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06. お色気担当攻略対象

「ねえ、殿下、こっち見てるよ」

「えー?私達じゃないでしょ。見てるのはきっと、サラちゃんよ。新入生の」


 私たち保健委員がいる救護テントは、競技場を挟んでVIP席のちょうど反対側。カルがいる位置からは、少しだけ下にはなるけれど、ほぼ真正面だ。

 別に見たくなくても、競技を見ていれば、自然と目に入ることになる。


 今日は学園の競技大会。もちろん、競技をするのは男子のみ。淑女はスポーツなんてしない。だから、応援するだけの存在。


 ……そりゃ、男子は張り切るよね。


 私は重傷者が出た場合だけ、力を使うことになっている。かすり傷とか打撲程度なら、別に治癒を施す必要はない。

 そんな大怪我なんて滅多に出ないから、今日は気楽なもんだ。


「ああ、あの子か。生徒会の勧誘を断って、うちに来たんでしょ。珍しいよねえ」

「うん。優秀な子だから、お医者さんとかを目指しているんじゃない?医療現場みたいなところで、実践を積みたいのかもね」


 私達はちらっと、白衣を着てニコニコしながら、怪我人の傷の消毒をしているヒロインを見た。


 スタイルいい美人が白衣とか、プレイな感じで凄まじくエロい。会場中の男子の視線を集めていると言ってもいい。

 もちろん、私の婚約者である、カルロス第一王子もそのうちの一人だ。


「やあ、みんな。お疲れ様。差し入れ冷えてるよ。取って飲んで。この日差しだし、水分補給は必須だよ」


 出たな、お色気担当攻略対象。匂い立つような大人の色気を漂わせ、長く伸ばした黒髪を後ろで結んだ超絶美貌のイケメンが、甘い笑顔を浮かべている。


 養護教諭が若い男って、この学園はどーなってるのか? そこは、癒し系のお姉さんキャラ教諭を配置するところでしょう!


 だいたい、男性教師には普通、ろくなやつがいない。それなのに、身近にいる大人というだけで、ティーンな女子生徒に一方的に憧れられるという特典が存在する。そして、少なからず、女子生徒に手を出す教師もいる。ロリコン!


 うん、まあ、生徒にしかモテないんだから、そうするしかないのかもしれないけど。


 しかし、この養護教諭は本当にイケメンで、しかも医者。専属の医者を雇うなんて、貴族の学園、どれだけ金あるんだ。


 まさか、ヒロインとのお医者さんゴッコ要員?


 ダメダメ!ヒロインの貞操は私が守る!だって、彼女はカルのものなんだから!


「お気遣い、ありがとうございます。ここは私が見ていますから、先生はVIP席のほうにいらして大丈夫ですよ」

「君がいるから、余計に心配なんだよ。この間も、倒れたばかりだ。ここは日差しが強いし、僕の診療室で休んだらどう?ベッドもあるし、ゆっくり休憩できるよ」


 何よっ?そんな色っぽい流し目で誘われて、一体どこの誰がそんな危険な場所に行くと言うのよ!ありえないわ、このエロ教諭!


「結構ですわ。おかげさまで回復しましたし、今はすこぶる元気ですから」

「そう?こんなに真っ白な顔して、体温も低い。温めてあげようか?」


 そう言って、エロ教諭は人差し指の外側をつかって、私の頬をなでた。


 背筋に悪寒が走る。き、キショクわるっ。


 この人、絶対にナルシストだ。自分の姿に酔ってる!セクハラというか、生徒にそういうことを言うのはもう犯罪の域!うせろ、悪魔よ!


 パシッとその手を払ったとき、周囲でバタバタと保健委員が倒れた。


 なんだなんだ?まさか差し入れの飲み物に毒が?ありえないっ!どこまで鬼畜なのよ、この男。こうやって、何人もの女子を診療室のベッドに誘い込む気なの?


「みんな、大丈夫よ!今、浄化するから。助けるからっ!そのまま動かないでっ」


 鬼畜医の差し入れを飲んだのは、ざっと見ても二十人。まだ倒れていない子もいるけれど、全員を解毒しておかなきゃ。急がないと手遅れになる!

 もう、保健委員全員向けて、力を使うしかない。


 私はパアっと浄化の光を放出して、周囲の様子を見た。かなり力を出しているのに、倒れた子たちは起き上がらない。それでも、さっきより患者は増えていないので、きっと効いてはいるはず。


 でも、なんで回復しないの?手遅れ?


 いえ、そんなことはない。この男の目的は体!命を狙っているわけじゃない。

 もしかして、すでに毒で内蔵にダメージがあるのかもしれない。それなら、浄化じゃなくて治癒だ。そっちも足さなくちゃ!


 更に力を込めようとしたとき、目の前にピンク色が飛び込んできた。


 え?何?サラちゃん?いよいよヒロイン登場?


「アリシア様!これ以上はダメです!みんな仮病なんだから、いくら癒やしても無駄なんです!」


 え?何それ、どういうこと?


