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「――っ、この! マレーゼを返せ!」


 しかし、その手がわたしの腕をつかむより先に、別の誰かがつかむのが分かる。そのまま、オカルさんの手を思いっきり引っ張りながら、反対側の手で殴った。


 イナリだった。本物の。


 かなりの勢いだったから、相当痛かったのだと思う。少しうめいたと思ったら、オカルさんは倒れこむ。


「大丈夫!?」


「だ、大丈夫――……じゃ、ないかも!?」


 イナリに平気だと返そうとしたところで、なんだか違和感を覚え、わたしは慌てて手を頭の上にやった。


 ない。耳がない。

 変態〈トラレンス〉までもが解けてしまっている。多分、先ほどの身体強化〈ストフォール〉を使おうとしたときに、魔力の配分がぐちゃぐちゃになってしまったのだろう。もう一度かけ直そうにも、この状況じゃどうしようもない。


 魔力の枯渇により襲って来た眠気が、一気に吹っ飛んだ。


「け、怪我はないけど、耳が……!」


 しっぽは元よりスカートに隠れているから、なくなったところでバレないだろう。でも、耳は目立つ。すぐにわたしが人間であることがバレてしまうだろう。


 人間は王族や貴族の元へ。

 それが獣人の暗黙のルール。今更、こんなところで、そんな今起きていることと関係ない問題で皆のところから離れないといけなくなるなんてこと、ある!?

 今はまだ、煙が充満しているからわたしのすぐそばにいるオカルさんやイナリたちにしか分からないだろう。でも、この煙が広まる原因になったオカルさんがのされた以上、この煙がなくなっていくのは時間の問題だ。

 わたしが頭を押さえ、耳が、と言ったことで、何が起きたのか察したのだろう。


「何か隠すもの……、ええい、イエリオ、その白衣貸して!」


 イナリは手早く、イエリオの私服と化している白衣をはぎ取った。それがわたしの頭の上からかぶせられる。まるで、前世のニュースで見た、逮捕される犯罪者が顔を隠すためにやっているようなアレに似ていた。


「とりあえず一旦隠すとして……、ここから離脱しないと……」


「え、ええ? 大丈夫? さっき避難の点呼してたでしょ、抜けたってばれない? 怪しすぎでしょ、爆音と煙の犯人だと思われるよぉ」


「バレる! 犯人にされる!」


 心配そうに言うフィジャに、イナリが即答した。なんとかごまかせるよ、じゃないんだ……。でも、冒険者を知っているイナリが言うのなら、そうなのだろう。


「でも、このままじゃ確実にマレーゼのしょ、……ことが知られちゃうから……!」


 正体、と言おうとしたのだろう。イナリはすぐにもごもごと言い直した。

 魔法が使えれば。でも、煙がなくなってすぐに魔法が使えるようになるかすら分からない。そもそも、どうやってこの煙がわたしの魔力を吸ったのかすら理解できてないんだから、対処のしようもない。

 逃げるべきか、煙が晴れてから変態〈トラレンス〉をすぐにかけ直すことに賭けるべきか。


 迷っているわたしに、今、聞こえるはずのない男の声が、耳に届いた。


「けほけほ。なんだい、これ。火事……じゃないな。……魔力集めの灰をぶちまけたのか?」


 …………えっ、師匠?

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