2.お一人様満喫中
しゅるり、しゅるりという音とともに初夏の朝の柔らかい日差しが、私の顔をあたためて目が覚めた。設定していたアラーム音楽とざりざり顔をなでる猫の舌
「アレクサ、音楽、ストップ」
アラームを止め、介護用にも使えるシングルベッドから身を起こす。愛猫のアーサーがぴょいっとベッドから床に降り立ち、はやくごはん、はやくと言いたげに振り返り振り返り、ダイニングにむかっていく。今流行のバリアフリーの建売スマートハウスを三十路に入ってすぐ購入したときは親族から結婚するのか?、とか相手は?とかいろいろ言われたものだが、里親募集会でこの猫を見初めて飼い始めてから、何も言わなくなった。
猫を飼い始めるのはもういろいろ望みがないことらしい。なんだそれ、である。
前生であるエルのときからプライベートスペースに他人が入ってくるのが苦手だった。全身世話されて観察されて当たり前の貴族にあるまじきことである。前夫のアーサーは奇跡的に一緒にいて苦痛じゃない人間だった。アーサーはエルにとって性交渉付のすごく気の合うルームメートといった人だった。私も多分一緒にいてこんなに楽な人は他に現れないと思ってしまった。彼とは多分もう会えない、無理やり他の人と沿うよりは一人が楽、なのだ。
すりすりと足の間をまわる猫を避けつつカリカリを皿にあけ、会社に行くための身支度をする。
エルのときは一日三四回着替えや化粧の直しをするためだけの侍女がいたが、いまはDo myself!だ。面倒なので、同じパターンのスーツを5着と白いブラウス10着で回している。女子力とか数値化されたら赤点をとる自信しかない。
毎朝の通勤ラッシュでなけなしの化粧がボロボロになろうが、踏まれた足が痛もうが、それでもオフィスのデスクで仕事をこなしているとこう思うのだ
自分でコントロールできる人生は素晴らしい、と