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翌朝。思ったよりも早く目が覚めてしまい、わたしはテントの中から出る。寝つきが悪かったのは、野宿が久々だからか、それとも皆との外出でちょっとテンションが上がっているからか。
テントから出ると、イナリが火の番をしているのを見つける。昨日の夜、思ったよりも早く見つけられそう、ということで、ウィルフとイナリが睡眠時間を半分ずつにして見張り番をしてくれることになったのだ。
それって体に良くないのでは、と思ったけれど、一晩くらいならどうってことないらしい。本当なら、もうちょっと休憩時間を伸ばして見張りも十分な睡眠を取れるようにした方がいいんだろうけど。
イナリは手元に集中しているのか、わたしがこっそり近づいても反応してくれない。何をしているのかと見てみれば、手元の小さいスケッチブックに絵を描いていた。また服のデザインを考えているのだろうか。
それにしても、ワンピース多いな……。
「……? ……ッ、な、何?」
あまりにも近づきすぎたのか、流石のイナリも気が付いて、こちらを向いてくる。キスができそうな距離感だ。……洒落にならない例えだな、これは。
「ごめん、何してるのかなーって気になって。あ、おはよう」
「……おはよ」
さりげなく適切な距離になるように離れながら、わたしは朝の挨拶をする。イナリもぎこちなく離れながら、わたしの挨拶に応えてくれた。
ふ、と空を見上げ、イナリが、「もうこんな時間?」とつぶやく。まだ少し早いけれど、十分に朝が来ていることに今気が付いたようだ。
「何描いてたの?」
「別に……なんでも……」
もごもごと口ごもるイナリだったが、わたしがじっと見ていることに耐えられなくなったのか、「君に着てもらいたい服を考えてた」と白状した。
「君、最後の晩餐はフィジャのご飯がいいんでしょ?」
「……言ったね、そんなこと」
「フィジャがあまりにも自慢するから、ちょっとうらやましくなって。ちょっとだけ」
……フィジャ、自慢してたんだ。全然知らなかった。
「僕も、って思ったら、僕ができることはこれだから」
「……また服作ってくれるの?」
服を作るのって、結構大変だと思うんだけど。料理も料理でそれなりに手間がかかるから、服と比べるようなものではないんだけど、それでも服は一日とかで完成しないだろうし。仕事をする傍らで、何日も製作するのはかなりの労力だと思う。
「君が着てくれるなら、何着でも」
それでも、楽しそうにイナリが言うのなら、断る方が逆に嫌がられるかもしれない。
「一杯着るよ。これから長い間一緒にいるんだもん。クローゼット、一杯になっちゃうかも」
わたしの部屋のクローゼットはそれなりに広い。だから、流石にそんなには作れないだろうと冗談のつもりで言ったのに、イナリが顔を赤くして本気になるものだから、冗談、なんて言えなくなってしまったのだった。




