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快晴――とまではいかないが、それなりに晴れた外。辺りは平原で、建物は一つも見当たらない。
それもそのはず。
わたしは、今、ヴィルフさんと共に城壁の外へと来ていた。
「……本当に、こんなところにあんのか?」
「多分、そのはず……」
冒険者の仕事が終わったヴィルフさんに今回の事件を伝え、そして研究書を探しに行くことを手伝ってもらうことになった。
この世界、城壁の外には魔物とやらが闊歩しているらしい。千年の内に随分物騒になったものだ。まあ、千年もあれば新種の生命の一つや二つ、生まれてもおかしくはないような気がするけど。
閑話休題。
研究書の行方をたどった結果、どうやら城壁の外に持ち出されたようだったのだ。誰がなんのために、と思わないわけじゃないけど、それを追及するのはイエリオさんたち研究員や民間警護団(現代の警察はこう呼ぶらしい。イエリオさんに教えてもらった)の仕事である。
わたしはただ、研究書が戻ってくればいい。
「こんな平地にあるとするなら……どっかにうまってんのか? ……まさかしらみつぶしに掘り返すとか言わねえよな?」
「ちゃんと魔法で探しますって。――捜索〈ティザー〉」
わたしが呪文を唱えると、ふわっと飛翔体が現れ、すーっと飛んでいく。探索〈サーチ〉の鳥、索敵〈サーヅ〉のトンボっぽいものとはまた違い、近しい見た目を上げるなら蝶だろうか。羽ばたき方は全然違うんだけど。
物を探す魔法、捜索〈ティザー〉は、発動者の所有物、もしくは記憶にある物体を探す魔法である。めちゃくちゃ便利なので、わたしはよく使う魔法だ。
ただ、探索〈サーチ〉や索敵〈サーヅ〉と違い、範囲が決まっているので、あんまりにも離れた場所に物が存在すると、途中で魔法の飛翔体が消えてしまい、そこから先は探せなくなるのだ。
故に、今は丁度魔法の飛翔体が消えてしまったあたりに来ていて、再度魔法を使っているわけだが……。
――べちん! と額に何かがぶつかるような痛みが走る。
「いってえ!」
わたしはとっさに額を押さえた。
本当はここまで騒ぐほど痛いわけじゃないのだが、あまりに驚きすぎて、思わず大声を出してしまった。
だってこれは……。
「え、嘘、弾かれた? なんで?」
おそらく、飛翔体が魔法を妨害する壁にぶち当たったのだろう。そういうセキュリティの壁自体は、シーバイズによくあった。
――そう、魔法が当たり前にある、シーバイズに。
魔法がロストテクノロジーとなった千年後の今、こんなものが存在しているのが不自然極まりない。
これだけハッキリわたしの魔法を弾いたのだ。千年前からずっとあって、今もなお残っているとは考えにくい。よっぽど複雑な魔法だったら、あり得なくはないけど、どうしてそんなものがこんな平原ににあるのか。
「おい、大丈夫か?」
わたしはヴィルフさんに声をかけられ、ハッとなる。いけない、こんなところでぼーっとしてる暇はない。
「……大丈夫です、多分」
魔法を妨害する壁なんて、いかにも怪しすぎる。その向こうに研究書があるのかもしれないが、その先に何があるのか分からない。
用心していかないと、と、わたしは唾を飲み込んだ。




