地味顔の魔女は、自由に生きたい
3/26 45話も書いているのですが、ほとんど恋愛がないのでコメディーに変更しました。自分でもコメディーで書いていると思っていました。
今さらながら変えております(^^ゞ
R7、3/9 15時 誤字報告ありがとうございました。
大変助かります(*^^*)
「おぎゃーおぎゃー」
その日待望の女児出産に、ファンブル公爵家は歓喜に沸いた。
命名『エリザベート』
「お疲れさま、メアリー。 よく無事に産んでくれた。 愛してるよマイハニー」
赤ん坊を抱く女性に駆け寄り、頬に唇を落とすのはブルーノ・ファンブル。
赤ん坊の父親である。
メアリーはブルーノの妻で公爵夫人。
2人とも学生時代に大恋愛して結ばれ、今尚ラブラブカップル(いちゃいちゃを諌めても聞かず今や放置状態)である。
元気で産まれた喜びに、赤ん坊の顔については触れずに経過。
美男美女カップルの子供にしては、驚くほど華がない。
まあ、産まれたばかりだし、顔は変わるものだからと言って1ヶ月が経過した。
相変わらず元気で過ごす赤ん坊。
赤ん坊を可愛がる公爵夫人と乳母。
世界一可愛いと、赤ん坊を抱き上げて惚気る公爵。
しかし、公爵夫妻の父母・祖父母や使用人達は気づいていた。
『『『『世界一可愛いわけではない。 むしろ地味顔!』』』』
決して不細工ではない。
顔のパーツも綺麗に位置しており、穏やかで優しそうではある。
ただ圧倒的に夫妻に似ていないのである。
あるべき華がないのだ。
当の公爵夫妻は全く気にしていないが、貴族社会で女の子は政略結婚で嫁ぐか婿をとる立場にある。
地位や名誉や資産も大事だが、本人の魅力も大事な要素である。
同じ条件であった時、容姿はどうしてもプラス1要素になるだろう。
後継問題は、今後全ての者の生活にかかってくる。
繁栄か衰退かは大問題。
直接的な失礼は言えない。
だから間接的に回りは言う。
「可愛い女の子ですね。 大事に大事に育てましょう。 何かあっては一大事。 邸で箱入りで育てていきましょう。 そしてこの子が跡取りという重圧等で心痛まぬように、是非とも男の子もお願いね」等と声がかかる。
この子を跡取りにするのは・・・・・なるほど大変だわ。
愛に溢れる公爵夫妻は、この後も子宝に恵まれた。
エリザベートの後、長男ウィリアム、次男ジョージ、次女イゾルデ、三女シーラと続いた。
長女のエリザベート以外は、皆父母の良い所を受け継ぎ見目麗しい。
後継者問題は一先ず安泰と、周囲は落ち着いていた。
公爵夫妻は、1人だけ似ていないエリザベートを一際可愛がる。
それには公爵夫妻だけが知る秘密があった。
その昔、公爵がまだ5才の時実母が亡くなり、その後父が再婚。
継母となった元公爵令嬢タルハーミネは、見えない所で嫌味を言う女だった。
本当の自分は後妻で嫁ぐことなく、王子と結婚するはずだった。
仕方なく嫁いでやったのだから、余計なことはせず言うことを聞けと言う内容を、丁寧なオブラートに包み幼子に吐き出す。
なんのことはない、王子妃候補から振り落とされここに嫁いだだけなのだ。
ブルーノ以外にはにこやかに接し、さすが元公爵令嬢と持て囃されるが、夫となった父ヴァルモンは影から(の情報で)全てを聞いていた。
所詮政略結婚であるが、息子への非道では許されないこともあるのだ。
その為ヴァルモンも社交以外では深く関わらず、閨を共にしたこともない。
下手に男児が生まれれば、ブルーノを亡き者にしようとする輩が現れるだろう。
かといって離縁はできない。
タルハーミネは母は前王の妹の子。
王の従妹にあたるからだ。
そこで、ブルーノを領地にいるブルーノの祖母のラリサに預けることになった。
ラリサの体調が悪いので、お見舞いで滞在する名目でと。
