金の髪が生える女の子
私は子供の頃から金の髪が生える。
どこへ行っても奇異の目で見られ、気味が悪いと石を投げられた。
それを、赤毛の伯爵様は可愛そうに思ってくださり、私に部屋を与えてくださった。
窓が1つもあり、ベッドもついてる石造りのお部屋。
伯爵様は部屋に入った日『危ないから一歩も出てはいけないよ』とニッコリ笑ってくれた。
朝昼晩と食事は頂けるし、働かなくて良いなんて。
私はきっと、この世で一番の幸せ者に違いない。
窓から一望できる小さな森は、季節ごとに色を変え、その中央にある泉は毎日見ていても飽きることはない。
時々だけど、鳥さんが窓に遊びに来てくれる。
私は取っておいたカケラを窓際に置いて離れると、鳥さんは嬉しそうに食べている。
いいなぁ鳥さんは。
私もアナタみたいに黒い髪だったら、空も飛べたのかな?
うわっ……鳥さん私の顔をつっつかないで。
それはまだエサじゃないの。
私は、早く伸びて欲しいと願って毎日眠る。
肩まで髪が伸びた頃、伯爵様がお部屋にやってきてくれる。
それは、私にとって一番嬉しい日。
忌々しい髪を、根本からスッパリ切ってくださるのだ。
おかげでしばらくは頭がスースーするけれど、大嫌いな髪を見なくて済む。
伯爵様は『もう全然伸びなくなってしまったな』と苦々しい表情で部屋から出て行ってしまった。
最近は忙しい、とよくおっしゃられる。
前は絵本を読んでくださったりしたのに、もう何年もしてくださらない。
でも、私は平気なんだ。
あんなに危ない外の世界に生きるのは、とっても大変なのだろうから。
きっといつか平和になったら外に行こう、と言ってくださったのを、今でも覚えている。
だいぶ前だから、あの時のお顔は忘れてしまったけれど。
笑顔だったことだけは覚えている。
ある日、外を見ると雪が降っていた。
どうりで寒いはず。
こんな日はいくら待っても鳥さんさえ来ない。
ベッドに潜り込んで、じっと耐える。
まぶたの裏でしか覚えていないお母さんも、よく言っていた気がする。
耐えていれば、きっといつか、いいことがありますよって。
ありがとうお母さん。
耐えたおかげで、伯爵様に拾われて、私はとっても幸せ。
冬でもパンとスープが食べられるのだもの。
お腹が空かないって素晴らしい日々よ。
春になろうかと言う日、伯爵様がやってきて、私をぶった。
「髪が伸びなくなったお前なぞ、もう外に出て行け!」
私、毎日寝る前にお祈りをかかさなかったのよ。
早く髪が生えて、伯爵様に会いたくって……
きっと明日になったら生えてくるからって、一生懸命頼んだ。
お願いだから、天国のようなここにいさせて欲しいって。
それでも、外に出されてしまった。
怖い……また石を投げられてしまうんじゃないかな。
じっと待っていたけれど、誰も髪が生えていない私を見て石を投げてこない。
なんてステキなんだろう!
髪がなくなったおかげで、お散歩をしても怒られない。
こんにちは、と声をかければ返してくれる。
お婆さんなんて『そんな手でどこに行くんだい?』なんて優しい言葉もかけてくれる。
行く場所は決まってる。
お母さんと住んでいた、あの家だ。
もう何年も飢え知らずで眠ってばかりだったから、ちょっと食べなくても平気。
ちょっと眠らなくても平気。
私は3日3晩、歩き通して住んでいた村に帰ってきた。
でもお家があった場所には、お母さんと同じ顔と髪をしているはずなのに、太った知らない人が住んでいた。
「なんだい、この丸坊主で気味が悪い子は。金が生めないヤツは用無しだよ!」
きっと思い違いをしてしまったのだろう。
私は他に覚えていることはない。
歩いた道を戻って、窓から見えていた森を目指した。
エサをあげていた鳥さんなら、きっと優しくしてくれる。
でも、森のどこを歩いても鳥さんは見つからない。
森の奥で見つけた泉を見ると、私じゃない私が映っていた。
髪がないって、こんなに怖い顔になるのね。
片目がないって、こんなに不気味なのね。
片腕しかないって、こんなにみじめだったのね……
涙が泉に落ちると、美しい女の人が出てきた。
わあ……初めて見たけど、金の髪ってとっても綺麗なのね。
「ごめんなさい、私の可愛い娘。さあ、もう悲しいことはないよ。こちらにおいでなさい」
その女の人の手を取ると、泉に引き込まれていく。
頭がふわふわすると思ったら、長く長い綺麗な金色の髪が伸びている。
潰れていた目も、落ちてしまって鳥さんのエサにしていた腕も、元通り。
すごいわ、この人は神様なのだろうか。
「泉で溺れ死んだ少女の代わりに、人間に差し出してしまったばっかりに……辛い想いをさせてごめんね」
どうして謝るのだろう。
私は幸せな記憶の方が多いというのに。
「汚い人間に育てられたけれど、とても綺麗な心を磨き上げたのね。アナタが戻ってきたのなら、もうここには用はないわ。この大陸一帯の泉も川も、なにもかも枯らして、天に帰りましょう」
きっとこの人の言うことなら、大丈夫なのだろう。
私はニッコリと笑みを返し、ずっとずっと一緒に幸せに暮らしました。




