君の名を呼ぶ
男は腕の中にぬくもりを感じながら、愛しい人の名を呼んでいた。
「如月……」
湿ったか細い声は震えている。
名を呼ばれた女は優しい笑みを浮かべ、泣き顔を見せる男の頭をそっと抱き寄せた。
「水無月君……愛してる」
「ッ! 今はそんなこと、そんなことどうでもいいんだよ!」
場違いな発言をする女に、男はバッと顔をあげ女の顔を覗き込み身体を強く抱きしめた。
女はそれがなんとも嬉しかったようで。
「冷たいなあ」
そっけない返しにも関わらず、女は力のない微笑みをこぼした。
最後まで変わらないなあと少し呆れた様子でもある。
真剣な表情で自分の顔をまじまじと覗く眼差しから、女は頬を少し赤らめて視線を逸らす。
そして、
「私は、あなたの支えになれましたか?」
そう不安そうに男に問うのだった。
「当たり前だ。お前がいなきゃ俺はここにいない。お前がいたから! 俺はここまで頑張れた。だから、だから頼む、頼むよ……俺の前から、また消えないでくれ」
男の答えに、女は満面の笑みで応えた。
「ありがと、水無月君」
優しく男の顔を包んで、唇を添えた。
「如月……きさらぎぃ……俺は、俺は、お前のことが好きだ、厳しくしてくれるところが好きだ、つらいときは甘えさせてくれるところが好きだ、積極的に愛を伝えてくれるところが好きだ、声が好きだ、目が好きだ、艶やかな黒い髪が好きだ、すらっと伸びた手が好きだ、愛してる、心の底から愛してる、15年前のあの日からずっと愛してる、積極的に迫ってきてくれることが嬉しかった、求めてくれることが嬉しかった、一緒に出かけるだけで楽しかった、一緒に悩んでくれるだけで心強かった、いつもは即断するのに服選びでは眉ひそめながら時間のかかるお前が可愛かった……」
男は自分の声が枯れるまで愛を囁き続けた。
熱い、煮えたぎる血を全身に浴びながら、腕の中の冷たい愛し人に向け、枯れ果てるまで永遠に……