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11. ストーカーと軟禁生活

「本当に元気になって良かったよ。もうすっかり回復だね」

「うん。ごめんね、心配かけて」


 競技会から一週間ほど、私は絶対安静を言い渡された。


 学園の診療室はあっという間に集中治療室と化し、最終的には正神殿から神官様が来て、癒してもらった。

 大聖女の称号を冠しているくせに、同僚のお世話なるとか、迷惑甚だしい。


 それでも、今の神殿の様子とか、神皇様の意向とか、色々と情報収集できたので、ヨシとすることにした。

 結果として、神殿はすぐにでも私を受け入れてくれることが分かったから。


 カルは毎日お見舞いに来てくれたけど、結婚のことも婚約解消のことも、あの事件の真相についても、もう一切触れなかった。


 私たちの関係は、特に前と変わっていない。ただ一つ、カルの変化を除いては。


「それにしても、殿下の執着、ますます強くなったね。気持ちは分かるけど」


 ニナに言われるまでもなく、カルは今では、学園中が呆れるほどのストーカーぶりだった。

 いや、婚約者なのだから、別に迷惑行為と言うわけじゃないんだけども。


「なんか、私がまたバカなことしないようにって、たぶん見張ってるの。信用されてないみたいで。あー、監視中?」

「溺愛中……の間違いでしょ。なのに、あんたとの温度差がイタいわ。みんな、殿下の切ない恋を密かに応援してるよ」

「私は普通だよ。カルだって別にいつもと同じ。ただ、どこでもくっついて来ちゃうのは、困ってるけど」


 庭でピクニック・ランチしている今も、カルは会話が聞こえない程度にちょっと離れたベンチに座って本を読んでいる。

 それでも、私たちは、ガッツリ彼の魔法結界の中だ。


「あのさ、もう諦めてさっさと殿下と結婚しなよ」

「無理。卒業までは」

「はあ? もう同棲してるのに?むしろ結婚してないのに、ダラダラ関係持ってるほうが、聖女としてはどうかと思うけど」

「ちょっ! 変なこと言わないでよ、ダラダラなんてしてないっ! カルと同居してるのは、あくまで療養ってことで」

「もう療養なんて必要ないじゃない。あれから一ヶ月だし、同棲して三週間くらいでしょ。殿下はもう、あんたの旦那のつもりみたいだけど?」


 集中治療室を出たときには、寮にはもう私の部屋はなかった。私の私物はそっくりそのまま、カルが使っている王族用の部屋に移されていて、私はそこでしか生活できないようになっていたのだった。


「お前が、あんなバカなことするからだろ。これは国王命令だ。聖女の身を守るのも、王族の務めだからな」


 そう言い切られてしまうと、文句の言いようがない。勅命には背けないし、バカなことをしたのも私だし。


 あのときはカルが心配だったので、あまりよく考えずに、ありえない護符を施してしまったのは事実。

 実際、あの後で他に怪我人が出ていたら、私の癒やしが使えなかった。それでは、私が救護のために待機していた意味がない。


 私欲に目がくらんだ、私のミスだ。たまたま他に怪我人がいなくてラッキーだった……では済まされない。今回の件を、私は深く深く反省しているのだ。


 でも、それとこれとは話が違うと思う!


「はっきり言って、息が詰まるよ。プライバシーとかないし。お手洗い以外は」

「うん、聞いてるよ。お風呂のお湯加減まで、殿下がチェックするとか」

「えっ!なんでそんな話っ?あ、メイドさんか……」


 ニナは、それについては黙秘を決め込んだ。


 まあ、だいたい想像はつく。貴族の令嬢にはみんなメイドさんのお世話がつくし、王族は男子でもつく。

 つまりは、殿下と私の生活はメイドさんたちにバッチリ見られている。


 もちろん、守秘義務はあるけれど、人の口に戸は立てられないというのは、どの世界にもあることだ。

 王子も聖女も公人なので、ある程度のリークはしょうがない。


「ニナってば、じゃあ、色々知ってるんじゃないの。同棲じゃないってことも!」

「うーん。寝室は一緒だけどベッドは別とか、熟年夫婦?でも、お風呂は一緒だから、ガッツリ新婚?」

「違うっ!一緒じゃないよっ!カルは衝立の後ろで、本を読んでるのっ!それは、メイドさんが証人だよっ!」


 うー。なんでこんなことに。


 カルは絶対に意地になっている。いや、意地悪になっていると言っていい。それって、求婚を断ったから?メンツ潰されたから?


