に部屋に籠り衰弱気味だと聞いた。
原因である僕は、見舞いには行けなかった。
一連の出来事は、妊婦には負担になったのだろう。
3か月後、第一王子が無事誕生した。
僕とお揃いの金髪碧眼で、キリッとした目元はアナスタシア似だ。
この子が無事に育てば、後継は安泰だろう。
ただ1年後にジリアンも第二王子を出産した。
僕さえいれば何も要らないと言う彼女だから、ロビンの為に王位を狙うとは思えないが。
それから暫くして、母上とアナスタシアが一緒にいることが増えた。
部屋に籠っていた彼女も、子が産まれ強くなったのかもしれない。
歌劇ごっこだと言うが何をしているのかは解らないし、知る権利もないと思う。
立派に公務をこなす彼女らに、意見をするつもりはないからだ。
ただ最近、ジリアンが以前より素っ気ない。
ロビンに付きっきりだ。
桃銀の髪で碧眼の美男子に。
暖が足りない僕は、高級娼婦に抱きしめてもらいに城下へ行く。
子供より自分を優先させたがる僕は、大人に成りきれていない。
真面目にやって駄目だと言われるのが怖い。
だから、まだ実力を出してない感で自分を誤魔化している。
シャツにスラックスのラフな姿で朝昼兼用の食事を摂り、中庭の薔薇園をふらふらと散策する。
すると1人の少女が、こちらに駆けてくる。
不思議と懐かしい気配を感じた。
何やら叫んでいるぞ。
立ち止まって耳を傾けると、怒声だった。
「ちょっと退きなさいよ。 邪魔だよブロディ!」
「えっ」
と言う間に少女に蹴り飛ばされた。
背後からドタドタドタッと重低音な足音で、ブラッディアロサウルスが追いかけてくる。
「なんで? ここにブラッディアロサウルス(魔物)が」
「エリザベート。 投げるよ!」
「はい。 バッチこいです!」
え! アナスタシアがプラチナの騎士服を着て、ブラッディアロサウルス(魔物)の尻尾をつかんでブン回してる。
「うおぉりゃー!」
ふぇ! こっちに投げてきた。
ちょっと、僕にぶつける気なの?
「来いっー!」
うぇー! なにこの少女(子)、バットでブラッディアロサウルス(魔物)打ち返したよ。
「ぐうぇ」
なんだよコレ?
???だらけの中、少女がバットを打つ瞬間に踏ん張った右足で、背中を踏みつけられた僕はそのまま意識を失いかけた。
「嫌ー!! ちょっとニール、なんでこんなことに居るの? しっかりして」
遠くからアナスタシアの叫び声が聞こえる。
「え、この人王太子様なんですか? わ、わ、どうしよう。 すみません、踏んじゃった! てっきりブロディかと思って避けないでしまったわ」
さっきからブロディ、ブロディって。
あれ? 僕昔ブロディって言われてたような?
ここまで考えた所で、完全に意識を手放した。