本当はラリサはピンピンしている。
魔女の力を持つ彼女は、煩わしい社交が嫌いでここに逃げて来ていたのだ。
その弟子が今の公爵婦人メアリーなのだ。
2人は周囲には内緒で、子供時代を仲良く過ごしていた。
大人になっても交流は途絶えず、学生時代の恋愛に繋がる。
彼女の実家は貧乏男爵家で、ラリサの所にもほとんど奉公のように出されていた。
田舎で療養する、前公爵夫人の侍女となるように。
まあ、蓋を開ければラリサは元気で、薬草から回復ポーションを作りギルドに売って大儲け。
なんたって魔力持ちなので、呪文を唱えて作る薬は効果抜群である。
薬草なんて領地の畑に生えてるしで、元手いらずなので王都にいるより稼ぎが良い。
ラリサの夫は、そのまま王都のタウンハウスで愛人と生活中。
因みにラリサが魔女であることはばれていないので、領地で細々と暮らしていると思っているのだ。
勿論お見舞いなんてこない。
この老齢夫婦に愛なんてなかった(ある者も勿論いるが)。
ラリサは邸の地下に別室を作り、夫や親戚にもばれずに贅の限りを尽くしていた。
装飾・食事・衣類・書物等々。
半ば売られたようなメアリーに、子供のように教育を施すラリサ。
稼いだお金もギルドに大半は寄付し、教育や治療費、育成に回して貰っていた。
ギルド長は幼馴染みで面倒見の良い男だったので、横領されず還元される為、領地は目まぐるしい発展を遂げていた。
表向きは公爵領が潤っていることがばれぬように、ギルドには寄付のことは伏せて済ましてもらった。
潤っているとわかれば税金で国に持っていかれるだけだ。
それなら貧しい者へ、手の届く所だけでも還元したい。
だって元々、ポーションを売らねば得なかったお金だ。
好きにさせて貰いたい。
エヘン(笑)。
と言うことで、自宅地下は王公貴族並みの部屋と調度品で溢れ、ブルーノやギルドの鑑定士の目利き練習として活用された。
元気で侍女なんていらないラリサは、メアリーもそこに突っ込み勉強させた。
ブルーノの家庭教師には、メアリーにも教育を施してもらう。
侍女に来ておきながら、立派な淑女教育を受けることになったメアリー。
メアリーが毎日するのは、お風呂で大好きなラリサの背を流すことだけである。
ブルーノとメアリーは、ラリサの本当の子供のように穏やかに過ごした。
たまには喧嘩し、泣いたり笑ったり、毎日あっという間だ。
お互いが大事で、生まれた時からずっと一緒であったように感じている。
瞬く間に数年が経ち、ブルーノが学校へ通う年となる。
それに併せて、メアリーを正式に男爵家からギルド長懇意の伯爵家へ、養女としてから学校へ入学させたのだ。
穏やかに過ごすも歳には勝てず、ラリサも臨終の時を迎える。
その時、ブルーノとメアリーは打ち明けられる。
「今度の転生先は、お前の子供かもしれない。
もしそうなら、今と同じように右手の付け根に星のあざと、今と同じ顔で生まれるだろう。
私は毎回記憶を持って生まれ変わっている。
もし可能なら、物心がついて記憶を思い出すまで保護して欲しい。
記憶が戻れば旅に出て自由に暮らしたいんだ。
良いかい?」
ブルーノもメアリーも、うんうんと強く頷く。
「ありがとうね。 この地味顔と右手のあざが目印だよ。 頼んだよ。 この邸はあんた名義にしたから好きにしな。 泣くんじゃないよ2人とも。 何年かしたらすぐ会えるよ。 元気でね」
そう言って逝ってしまった。
2人は泣いたが、すぐ笑った。
大好きな人に会えるのを、指折り数えて楽しみに待てるのだから。
そして産まれたエリザベートである。
育ての親と子が同居した存在。
溺愛するなと言う方が無理である。
しかしそんな存在に、勿論波乱は必須なのであるが。
どうなるエリザベート!