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――……目を覚ますと、全然知らない床が目に飛び込んできた。
……――。
……いや、目を覚ますと、って何? しかも床? 意味が分からない。
さっきまで屋外にいて、ピスケリオと話していて――そうだ、イエリオの姿が見えなくなって、探して。……その後の記憶がない。気を失って、そのままここに運ばれたんだろうか。
でも、気を失うようなことはあったか? ピスケリオとの会話に夢中になって魔物に気が付かなかったとか……。
それにしては怪我をしていないし、イエリオの悲鳴も聞いていない。どこか食べられていたということもないし、この部屋が魔物の住処だとは考えにくい。
わたしは辺りを見回す。どこかの一室。一般的な――シーバイズ様式の部屋。家具のモデルルームみたいな、家具や生活に必要なものが全て配置されているのに、生活感が全くない、不思議な空間で、同時に、ちょっと埃っぽい。
というか、シーバイズ様式? なんで?
わたしは焦りと緊張に襲われながらも、部屋の中を歩き回る。拘束がされていないのは不幸中の幸いだが、窓がなく、扉に鍵がかかっていて、外の情報を得ることは出来ない。
――落ち着け。
ピスケリオは、わたしが過去に帰ることができない、と言っていた。精霊である彼女がそう言うのなら嘘じゃない。だからきっと、ここはフィジャたちが生きている時代。……場所がどこなのか、全く想像つかないが。
「とりあえず外の様子が見られれば……あ、そうだ。ええと――探索〈サーチ〉」
飛翔体を飛ばして、外の様子をうかがうことが出来れば、と思ったのだが……。
「なにこれ……」
探索〈サーチ〉で飛ばした飛翔体は、天井の付近をぐるぐると周っているだけで、一向に外へ出ようとしない。
何か、魔法が妨害されるようなものがある、ってこと……?
もしかしたら、この壁自身が、探索〈サーチ〉の飛翔体を通さない素材で出来ているのかもしれない。わたしは実物を見たことがないが、王城や貴族の館なんかは、そういった素材で建てられている、と聞いたことがある。
今いる場所と、イエリオの無事だけでも確認したかったが、探索〈サーチ〉が使えないならどうしようもない。わたしは魔法を取り消す。天井付近をぐるぐる周っていた飛翔体が弾けて消える。
魔法自体は使えるみたいだから、身体強化〈ストフォール〉を使って扉を壊し、物理的に外へ出るしかないか? なんて考えていると――。
――コツ、コツ、コツ。
扉の外から足音が聞こえてきた。扉の外は広い空間なのか、妙に足音が響いている。
わたしはさっきまで座っていた椅子を持つ。いざというときは武器か盾にしよう、と。
ガチャリ、と鍵が外され、扉が開く。その、扉を開けたのは――。
「あれ、もう起きたんすね」
間違いなく、オカルさんだった。