5.私はお仕事場を愛する1
私の職場は大都市の中心、摩天楼の金融街。郊外の自宅からラッシュの公共交通機関を乗り継いで他のサラリーマン同様、足を踏まれ、汗だくになりながらの通勤だ。
再開発で真新しい金融街のビル群は、法令により小さな公園のような木々に囲まれており管理会社によって害虫害獣駆除や全館空調による温度管理がなされ、働く人間が快適に過ごせるよう人工的に完璧に整えられている。真夏日の外からエントランスフロアに入るとひんやり(といってもISO14001批准のせいで全館28℃から動かせないわけだが)とした空気に汗が引く。駅の改札にも似たゲートにID社員証をかざし、ずらりと並んだエレベーターから高層階行きに乗ったら街を見渡せる眺望のオフィスに到着だ。
課内でおはようと声をかけあい、デスクでノートPCを立ち上げようと開けると、以前コラボで作成した女学生が好んで使用しそうなキャラクターもののポストイットが挟んであった。
[1課長天川さん 朝一で部長室に来てくだ
さい。]
ほいほーい、と言いながらメールを確認し、課内に離席を告げる。
部長室をノックすると、「入ってー」という明るくのんびりした部長の声がした。既に中には2課長の中条君がいる。ああ新人配属の件だな、と勘づいた。