あの日あの時の、短い夢を永遠へ
昔々というほども遠くなく、また昨日というほどにも近くなく。
あるところに、寒い冬の特別な聖夜にだけやってくるおじいさんがいました。
名前を、セント・アウグスト・ベネディクトゥス・カール・ゾフィー・ニコラウスといいましたが、長すぎて誰も覚えられませんでした。
だからみんな、彼を「サンタさん」と呼んでいました。
月めくりのカレンダーが最後の一枚になると、子どもたちはそわそわし始めます。
「おばあさん、荷物持ってあげようか?」
「お母さん、何かお手伝いない?」
「まったくもう、こんな時だけ良い子になるんだから」
そういうお母さんも小さかった時は、今の子どもたちと同じだったのはナイショの話。
そしてとうとう、聖夜の日がやってきました。
子どもたちは窓から夜空を見上げて、その時を今か今かと待ちわびていました。
シャン、シャン、シャンッ……。
サンタさんの足音が聞こえてきました。
子どもたちはわぁっと歓声をあげて外へ走り出しました。
目指すのは、たくさん飾りをつけてライトアップもした町の入口にあるモミの木です。
サンタさんへの目印であり、来てくれてありがとうという感謝を込めた木。
その上にサンタさんは立って、手を振ってくれていました。
「やあ、みんな。こんばんは。今年一年、良い子にしてたかな?」
『はーい』
たくさんの子どもたちの声が揃いました。
「よしよし、えらいぞ。それではそんな良い子たちにごほうびじゃ」
サンタさんは担いでいた大きな白い袋に手を入れて、
「そぉーれ!」
金色の光を空へまきました。
それはいくつもの流れ星となって、子どもたちの家の煙突へと吸い込まれていきました。
「さあ、今きみたちの家にプレゼントを隠したぞ。がんばって探してみなさい。きっと、喜んでくれると思っているよ」
『わーい! ありがとう、サンタさん!』
子どもたちは来たときよりも速く、家へ駆け戻っていきました。
サンタさんはそれをニコニコと見送って、次の町へ移っていきました。
フリードリヒは、家に駆け込むとまず靴箱を開けました。
それから階段下の物置を探して、庭の隅々まで見て回りました。
そして、植木鉢の後ろに隠されていたプレゼントを見つけたのです。
「やったー! ずっと欲しかった新しいブーツだー!」
まだ小さいディアナの探しっぷりは、それはもうすごいものでした。
おもちゃ箱をひっくり返し、クローゼットの中をかき回し、家中を走り回って、最後はベッドに飛び込んでいました。
「あっ、あったゃ! ディーナのおにんぎょさん!」
謎解きが大好きなマクシミリアンがまず向かったのは、お父さんの部屋でした。
なぜならここには、たっくさんの本があるからです。
「ぼくが欲しいのは最新の図鑑だからな。木を隠すなら森の中ということさ!」
結局プレゼントを探しだせたのは、次の日の朝になってからでした。
お母さんのお化粧道具に興味津々な、ちょっとおませなテレーゼ。
テレーゼだけのお化粧道具はいったいどこにあるでしょう。
枕の下や引き出しの中、鏡の後ろ、イスの裏、カーペットの下まで探して……。
「わあ、かわいいコンパクト! なーんだ、コートのポケットの中にあったのね!」
ローレンツは今年12歳。サンタさんからプレゼントがもらえる最後の子どもの歳です。
大人になりつつあるローレンツには分かっていました。
どれだけ良い子にしていても、去年死んでしまった両親は帰ってこないということを。
だから、みんなが楽しそうに宝探しをしている間も、ずっとベッドで耳をふさいでいました。
それから、どれくらい経ったでしょう。
「……」
周りがすっかり静かになった頃、ローレンツはふと起き上がりました。
分かっています。死んだ両親が戻ってくることはないんだって。
それでも気がつけば、足と手が勝手に動いて家の中を探しまわっていました。
そして暖炉の中をのぞこうとしたとき、マントルピースの上に目がとまったのです。
「これ、僕の誕生日のっ……⁉」
それは、家族三人で食事をしている写真でした。
両親に祝ってもらえた、最後の誕生日。
「は、ははっ……」
ローレンツの目から涙が溢れてきました。
悲しいから? いいえ、嬉しかったからです。とてもとても、嬉しかったのです。
写真を撮るには、たくさんのお金がかかります。
それに、一時間ぐらいじっとしてなければなりません。
だから本当なら、有り得ないのです。
こんな、温かさも笑い声も、全てが目の前に蘇るような写真があるなんて。
「ありがとう、ございます……。サンタさん……」
死んだ両親はやっぱり帰ってこなかったけれど。
誰よりも何よりも幸せだった瞬間を切り取ったこの写真は、想い出そのもの。
色褪せない願いがつまった至高の宝物でした。
「絶対、絶対、僕が死ぬまで一生! 大切にします!」