 私はすうっと力を収めた。なんとか倒れないでは済んだけれど、気が抜けてその場にへたりこんでしまった。


「仮病って。それって……」

「すみません。たぶん、みなさん、診療室に行きたいんだと思います。その、先生と色々と……用事があるみたいで。保健委員会は、先生のファンクラブ的な要素もありますし」


 えーーーー! そうなの?そうだったの?


 そう言えば、診療室の仕事は立候補で、去年は私には当番が回ってこなかった。じゃあ、保健委員は診療室で、すでにこの男の毒牙に?


「先生、まさかと思いますが、診療室で女子生徒に、い、いかがわしい行為を?」


 私のその質問に、鬼畜医は余裕の笑みを浮かべて、こう答えた。


「ひどいなあ。聖女さんもサラちゃんも。僕は18歳以上の大人と、同意の上でしか付き合わないよ。嘘だと思うなら、ここにいるみなさんに聞いてごらん」


 くっ、新学期が始まったばかりで、まだ18歳な二年生は学年でも数人だ。つまり、鬼畜医と関係を持った子は、ここにはいない。


 そうか、一年生だったから、私にも当番が来なかったんだ!よく考えてみれば、一年生はパシリ……じゃなくて見習いとして、主に外勤だったわ。たとえ聖女であっても!


 卒業していった先輩方。いろんな意味で、大人になって巣立っていかれたの?

 そういえば、今倒れているのはみな二年生。次のハーレム入りを狙っている子たち?


 なんという風紀の乱れ!いや、いや、いや。いくら大人だと言っても、教師と生徒でしょっ!漫画じゃないんだから、保健室でヤるなっ!


「先生、この件、ちょっと持ち帰らせてください。生徒会長にも相談したいので」

「聖女さんは心配性だなあ。診療室にはいつも患者がいて、君が思っているようなことは不可能だよ。それより、体が辛そうだ。少し休んだほうがいいね」


 そういえば、へたり込んだまま、足が立たない。サラちゃんが支えてくれているから、なんとか座った状態ではいられるけれど。


 私を立ち上がらせようとしたのか、鬼畜医が伸ばした手を、サラちゃんがパシッと払った。おお!ナイス・リアクション!


「アリシア様に触らないでください。聖女様に触れていいのは、カルロス様だけです!」


 えー?いや、カルにも別に触らせてないけど。


 それにしても、この展開はちょっとまずい!自分に靡かないヒロインに興味を持つ美貌のエロ養護教諭。これ、この鬼畜医とのフラグじゃないの?


「じゃあ、サラちゃんも一緒に来たらどうだい?聖女さんが休んでいる間に、付き添ってあげればいいだろう」


 それじゃ、サラちゃんが危ないじゃないの!絶対にそれはダメ!


 カルが触れるまで、サラちゃんはサラッサラのまっさらでいてもらわないと!

 多摩川に晒す手作りさらさらにって序詞付いちゃうくらい、サラちゃんは更にカルにがっつり愛される予定なんだから!

 その前に、こんな男に摘み取られてなるものかっ!


「私は大丈夫です。もうお昼ですし、休憩は自分で取りますから。みなさんも、持ち場に戻ってください。まだ、怪我人のお世話があるでしょう?」

「強情だなあ、聖女さんは。でも、その真面目で健気なところは、ますますいじらしいね。卒業前に18歳にならないのが残念だ」


 キモっ!なんで私の誕生日を知ってるのよ。それ、個人情報でしょう?


 やはりこの男は要注意人物。ヒロインのサラちゃんはまだ16歳だと思うけど、油断はできないわ。


「サラちゃんも、もういいわ。ありがとう。一人で立てるから。私のことなんかより、自分の身を守ってね」

「人のことより、自分のことが先だろ」


 鬼畜医やサラちゃんを含めた、この場にいた全員が、その声の主を振り返った。


「シア、迎えにきた」


 そう言って手を差し出したのは、紛れもなくこの国の第一王子。私の婚約者のカルだった。


 え?迎えにきたのは、私なの?サラちゃんじゃなくて?


 飲み込めない状況にすっかり混乱した私は、うっかりその手を取ってしまった。

 あ、これフラグだ。ここでカルが助け船を出すのは、本当はヒロインのはずだったのに、また邪魔を?


 悪役令嬢ってすごいお邪魔虫。やっぱり私は、ここにいちゃいけないんだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 連載中の作品じゃなくてすみませんが、ずっと気になっていた代表作のほうを先に読み始めました。 アリシアさん、スピンオフではしっとり美女なイメージでしたが、けっこう親しみやすい感じなんですね。…
[良い点] スタンダードな悪役令嬢に聖女物なのに、途中から日置節がバシバシ入ってくる(笑) アリシアの視点で読んでるのに、日置さまが読み聞かせをしてくれているかのようです(笑) そこがまた味がある…
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