表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

461/493

455

 走ってきたのか、珍しくウィルフの息が上がっている。ここまで呼吸が乱れているなんて、初めて見た。

 それでも、わたしは、もう大丈夫なのだという安心感が強くて、ウィルフの背中の、服の裾を思わず握る。でも、手が震えて、上手くつかめない。


「――っ、先輩。うちのに、何か、用ですか」


 息を整えながら、ウィルフがベイカーさんに問う。ウィルフが壁になってくれているから、ベイカーさんの表情は全く分からないけれど、ウィルフが警戒を解いていない様子からして、あまりいい表情はしていないんだろう。


「そこをどけ、ウィルフ」


「断る」


 ドン、とウィルフに突き飛ばされる。数歩、たたらを踏んでウィルフの方を見ると、ベイカーさんがウィルフに殴りかかっていた。力づくでも、わたしを、師匠への脅迫材料として手に入れるつもりのようだ。


「っ、身体強化〈ストフォール〉……!」


 わたしは慌てて、自分に魔法をかける。加勢するつもりはないし、二人の戦いにその隙はないが、わたしを欲しているのはベイカーさんだけではない。まともに避けたり逃げたりできないままでは駄目だ。

 わたしが逃げられさえすれば、ウィルフはウィルフでなんとかしてくれるはず。


「ティカー!」


 短く名前を呼ばれた、ベイカーさんの隣にいた男が、わたしを捕まえようとこちらに近づいてくる。


「させるか……っ」


「――ぐっ!」


 ウィルフがベイカーさんを、男――ティカーさんの方へと、投げ飛ばす。ベイカーさんは投げられながらも体制を整えていたが、巻き込まれたティカーさんは、それほど戦闘力がないようで、地面にふせったままだ。ただ、気を失った、ということではないようで、ゆっくりながらも、起き上がろうとしている。


「にげ――」


「マレ、ゼ」


 ウィルフの声にかぶさるようにして、イナリの声で、フェネックもどきがわたしを呼ぶ。でも――こんなに、大きな声、だっけ?

 地面から上半身を起こした状態のティカーさんの影から、フェネックもどきが姿を現す。


 しかし、その様子は、異常だった。

 パキ、パキ、と音を立てながら、フェネックが大きく、歪に変形していく。フェネックのような可愛らしい見た目など、もはやどこにも原型はない。


 まさに魔物と言うべき生き物。


「な――、何で、こんなところにバードンが……ッ!」


 ウィルフの焦る声。ベイカーさんの方に気を取られていて、ティカーさんの足元に隠れるようにしていた、あのフェネックもどきには気が付かなかったのだろう。

彼の様子からして、ペロディアみたいな、弱い愛玩の魔物ではないのが分かる。


「もう一度、言う。その女を渡せ、ウィルフ。俺には、俺たちには、そいつが必要なんだ。――……願いを、叶えてもらうために」


 そう言うベイカーさんの背丈を、大きく超えるほどまでに、フェネックもどき、もとい、バードンは、成長していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