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その日は、いつも以上に、にこにこと笑うイエリオが、珍しくお酒を飲みませんか、と皆に声をかけていた。
この家に移り住むようになってからも、みんなの休日と予定が会えば飲み会を開催することはあったけれど、イエリオが言い出すのは珍しかった。いつもは大体、おつまみ料理を量産したくなったフィジャか、お酒が飲みたくなったイナリが発端になることが多い。
上機嫌に、わざわざお酒まで買ってきたイエリオにどうしたのかと聞けば、「例の塩湖の再調査の申請が通ったんです!」と満面の笑みで教えてくれた。
「塩湖って……前に話していたやつ?」
「はい!」
シーバイズ料理の話になった際、シオイモやエンエンマメがあるかもしれない、と話題になった塩湖のことか。本当に申請が通ったんだ。
「あの辺りはまだ未調査の場所も残っていましたから。日程は決まっていませんが、決まり次第、マレーゼさんも同行してもらってもいいですか?」
「わたしはいいけど……」
きらきらと目を輝かせるイエリオに、「えぇー」と不満そうな声を上げるのは、飲み会用の料理を運んできたフィジャだ。
わたしの雇い主、というほどガチガチの関係でもないけれど、でも、今わたしはフィジャのお店を手伝っているので、フィジャがダメ、と言えばちょっと行きにくい。
「おや、店の方は忙しいですか? ある程度時期をこちらで指定することは出来ますが……」
最近は暇、というほどでもないけれど、開店当初の忙しさはないほど客足は落ち着いているので、一人で回せると言えば回せる、かもしれないが、それはそれで大変そうである。
客席自体が少なく、店の面積も広くないので、対処のしようはあると思うが、それでも何日も続けばまいってしまうだろう。
「店はなんとかするけどぉ……。どのくらい、いないの?」
「予定では三週間ほどの調査になりますね。場所自体はそこまで遠くないですし」
「三週間も!?」
フィジャが驚いたような声を上げた。
三週間。結構長いな。野宿は何度もしているから、抵抗はないけど。
「三週間もいないのか……さみしいな」
そんなことを言いながら、しかし、手際だけはよく、フィジャはテーブルの上をセッティングしていく。
「いつも一緒に働いているんだからいいじゃないですか。日中、マレーゼさんと一番多く一緒にいるのはフィジャですよ」
そうイエリオが言うと、フィジャは不満そうにしながらも、反論をやめた。確かに、自宅兼店舗で一緒に働いているとなると、どうしても一緒にいる時間が長くなる。
それに思うところがあるのだろう、フィジャから許可が出て、わたしはイエリオの調査へと同行することになった。
――余談だが、本日の飲み会も、一番楽しそうに騒いだのは、やっぱり酒乱のイナリだった。




