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でも、実績が欲しかった、というのなら既に叶っているのではないだろうか。イヌは隣の街でだいぶ人気が出ている。確かにオカルさんもいるこの街では飼っている人を見かけたことはないけど……。
「……再現性がないのかもしれませんね」
口元に手をやり、考え込んでいたイエリオが、ぽつりとつぶやく。
「え?」
「貴女の師匠の協力なしでは魔物を弱体化させたり、ペロディアをイヌにすることができない。だから、貴女の師匠の協力が必要なのではないでしょうか?」
イエリオの推測には、一理あった。
「この論文を見て、私はおかしいと思うところはないのですが、実際にやってみると、何か問題があるのかもしれません」
「つまり、この理論を成立させ続けるために、師匠が必要だから、今こうしている、と……?」
「いえ……それは……」
イエリオが少し口ごもる。そして、言いづらそうにしながらも、「私は少し、違うと思います」と口にした。
「貴女の師匠なしでも、この理論を成立させるために、今もなお、研究を続けているのではないでしょうか。でも、まだ、結果が出ていない。だから、こうして行動してしまっているのだと、私は思います」
「いえ、そうであってほしいと、私が願っているだけですけれども」とイエリオは付け足した。
「悪に手を染めたとしても、成し遂げたい研究があったのなら、最後まで、やりぬこうとする姿勢であって欲しいんです。……実害が出ている以上、あまりこういうことを思うことすら、良くないのでしょうが」
そう言うのは、彼が同じような職に就く人間だからだろうか。きっと、悪いことは悪いことだと分かった上で、どこかオカルさんの行動を理解し、同調してしまうところがあるのかもしれない。同じように行動することはなくとも、気持ちだけは分かる、と。
「――そう思うなら、マレーゼさんを譲って欲しいんすけどねえ」
わたしたちのすぐ近くから、オカルさんの声が聞こえてくる。思わずそちらを見れば、オカルさんが立っていた。
突然の登場に驚いて動けなかったわたしだが、イエリオは、「それとこれとは話が別です」と、すぐにわたしの前に立つ。
わたしたちが壁際にいるから、前からくるしかなかったのか、それとも――堂々と登場して、何とかなる算段があるのか。
「一応、聞くだけ聞くっすけど。大人しくマレーゼさんを渡してくれる、なんてことは?」
「ありません」
即答だった。師匠を脅すのであれば、死ぬようなことにはならないと思うけれど、何をされるか分からないのは、事実。
わたしだって、皆の側からいなくなるつもりは毛頭ない。
「そうっすよねえ……ホント、残念っす」
オカルさんが、そう言った瞬間。
――ドォン!
わたしたちが避難している冒険者ギルドの支所の玄関から、大きな爆発音が聞こえてきた。




