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「よいしょ、と……。ま、こんなもんかな」


 今日のわたしは珍しく、バイトもせず師匠のところにもいかず、かといって魔法の勉強をしているわけでもなかった。

 今日は両親の命日。だから、墓島に墓参りに来ているのだ。命日、と言っても、多分、本当に両親が死んだ日ではないだろうけど。船の転覆という、海難事故で行方不明になった両親。船が転覆する事故自体は、正直そこまで珍しくもない。前世で言う、車の交通事故くらいだろうか。正直、わたしもこの国に転生してから、二度ほど船の転覆事故に見舞われている。

 それでも、運悪く高波にさらわれてしまい。両親だけではなく、事故が起きたときに乗っていた乗客の半分くらいが未だに見つかっていない。

 正直、もう見つかることは諦めたけど。死体すら帰ってこないんじゃないかな、と思う。


 あの事故の犠牲者の家族で、未だに「まだ帰ってくるかもしれない」と墓すら作っていない人とは違い、わたしは早々に見切りをつけて、海難事故で行方不明になった人を死亡認定できる日が来たら、その一日目に死亡届を出してしまった。それが、三年前の今日。

 だから、暫定で今日が両親の命日。


 墓の掃除を終え、わたしは帰り支度をする。


「ねえ、ばーばのおはか、あっち?」


「違うわ。こっちのほう。もうちょっと先よ」


 そう言いながら手を繋いで歩く親子が、わたしの後ろを通っていく。

 墓島は、文字通り墓があるばかりの島。墓守が住んでいるくらいで、他に人はいない。だから、こうして人とすれ違うのは、ちょっと珍しい。ありえない話じゃないんだろうけど。


 それにしても……。

 今通った母親の方の女性。わたしとそんなに変わらない年齢っぽかったな。確かにわたしは結婚適齢期と言えばそうなのかもだけど……。


「……わたしも、結婚した方がいいと思う?」


 今しがた、掃除を終えた両親の墓に問いかける。当然ながら、返事はないが。


「まあ、相手がそもそもいないわけだけど……」


 恋愛にあまり興味がない。魔法の勉強が楽しいから、というのが一番の理由だけど……。なんというか、二度の転生を経て、あまりにもあっさりした性格になり過ぎたわたしは、恋人から「どうせオレのことなんてどうでもいいんでしょ!?」とキレられるのが簡単に想像がつく。恋人同士の、好きだからこその執着が、多分、相手に持てない気がする。

 そして、それが相手にも伝わって、不安にさせてしまう気がするのだ。

 それでもいい、っていう相手がいれば、付き合いたい、結婚したい、っていう気持ちがないわけじゃないけど……。


「ついでに、料理上手で、魔法の話にもついてこれて、男らしく腕っぷしが強く、でもある程度器用さがある人だとなおよし……って、そんな人いないか。無理無理」


 理想の人をばっさりと諦めて切り捨て、わたしは両親の墓に向き直る。


「それじゃあ、またね。結婚は無理かもだけど……それなりに楽しく暮らしてるから。あんまり心配しないで」


 そう言って、わたしは両親の墓を後にして。

 港で船を待ちながら、ちょっと雨降りそうだけど、まあ、夕飯の買い出しくらいなら大丈夫だよね、なんて考えていたのだった。

ご愛読ありがとうございました。

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