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 生まれ変わってから、師匠に魔法を教わる時間が一番長かったからか、つい、師匠と話していると昔――千年前に戻ったような気分になってしまう。


「師匠のせいでこんなことになってるんですよ。師匠がなんとかしてください」


 人間ではなく獣人の姿に戻れたことで、周りから隠れなくてもよくなったが、現状がよくなったかと言えば全くもってそんなことはない。

 多少は煙が収まってきたけれど、依然周囲はパニック気味だし、そもそも『壁喰い』をどうにかしないとこの間のようにあっという間に街の中は地獄絵図になってしまう。


「もう何度言ったか分からないですけど、師匠の人間に対しての執着のなさを、他人にも適用して考えないで」


「……成程。つまり、そこの男たちが暴走したと」


 面倒くさそうに師匠が言う。


「三毛猫の女は、半殺しにしたから問題ないだろ……。それから……そこのクオッカ男は実験に付き合うと同時に実験場と実験台の提供だったか……。別に、あの実験室は勝手に使い続けてくれてよかったんだけどな……。熊の兄弟は……どうするべきだ? メネールも厄介な子孫を残したものだ」


 ぶつぶつと師匠が考え込むような素振りを見せながら物騒なことをつぶやいていく。

 ぼそぼそと思考を垂れ流しながら整理していた師匠が、「うん」とすっきりしたような声で爆弾発言をした。


「なかったことにするか」


「な、なかったこと……?」


「壊れた城壁も、この煙の惨状も、こいつらの願いも。全部きれいさっぱり元に戻す。ああ、クオッカ男の研究結果も、ぼくと出会う前に戻さないとつじつまが合わなくなるか」


 絶句した。まさかそうなるとは、と思っていたが、わたしを探すために世界を一度『なかったこと』にした男の言うことだと考えたら、ある種、当然なのかもしれない。

 多分、根本的に、師匠は普通の人と考え方が違うのだろう。千年前に師匠と話していて、その差が浮き彫りになったことはなかった。


 でも、今は違う。


「そんなこと……!」


「どうしてだ? この男はお前に害を与えた。そんな奴のことを、おもんぱかる必要はあるのか?」


 そう言われると、そうなのかもしれないけど……。

 ――でも。


「駄目です、師匠」


 わたしは、全てをなかったことに、なんていう提案を受け入れることができなかった。 

 だってわたしは――こっちに来てから、諦めたくない存在というものを、知ってしまったから。


 何をしてでも、望みを諦めたくないという彼らの気持ちを理解できるようになってしまったから。

 まあいっか、そうだよね、あっちが悪いんだから、と、割り切れなくなったのだから。

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