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しかし、その言葉で、あの小学生の必殺技みたいなネーミングセンスの呪いの魔法を使ったのが、本当に師匠だと分かってしまった。
「でも――そうか。ぼくは間違えたんだな。なにもかも」
世界を滅ぼして。
ずっと探して。
見つけて、取り返せないことに絶望して、呪って。
師匠は自虐するように、そう言った。
わたしはそれを否定することも――逆に、同調することもできなかった。
確かに、師匠は間違っていた。
だからといって、千年わたしを探し続けた彼を、非難することは、わたしには出来なかった。所詮、彼と言う人間への憧れを捨てきれない、ただの魔法使いだから。
「イエリオを、解放してくれますか」
今しかない、とわたしは師匠に頼み込んだ。彼が魔法で眠らせたのなら、師匠にしかどうしようもできない。
人間を眠らせる魔法、もしくは意識を奪う魔法はいくつか心当たりがあるし、解除するための魔法も知らないわけじゃないけど、師匠の魔法を打ち消せる気はしない。
結局、何があっても、魔法と言う分野では師匠に叶う気がしないのだ。
――が。
「それとこれとは話が別――と言ったらどうする?」
言っている内容こそ、悪役そのものだったが、でも、表情からは、本気で言っている様子は全くない。冗談を言っているようにしか見えない。
「ぼくはお前に惚れていて、そこの男がいなくなれば、お前に懸想している奴が一人減る」
「そうなったところで、わたしはイエリオを連れ帰って、ベッドの上で眠る彼を世話するだけです。仮にわたしの夫の席が空いたところで師匠は座れません」
こういうのは、下手に希望を持たせない方がいいのである。
「わたし、師匠に彼女が出来ても祝福できますから」
トドメ、とばかりに言い切った。
師匠は本当に世話になっていて、憧れの人だ。しかし、敬愛こそすれ、わたしが彼と共に、人生を歩む姿は想像出来ない。
イエリオたちと、師匠、両方好きだと言えるけれど、決定的な違いはそこである。
誰かに奪われても平気なのか、否か。
散々悩んできたことへの終止符を打ったのがそれだったので、わたしにはそれが一番判断基準にしやすい。
フィジャも。
イエリオも。
ウィルフも。
イナリも。
誰一人、欠けずに、あの家に返ってきてほしい。わたしの元にいてほしいし、わたしは彼らの手を離したくない。
でも、師匠は、別の女が彼の隣に経ったところで、祝福できる。本当に、心から。
「世界を滅ぼしてまで君を探した男の求愛を断れるとは――本物だな」
どこか呆れたように、師匠は言った。