 結婚のことは、一応、卒業まで待ってくれる気らしい。私の希望の「清い関係」についても守ってくれている。


 でも、それ以外は、ほぼ軟禁状態!


 カルがいる同じ空間で脱衣とか、カルが触ったお湯に入浴とか、どんだけ恥ずかしいか。メイドさんが一緒にいるとはいえ、本当に最悪な羞恥プレイだよ。


 衝立の向こうでカルが何を考えているか、想像すると悶絶するし、メイドさんも絶対に同じ気持ちだと思う。だって、いつもみんな顔が真っ赤だもん!


 もう、いっそ二人きりのほうが、まだマシだと思う。本当にやめてほしい。


 でも、これももうすぐ終わるはず。


 来月末にある創立祭のパーティーで、カルは噴水広場でヒロインとダンスを踊る。たぶん会場には婚約者の私がいるので、彼らはこっそりと野外で踊るという王道設定。


 いや、私、パーティーは欠席してもいいんだけどね。


 でも、そうなると、カルは別のパートナーを連れていかなくちゃいけないし、その子がカルとヒロインが会場を抜け出すのを見逃すとは思えない。


 うーん。どうするのがいいのかな。


「ねえ、創立祭パーティーなんだけどさ、私の代わりにカルと一緒に参加してくれるとか、あり?」

「なし。絶対イヤ。あんたの代わりとか、冗談キツい」


 たしかに、カルの社交に付き合うのは大変か。隣でニコニコ笑っているのだけでも、もう本当に疲れるしね。王族って可哀想だなって思う。


「そっか。誰かいないかなあ。あ、サラちゃん!彼女がいいな。美男美女でお似合いだし」

「本気で言ってる?殿下に殺されたいんだね、あんた」


 いや、だってさ、どうせなら、野外じゃなくて会場で踊ればいいじゃん。そのほうが手っ取り早いし。

 二人の仲もすぐ噂になって、なんとなく私たちの婚約は自然消滅的に消えてくれれば、イベントにならない可能性が高いよね。


「だって、私がパートナーになる意味ないもの。カルは私とはダンスしないよ」

「なんでだろうね。あんたのダンス、セミプロなのにね」


 ふふふ。この世界はスペイン・テイスト。すべての舞踊にはフラメンコの要素が入っているのよ。

 もちろん、ものすごく楽しんで練習したよ。だって、好きなんだもの。ギターで踊るスペイン舞踊。


「うん。まあ、聖女らしくないからじゃないかな?王族も聖女もイメージ勝負みたいなことあるし、きっとそういうの気にしてるんと思う」

「そっか。じゃ、またレッスンだけ行こうよ。先生もシアのこと聞いてると思うし、心配してるんじゃない?」

「行きたいっ!あ、でも、外出できるかな。無理かも」

「えー!シア、全然楽しいことないじゃん。仕事と勉強ばっかり?青春ないね」

「そりゃ、聖女だからしょうがないよ。まだカルの婚約者だし、王族関係者が遊んでばかりじゃね」

「ってか、シアって遊びゼロじゃん。ダンスくらい……」

「いいのいいの。カルも遊んでないんだし、もう働くのも慣れたよ」

「そっか。婚約解消できたら、シアにも少しは自由な時間ができるのかな」


 最後にニナが、そうつぶやいた。


 それをカルに聞かれていたのかもしれない。なぜって、その後から何やらカルが、おかしな行動をするようになったのだから。

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